277.第三の地下広場

「……通路の奥にまた空間があるみたいだな」


 コカトリスのぺかーが遠くまで照らしている。

 通路を照らしているのとは明らかに違う光の広がり方だ。


「そのようでござるな。反響も違っているでござる」

「第三の広場ってわけですかい。前の広場からは小一時間くらい。この間隔で広場を作ってるかも……と」


 アラサー冒険者の言葉にアナリアが同意する。


「そのようですね。しかしあの村の地下広場でも驚くべきものでしたが……あれと同じサイズの地下空間がいくつあるのでしょう?」

「ずっと等間隔だと数十個あることになるもぐ」

「ふむ……そんなに作ったとは信じがたいが……」


 村とザンザスの間は馬車で二日。

 徒歩ならその数倍。丸四日として……一時間に地下広場一つなら、だいたい三十から四十個か?


 ざっくりとした計算だが的外れではないと思う。

 もちろん等間隔であれば、というのが大前提だが。


「人力なら大変なものだな。あの広場一つ作るのでも、数カ月かかりそうだが……。でもドワーフやモール族だと違うのか?」

「もぐ。ドワーフやわたし達なら、一ヶ月もかからないで作れますもぐ」


 ふにっと手を上げるイスカミナ。

 かわいい。


「でも人数と道具、資金は必要ですもぐ。それなりに投じていいなら、ですもぐ」

「ですよね……。この通路だって途方もありません。ザンザスまで繋がっているなら、これだけで気が遠くなります」


 この世界では舗装された道は数少ない。

 ザンザスのようにお金がある場所はそれなりに整備されているが……全国的にはまだまだと聞いている。


 まして都市から都市の間はろくに舗装されていないのが大半らしい。

 ……いずれはこの辺もしっかりやりたいが。


「ウゴ、魔法とかならどう?」

「もちろん、そのほうが圧倒的に楽だろうな」


 土魔法と石魔法であれば、かなり効率的に進むだろう。だが魔力がなければかなり時間はかかる。


「さて、そろそろ次の空間に着きやすぜ。油断しないでくだせえ」

「……やはり向こうに何かの気配がするでござる」

「ぴよ」(シメジ?)

「ぴよよ」(シメジでしょ)


 隊列を整え、地下空間へ進む準備をする。

 と言ってもある程度は気は楽だが。このメンバーなら楽勝だからな。


 ちなみにコカトリスは、壁のパズルマッシュルームを羽の先にストックしていた。

 ……すぐには食べないで持ち帰るのかな?


「よし、行きますぜ!」

「ウゴ! 突撃ー!」


 アラサー冒険者とウッドが勢い良く前に進む。

 それに俺達とコカトリスが続いていく。


「……おいおい」


 通路を抜けた先は、やはり地下広場であった。

 だけどもそこにいたのは――とても大きいパズルマッシュルームだった。


「ウゴ、俺よりすごく大きい……」


 ビッグパズルマッシュルームは見上げんばかりの巨体である。

 デカい。三メートル……四メートルはあるか?


「○△✕ー!!」


 そのビッグマッシュルームがゆらゆらとこちらに近付いてくる。

 頭の傘は真っ赤であり、まさに毒キノコという見た目だな。


「こんなにデカいのは初めて見やしたぜ……!」

「普通に戦えばいいのでござるか……!?」


 冒険者は焦り、立ち止まっている。


 ……このサイズのパズルマッシュルームは、ゲームの中で出現しただろうか?


 少なくとも敵キャラとして出てきた記憶はないが――ああ、思い出してきた。

 イベントシーンにはちょっと出てきたと思う。ボスキャラとして設定はされたが、実装は見送られたとかなんとか。


 それがここに……!


「ウゴ、どうする?」

「そうだな、ちょっと様子を――」

「ぴよー!」(でかーい!)

「ぴよよー!!」(つっこめー!!)

「あっ」


 俺が答える間にコカトリスがぴよぴよしながら突撃していく。


「ぴよぴー!」(もにゅれー!)

「ぴよぴよ!」(つまめー!)


 止めるまもなくビッグパズルマッシュルームへとコカトリスが肉薄する。


「ど、どうしやすか!?」

「仕方ない、進むんだ!」


 ビッグパズルマッシュルームがぷらんとさせたシメジアームをコカトリスへと振り下ろす。


「ぴよっ!」(あたるもんか!)


 パタタタタっとコカトリスが小走りに駆け抜けて、ビッグパズルマッシュルームの一撃を回避する。


「ウゴ、はやっ!」


 コカトリスは普段はぽにゃーとしてるが、身体能力は極めて高い。

 全力疾走するとチーターより速いと本に書いてあったからな……。


「ぴよ、ぴよっ!」(ぴよキーック!)


 コカトリスが回避しながら蹴りを入れていく。


「✕○✕ー!?」


 その一撃でビッグパズルマッシュルームがぐらりと揺らぐ。どうやらダメージは入っているようだ。


「しかし物理攻撃でどこまで行けるか……」


 相手の耐久力は未知数だ。

 普通のパズルマッシュルームの二倍とすれば、そんなに苦戦はしないのだが……。


「ウゴ?」

「どうした?」

「……パズルマッシュルーム、倒れそう」

「えっ?」


 声を上げて、ふっと見ると――ビッグパズルマッシュルームはすでにふらふらとしていた。


「▽✕○……」


 バタン、とビッグパズルマッシュルームが地面に倒れて動かなくなる。


 あれ?

 あっけない……。


「……終わったのか?」

「もう動いてはいないようですぜ……」


 武器を構えたまま、冒険者達も呆然としている。


「終わったようでござるな……」


 アナリアは目をキラキラさせているが。


「さすがコカちゃんです……!」


 コカトリス達がビッグマッシュルームに乗っかり、ぴよぴよと踊り始める。


「ぴよー!」(とったどー!)

「ぴよよ〜!」(キノコゲット〜!)


 ま、まぁ……倒せたのなら、良かったのかな?

 見掛け倒しだったということか。


 そしてビッグパズルマッシュルームに目を奪われていたが、この地下空間は……どうなんだろう。

 他のふたつとぱっと同じように見える。


 天井と光る苔が生えており、小川のせせらぎが聞こえる。そして――坂もある。地上へも続いていそうだ。


 しかし何か、違うような気がする。

 言葉に出来ないのだが……。


 ぽにぽにと歩いてきたイスカミナが、俺の隣でぽつりと呟く。


「もぐ。ちょっと狭いもぐね」


領地情報


 地名:ヒールベリーの村

 野球チーム名:ヴィレッジ・コカトニア

 特別施設:冒険者ギルド、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場の宿、コカトリス大浴場、コカトリスボート係留所、第二、三地下広場

 総人口:243

 観光レベル:B(土風呂、幻想的な地下空間、エルフ料理のレストラン)

 漁業レベル:B(レインボーフィッシュ飼育、鱗の出し汁、マルデホタテ貝)

 牧場レベル:C(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス)

 魔王レベル:D(悪魔マルわんちゃん、赤い超高速)

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