294.穏やかな夜更け
ヒールベリーの村。
俺とウッドはお風呂から上がってほかほか、寝る体勢に入っていた。
「ウゴウゴ、気持ちよかったー」
「そうだな。新しい入浴剤もなかなか良かった」
今日使った入浴剤はザンザスの薬師ギルドが売り出している商品だ。
肩こり、腰痛に効く魔物素材がほんのり入っているらしい。
「ウゴ、ハーブの匂いもした!」
「それも入っているようだな……。安らかな気分になれる」
「ウゴ、また使いたい」
「俺も気に入った。取り寄せておこうな」
ウッドも日向ぼっこやお風呂が好きなのは、きっと俺の影響だな。
日々のこうしたことに楽しみを見出すのは大切だし。
紅茶を用意してリビングのソファーに二人して腰掛ける。
お風呂上がりの紅茶は最高だ。ゆったりと寛げる。
「そういえば、今日の戦闘訓練はどうだった?」
「ウゴウゴ、色々教えてもらったよ。えーと……剣とか弓とか」
「色々教わったんだな。どういう感じなんだ?」
それからウッドも上機嫌で話し始めた。
様々な木製の武器を持ち替えて訓練をしたらしい。
アラサー冒険者いわく、ウッドはもう身体能力的にはAランク冒険者を超えている――ということだ。
でも戦闘技術はまだまだこれから。
実際、組手をするとアラサー冒険者とハットリにはまだ敵わないとのことだった。
「ウゴウゴ、あの二人は凄いね。動きが見えるんだけどついていかない」
「あの二人はザンザスでも別格ぽいからな……」
あとはレイアも相当強いんだろうが。俺が見てきたレイアは、ぬいぐるみを手にしている時間のほうが圧倒的に長いからわからないけれど。
「ウゴ、かあさんが戻ったら色々聞いてみるといいよって言われたけど……」
「ふむ……そうだな。ステラなら何でもできるし、剣なら俺も教えられるし」
俺も筋はいいらしいが、実戦経験はなかったりする。やはり一番は冒険者に聞くことだろうな。
「ウゴウゴ、じゃあ明日の夜とか教えてくれる?」
「ああ、大丈夫だぞ」
ウッドとそんな話をしながら、夜は更けていく。
そして話題はステラ達のことに移り変わっていった。
「ウゴ、かあさん達大丈夫かな?」
「まぁ……ホールド兄さんもナナもいるし、大丈夫だろう」
ステラは普段はクールだけど、自分の好きなことにはノリノリになる。
若干の不安はなきにしもあらずだが、完全に知らない人のなかに行くわけではない。
なんとかなるだろう、うん……。
「芸術祭が終わったら、もう春だな」
「ウゴ! 暖かくなるね」
「それにマルデ生物や地下通路、他にも様々な商品があるからな。春からもやることは結構あるぞ」
「ウゴ、楽しみ……!」
あとはザンザスから水運の話も出ていたな。
直接この村に関係するかというと、アレかもだが。
それと……家督の件も気になる。
俺の兄はあと一人。ヴィクターだ。
ぶっちゃけ、今ヴィクターが何を考えているか俺にはわからない。
いくつかの出来事を思い出しても、割と行き当たりばったりな生き方をしてる人だった。
いきなり俺も含めた弟達を連れて裏庭に繰り出したり……俺の部屋にやってきてこの本を読めと渡されて、代わりに他の本を借りていったり……。
でも要領は良くて父や執事、メイドに叱られることはなかったと思う。
子どもの頃から学力と魔力に優れ、特別視されていた――はずだった。
ぽむ。
そんなことを考えていると、ウッドの手が俺の肩に置かれる。
「……ウゴ。とおさん、難しいこと考えてる?」
「あ、ああ……そうだな。ちょっと考え事をしていた」
俺は軽く首を振る。
どうも実家関係を考えると、深く入れ込んでしまうようだ。
肩に乗ったウッドの手を俺は撫でるようにする。
ちょっとゴツゴツしてるけど、確かに温もりがある。
「……そろそろ寝ようか。明日も地下通路の探検があるからな」
「ウゴ、そうする!」
ウッドが上機嫌に綿を生み出す。
いつもの綿ベッドだ。
遠くでふくろうの鳴き声が聞こえてくる気がする。
最近は晴れの日も増えてきた。
紅茶を片付けて二人して綿にくるまり、寝る体勢に入る。
ほどよく体には熱が残り、すぐに眠気がやってくる。
「じゃあおやすみ、ウッド」
「ウゴ、おやすみー!」
そうして今日も一日が穏やかに過ぎていくのであった。
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