337.準備

 ヒールベリーの村。


 朝ご飯を食べてからディアとマルコシアス、ウッドは散歩をしていた。


 なんとなく、村全体が陽気になっている気がする。


「ぴよー。本当にあったかくなってきたぴよ!」

「北にいたから、なおさらそうなんだぞ」

「ぴよ! ひんやりしてたぴよねー」

「ウゴ、こことは大分違う?」

「ちがうぴよよ、白いぴよ!」


 ぴっとディアが羽を上げて、


「あっちからこっちまで、ぜーんぶ白いぴよ!」

「雪ってやつだぞ」

「ウゴ! 本で読んだ! 本当に白い?」

「本当に白いんだぞ。あと……柔らかいんだぞ」

「めりこむぴよ」

「……ウゴ?」

「ばびゅーんでめりって行くぴよ。でもかあさまだから、セーフぴよ」

「セーフなんだぞ」

「ウゴ……わかった、なんとなく」


 ウッドは頷いた。

 ステラの性格はウッドも把握しつつある。

 普段はクールなんだけど、火が付くと燃え上がるのだ。きっとそのままのノリで雪原に繰り出したのだろう。


 ぴよぴよと三人が歩いていると、馬車の前でそわそわしているナールとニャフ族がいた。


「ぴよ! なにかあったぴよ?」

「にゃにゃ! ……春の売り物を仕入れたのですにゃ、重くて動かせないのですにゃ。人手待ちですにゃ……」


 ナールがとほほ、という感じで困っていた。

 たまに梱包をまとめすぎた荷物が届くのだ。こうなるとニャフ族には厳しい。応援の冒険者達が来るまで待機である。


「ウゴ! やろうか?」

「いいのですにゃ!?」

「「にゃー!」」

「ウゴウゴ、運ぶのなら任せて!」


 ウッドのパワーは皆も知るところである。馬車からどんどん荷物を出していく。


 その最中もナールやニャフ族は、なんだかそわそわしていた。尻尾がゆらーっと揺れている。


「ぴよ。落ちつかないぴよ?」

「皆、そわそわなんだぞ」

「にゃ……レイアが騒いでいましたのにゃ……」

「いつもテンション高めぴよ」

「にゃ、それはそうなのですにゃ……」


 ナールは言いにくそうに、マルコシアスの耳元でごにょごにょ話す。内容はお見合い会がどーたらこーたらということである。

 それを聞いたマルコシアスは、ふんふんと頷く。


「だぞ……つまり恋の季節なんだぞ!」

「恋……本に書いてある、あれぴよ!?」

「あれなんだぞ!」

「お花をプレゼントするとよろこぶ、あれぴよ!?」

「あれなんだぞ!」

「さいごにお花を投げる、あれぴよ!?」

「それなんだぞ! ……だぞ?」

「多分、ウェディングブーケにゃ」

「それぴよ!」


 ディアが一息ついて、


「つまり恋の季節がはじまる、ということぴよね!」

「レイア主導でだぞ」

「ぴよ……!? お疲れ様でしたぴよ」

「にゃ、レイアはそーいうのはちゃんとやるにゃ……多分」

「それはうたがわないぴよ」

「でもきっと芸術性が違うんだぞ」

「……いい言葉にゃ」


 ナールが遠い目をしながら、思い出していた。

 雪の降るザンザスで自作のコカトリス着ぐるみを着込み、関節部に雪が入ったと騒ぐレイアの姿を――。


「ほう、連絡があったから来てみたら……私の荷物も到着のようですね……!」


 すすーっと現れたのは、にこにこ顔のレイアだ。

 ナールがくるっと振り返り、


「にゃ。奥の方に来てるにゃ」

「ウゴウゴ、もうすぐ取り出せる!」

「ありがとうございます!」


 きらきら瞳のレイアを見て、ナールが軽くため息をする。


「今度はなんにゃ……?」

「ザンザスのお祭りで使った着ぐるみを、少しこちらに移動させたのです」

「なんでにゃ?」

「お見合い会で使おうと……ほら、顔を出したくないとかそーいうのも、あるじゃないですか?」

「……ぴよ」

「……だぞ」

「にゃ……凄い気遣いはありがたいけど、ちょっとにゃ……」


 ニャフ族はにゃにゃーとちょっと引いていた。


「ふむ。何人かは乗ってくれたのですが……」

「乗ったのにゃ?」


 ナールの言葉にレイアが胸を張る。


「ええ、やっぱり運営側は顔を出すのは控えないとね!」

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