287.準備、できました

 大聖堂。


 ステラ達はせっせと芸術祭の準備をしていた。

 ディアがすすーっと枝を持ちながら、土台に刺していく。


 足元には組み立て図の紙が置いてある。

 それをみながらパーツを適切に配置していくのだ。


「……ぴよ」


 ぶすっ。思い切りが大切だ。

 そして――つんつん。簡単に動かないか確認。

 大丈夫そうだ。


 ナナの移動式花飾りはうまくいっている。


「ぴよ……!」


 ぶすっ……つんつん。

 一本ヨシ。

 ぶすっ……つんつん。

 二本ヨシ。


 こんな感じで進めていく。とはいえ、昨日の時点でもう半分はできている。

 これは土台作りも含めてだから、余裕のある進行だった。


 ステラとマルコシアスはそれ以外を担当している。


「バット、うん……。これは試し振り用のバット……。こっちは見るだけバット……」


 ステラがふむふむと頷きながら、バットを一本一本置いていく。


 大聖堂には最低限の土台しかないため、飾る台や説明文とかは全て現地で設営である。

 鑑賞者の動きや目線を考えると、やることは多い。


「このパンフレットはこっちでいいんだぞ?」

「ええ、お願いします」


 マルコシアス――否、マルシスもナナが取り出した資材を振り分けている。主にパンフレット等の宣伝素材だ。


 ニャフ族が書いてくれた、鮮やかで丸っこい字のパンフレットである。


「このユニフォーム、動きやすいんだぞ」


 久し振りの二足歩行、少女姿のマルコシアスが腰をひねる。さすがに人の姿でないと手が活用できないからだ。


「ええ、腕や腰回りもゆったりです。単純に楽ですね」


 ドワーフの人達は、展示物と展示物を区切る立ち入り禁止線を作っている。こちらも問題はないようだ。


「んん〜、もう少しで取り出すのも終わりそうだよ」


 着ぐるみの姿のナナがぐっと体を伸ばす。


「ありがとうございます……! 思えばかなり大変でしたね……」

「そうでもないさ。魔力はなかったからね。バットや花飾りに囲まれながらお昼寝すればいいんだから」

「あんまり楽な気はしないんだぞ」

「倒したドラゴンを持って帰るよりは、断然楽さ」


 ナナが肩をすくめる。

 人里離れたところで魔物を倒しても、それで終わりではない。可能な限り持ち帰って、やっと大きな稼ぎになる。特にドラゴンの鱗や牙、骨は良質の素材であり高値で取引される。


「懐かしいですねぇ……」


 巨大な魔物を討伐した際は、ときには周辺の村人総出で運び出すのだ。

 しかしステラは面倒なので、倒した魔物はたいていそこに置き去りにしていった。


 一人旅にさほどお金はいらないし、最低限の素材さえ持ち帰れば良かったのだ。


 ……いくつもの村が、秘かにそれで恩恵を受けていたが。


 それから数時間、ステラ達は手を動かし続ける。

 花飾り、野ボール用品、ドールハウス。


 レイアはザンザスのほうに掛かりきりなので、なかなか顔を合わせられない。

 しかしドールハウスの配置もちゃんと紙に書いてあるので、そのとおりにしていく。


「こんなものでしょうか……!」


 お昼前には、展示物がででーんと並び切っていた。

 あとは微細な調整だけ……のはずである。


「ぴよー。なかなかきんちょーしたぴよね」

「よしよし、だぞ。頑張ったんだぞ」

「ありがとぴよ!」


 すでに子犬姿に戻ったマルコシアスが、ディアの頭をぽむぽむと揉む。

 それをふにーっと受け止めるディア。


「どうぴよ?」

「完璧ですね……!」


 組み立て図と見比べたステラがサムズアップする。

 ステラはやはり、ディアは物覚えが良いと再確認する。

 間違いもなく、村から持ち出した通りである。


 ナナが展示物を見渡しながら、


「思ったより早く終わったね。本当なら今日の夕方まで掛かるかなというところだったんだけど」

「スムーズに行きましたね」

「お昼食べても時間余るんだぞ?」

「ええ、明日まで待機でも大丈夫かとは思いますが……」


 そこにトコトコとオードリー、クラリッサとその従者達が現れる。


「わぁ、とっても素敵ですね!」


 きらきらと目を輝かせたオードリーがステラ達に呼びかける。


「こんなに独創的な花飾りは、見たことありません……!」


 クラリッサもうんうんと頷く。二人の後ろに控えている執事は巨大なコカトリスぬいぐるみを持っていた。


 ステラは彼女達がザンザスのブースに行って、持たされたものだと考えた。

 よくよく見ると、後ろのメイドも何か持ってたり肩にかけたりしている。


 おそらく、勉強のために各ブースを回っているんだろう。

 芸術祭が開催されると、ホールドの身内である二人は忙しくなるだろうし。


 ステラがオードリーとクラリッサに展示物を勧める。


「もっと近くで見て行かれます?」

「いいのですか? ご準備のほうは……」

「だいたい終わったんだぞ。皆で頑張ったんだぞ」

「ぴよ! さきにみていくといいぴよ!」

「そうだね。ホールドにも見てもらうけど……二人の感想も聞きたいな」


 そう言われて、オードリー達が嬉しそうに頷く。


「それじゃ、お言葉に甘えます……! まずは何からでしょう?」

「そうですね……。まずはこれです!」


 ばばーん。


 まずステラが指し示したのは――。


「ヒールベリーの村の特産品、植物を大量に使った芸術品! 花飾りです!」

「ぴよ! じかん、かかったぴよよ!」


 そこでステラがえへんと胸を張る。


「村の数人で作りましたが、息子のウッドもひとつ作っています……!」


 ちょっと親馬鹿だった。

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