325.新たな展開

 翌朝。


 遠くでかすかに小鳥の鳴き声が聞こえる。

 カーテンを透かして、朝の光がリビングをうっすらと照らしていた。


 んむ……昨夜はソファーで寝たんだったな。


「すやー、ぴよ……。マルちゃん……でんぐり返し、できてるぴよ……」

「すやー……だぞ。これも成長だぞ……すやー……」

「ウゴ、起きた?」

「――ああ」


 目をしょぼしょぼさせながら答える。

 俺は状況を把握した。


 ウッド達もソファーに集まっているのだ。

 俺の隣にはウッドが、ステラの体の上にはディアとマルコシアス。


 かなり大きいソファーではあるが、みっちり集まっている。


「こっちに来てくれたのか、ありがとう」

「ウゴ、気にしないで」


 隣にいるウッドに寄りかかる。

 木の温もりがする。


「んっ……」


 ステラが目を開けるが、いつも通りすぐにはスイッチが入らないようだな。

 ぼーっとしている。


 そして俺は――。


「……悪いがそこにヒールベリーを生やすから、取ってきてもらえるか?」

「ウゴ……? 大丈夫? どこか痛いの?」

「いや、大したことではないんだが」


 歯切れの悪い俺の言葉で、ウッドが察したらしい。


 ありがとう。ちょっと俺からは言葉にしづらかったので助かる。


「……ウゴ。足、痺れた?」


 バレたか。俺は静かに頷いた。


 ◇


 ちょっとして、全員起きてきた。

 久し振りに家族全員で朝ご飯を食べる。


「うまぴよ! はふはふっ!」

「からっ! うまだぞ!」


 ステラの提案で朝から野菜とベーコンの辛味炒めである。

 向こうでは作れなかったので、料理したいとのことだったのだ。


「ピリッとした辛さがたまらないな……」

「ウゴウゴ、おいしい!」


 ステラもるんるん気分で自作の料理を食べている。


「向こうではさすがに、料理は出来ませんでしたからね……」

「お野菜の種類もそんなになかったんだぞ」

「雪国だからな……。貴族が揃えるのにも限度はあるだろうし」


 そんな感じで朝ご飯をぺろりと食べる。

 ふむ。心なしかディアとマルコシアスの食べる量が増えているな。

 きっと成長しているからだろう。


 それから片付けをして、芸術祭から得たことを色々と考えていく。


「まずは諸々のお礼状だな。特にソリのお礼はきちんとしないと……」

「かなり高価でしたからね……。びっくりです」


 イスカミナもナナも、あのソリは金貨七十枚の価値があると言っていた。

 ドワーフ産出の良質なミスリル、熟練の着ぐるみ鍛冶による加工……大貴族が使ってもおかしくない高級品らしい。


 あとはホールド兄さんや来てくれた貴族達、ザンザスにも……と。


 とはいえ、実際のお礼状の執筆はナール配下のニャフ族に任せられる。

 こうしたお礼状は代筆者にやってもらうのがこの世界でも一般的だ。

 そうでないと、とても終わらないからな。


 イグナートとホールド兄さんへは直筆がいいだろうが……。


 あとは花の購入とか、具体的な引き合いは早く進めたいな。

 この辺はナールとも相談しないといけないが。


 時計を見ると、もうすぐ村全体が動き出す時間だ。

 これ以上はちゃんとした執務室でやったほうがいいだろうな。


「……よし、そろそろ冒険者ギルドに行こうか」


 お仕事の時間である。


 ◇


 一方、その頃――。


 ホールドは思うところがあって帰りに五大貴族、ルイーゼの屋敷へと寄っていた。


 ここは『半身の虎』の購入先である。


 豪華な応接間に通されたホールド。

 ちょび髭を弄りながら待っていると、ルイーゼが軽い調子で現れる。


「よー、久し振りだなー」

「ふむ……。元気そうだな」


 ホールドの言葉にルイーゼが八重歯を見せながら、


「『半身の虎』でなんかあったんだって? 噂で聞いたぞ」

「抜け目ないな……」


 その程度の情報網は持っているか。

 だがそれは想定内である。


 ルイーゼは特に悪びれることもなく、ホールドの向かいに座る。


「よっこらせっと。それで文句言いに来たのか?」


 その言葉に、ホールドはちょび髭を触りながら答える。冷静に、ゆったりと――地を這う蛇のように。


「……いいや。むしろ、ルイーゼが心配で来たんだが?」

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