278.担いで帰る

「狭い……それは地下空間のことだよな。やはり、そうなのか」


 違和感はそれか。

 言われてみると、地下空間全体が一回り小さい気がする。


「もぐ。目測もぐけど、一割くらい小さいもぐ。詳しくは測量が必要もぐ」


 イスカミナの能力には信頼を置いている。その辺りは後でちゃんと調べてもらうか。


「ウゴ、他にキノコはいなさそう……?」

「どうやらそのようでござるな。気配はござらぬが……」

「んで通路は……あっちにありやしたぜ」


 アラサー冒険者が奥を指差す。ぽっかり闇に包まれた通路があった。


 ふむ、やはり道はまだまだ続くらしい。通路と地下空間の組み合わせは決まりのような気がする。

 まだどこまでかはわからないが……。


「ぴよ〜」(たっぷたぷを減らすためー)

「ぴよぴよ〜」(きょうもつまむよ、大きなシメジ〜)

「「ぴよぴー」」(もにゅもにゅー)


 コカトリスはすでにビッグパズルマッシュルームをつまみ始めている。早業だ。


「あーっ!」


 アナリアが叫ぶと小川へと走っていく。


「ど、どうした?」

「失礼しました! こ、これがちらっと目に入ったので……」


 てててーと走っていったアナリアが小川で屈んで、素早く戻ってくる。

 何か持っているようだな。


「これです……!」


 アナリアが手を広げて見せてくれたのは、くすんだ赤色の小さいキノコだった。


「ウゴ、まさか……」

「ああ、もしかして……」


 俺とウッドが顔を見合わせる。それにアナリアが頷く。


「ベリーマッシュルームです、間違いありません」

「ウゴ、あったんだ!」

「そうみたいだな!」


 ぐっと拳を握るウッド。俺もほっと胸を撫で下ろす。


「このくらいのベリーマッシュルームなら比較的見つかりやすいですが、朗報ですね。可能性は高まったと思います――この奥にさらなる高品質のベリーマッシュルームが生えている可能性ですね」

「ウゴウゴ!」

「何よりだな……!」


 とりあえず成果は出た。

 第二、第三の地下広場も発見できたしな。


 アラサー冒険者もこちらに近寄ってくる。


「ほー、ベリーマッシュルームがありやしたか。こりゃ、何よりですねい」

「この奥に高品質のベリーマッシュルームがあり得る、ということだからな」

「まさにですねぃ」


 そこでアラサー冒険者が周囲をうかがう。


「で、どうしやすか? これより奥に行くと、日暮れまでに戻れませんぜ」


 すでに昼を過ぎ、午後に入っている。

 次の広場まで、また小一時間かかるとなると村に戻るのはかなり遅くなるな。


 俺がウッドを見上げると、ウッドも俺に頷く。


「ウゴウゴ、とりあえず今日はここまで?」

「そうだな。それが良さそうだ。あの奥を封鎖して、ここを調べたら引き上げよう」

「承知しやしたぜ!」


 俺は再び封鎖用の盾を生み出した。その盾を冒険者がえっちらおっちらと運んでいく。


 もう地下空間も三個目だし、作業も同時並行でいいだろう。ハットリは身軽さを活かして、坂の上を調べて戻ってくる。


 さすがベテラン冒険者。速いな。


「……やはり扉があったでござる」

「ご苦労だった。ここの出口も街道沿いか?」

「左様にござる。間違いなくザンザスへと向かっているでござるな」

「ふむ。ということは、ここまで安全に馬で来られるということだな?」

「その通りでござる。次からの探索はここまで手早く来られるでござろう」

「わかった、ありがとう」


 それがわかれば十分だ。

 次からはこの地下空間まで馬で乗り付ける。それを繰り返して行けば、スムーズに進んでいくだろう。


 街道沿いの扉を探していくという手もあるんだが……。しかし通路を確認しないと、どのみちトロッコは走らせることができない。


 あとはパズルマッシュルームが待ち構えている可能性か。扉は一人ずつしか通れないし、降りたところにいたら危険である。


 やはり隊列組んで通路を進むのが安全か……。

 あれならよほどのことがない限り、対応できるしな。


 そんなことを考えながら盾を生み出し、封鎖を完了させた。


「よし……戻るか」

「ええ、ですが……アレはどうしますか?」


 アナリアがアレを指差す。

 ビッグパズルマッシュルームだ。


「……どうしよう」

「ウゴ、担いでいく? できるよ」

「そうだな……。もにゅもにゅできる食材ではあるか……」


 でも持って帰ると食べないと行けなくなる。

 外に運び出して、そのまま土に帰すという選択肢も……。


「ぴよ?」(おわた?)

「ぴよぴよー」(まだつまめるねー)

「ぴよぴー」(どうしよかー)

「ぴよっぴー」(持って帰って、皆で食べよー)

「ぴよ! ぴよよ!」(いいね! そうしよ!)


 コカトリスがパタパタと跳ねると、よいせっとビッグパズルマッシュルームを担ぎ上げた。


「ぴよー」(かるいー)

「ぴよぴよ」(楽勝だね)


 どうやらあのまま、持って帰るらしい……。


「ウゴウゴ、すごいパワフルだね」

「コカトリスの肉体強度はドラゴンを超えると言うからな……」


 しかもヒールベリーに住んでいるコカトリスは栄養満点の野菜と果物でより強くなっている……らしい。

 そんなことをレイアが言っていた。

 コカトリスのもふもふに頭を突っ込んで得た成果らしいので、真実はわからないが。


 というわけで、ざっくり調査を終えて俺達は村に帰還することにした。


 地上から帰ったほうが早いので、皆で街道を歩いていく。


「ぴよよー」

「ぴよぴよー」


 大きなシメジをコカトリスが二匹で担ぐ。

 かなり気に入ったんだな。

 まぁ、あの食感は癖になる人もいるだろうし。なんとなくアナリアもそんな雰囲気だ。


 ふむ……しばらくコカトリス達がもにゅもにゅすることになるんだろうな。

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