259.基本サイズ

「ウゴ……こんな感じ?」


 こねこねした草だんごをそっと置くウッド。

 俺はそれを手に取り、固さを確かめる。


 ふにふに。


 ちょっとだけ柔らかいが、ちゃんと草だんごだな。

 おいしそうだ。


「うん、ちょうどいいんじゃないか?」

「ウゴ、よかった……!」


 ウッドが軽く息を吐く。どうやら不安だったらしい。


「……ウゴ、だんごは小さいからやりづらい……」

「ウッドは大きいですからね……!」


 アナリアがウッドを見上げる。

 身長ニメートルのウッドは当然、腕とか手もかなり大きいからな……。


 俺はそこで、はっと気が付く。


「草だんごって、だいたい大きさは同じだよな。このくらいのサイズで作ってるよな?」

「ええ、そうですね……。おおよそ、このくらいです」


 今ウッドが作ったのも、草だんごの材料量はちゃんと計量してこねこねしている。

 なのでドリアード達が作る草だんごと大きさは同じである。


「あえて大きく、小さくは作らないんだよな……」

「うーん、そうですね。草だんごの大きさは変えませんね」


 アナリアも同意する。その隣では、コカトリスが荒ぶりながら草だんごをこねこねしている。


「ぴよぴよぴよぴよー」(それそれそれそれー)

「ぴよっ!」(そぉい!)


 羽をばたつかせ、思いっきり荒ぶっていた。

 ……気合入ってるな。


 普通の草だんごのこねこねが、お寿司を握る感じだとすると……コカトリスのはピザ生地をくるくるするような感じだな。


 同じ作業とは思えない激しさである。


「……ぴよ」(……できた)

「ぴよ……」(そっ……)


 そして出来上がると、なんだかすっと落ち着いて草だんごを脇に置く。


「ちゃんと出来てるな……」

「ぴよ!」(ぴよですから!)

「ぴよっぴ!」(ぴよなのでー!)


 コカトリスの様子をアナリアも興味深そうに見ている。


「つまみ食いはしませんね」

「……そうだな」


 俺とアナリアの目が若干遠くなる。


 テテトカのいわく、草だんごはまず作った人がその場で半分食べてよい。

 さらにお腹が空いていたら、優先的にもう半分食べてよい。


 つまり草だんごの四分の三は、作った人がすぐに食べてよいわけだ。


 ……ふむ。普段の草だんごのサイズだとウッドは小さくてやりづらいか。


「大きな草だんごも作ってみるか?」

「ウゴ……いいの?」

「とりあえず材料を二倍にしてみましょうか。それでもまだ、手のひらに乗ると思いますし」


 二倍だとおまんじゅうに近いサイズから、おにぎりみたいになるな。


「そうだな。ウッドとドリアードだと背が全然違うし……」

「ええ、やりやすいようにやってみましょう」

「まぁ、草だんごのサイズが多少変わっても大丈夫だろう。中に何かが入っているわけじゃないしな」


 おまんじゅうみたいに、中にアンコを入れるなら皮部分が厚くなるのはマズいだろうけど。

 草だんごにはそういう心配はない。


「よし、それじゃ倍の大きさで作ってみるか!」

「はーい!」

「ウゴー!」


 ◇


 その頃、北の国では――。


「それそれそれー!」


 ステラがナナボードでスノボテクニックを華麗に発揮していた。


 アイスクリスタルの青白い冷凍ビームを右に左に避けつつ、アイスクリスタルをバットで弾き飛ばしていく。


「よいしょっと……!」


 ナナもまた、ボードに甘んじてはいない。


 ズザーっと滑りながら極彩色の鞭で周囲を薙ぎ払っていく。

 もちろん本来の攻撃力と射程ではないものの、牽制と削りには十分な力だった。


「ぴよー。きれーぴよー……!」


 竜巻の内部はきらきらと雪が舞い、極彩色の鞭が暴れまわる。


「ナナも頑張っているんだぞ」

「うん……。なんとなくわかってきた。結束の緩いところを攻めれば、復元も遅いんだね」

「その通りです……! これは竜巻の外からだと、なかなかわからないのですが」

「……だろうね。外から竜巻を見ていたんじゃ、これはわからない」


 アイスクリスタルの群れは風と勢いの関係で、内部のほうが穏やかである。


「それにしても、この規模のアイスクリスタルの群れに飛び込むのは……聞いたことがない」

「意外と大丈夫なもんですよ……!」


 ふふりとステラが微笑む。


 付き合いを重ねてきたナナは改めて思う。

 普段、ステラは自分の力を見せびらかしたり武勇伝を語ったりはしない。


 しかしいざ危機になると、合理的に魔物へ対処する。

 ……他の人間が出来るのか、という観点はあるけれど。


「英雄と呼ばれるわけか……」


 ぽつりとナナが着ぐるみのなかで呟く。


 アイスクリスタルの群れに飛び込んで一時間、確実に竜巻は弱まりつつあった。


「一旦弱まると、さらに弱まるんだぞ」

「ぴよ! こおりがとけはじめると、はやいみたいなぴよ?」

「バッチリとした例なんだぞ」


 マルコシアスがディアの頬をふにふにする。


「ほめられたぴよー!」

「ほめちゃったんだぞー!」


 ディアとマルコシアスはきゃっきゃっと遊んでいた。


「さて……竜巻の外部からの応援もありますし、思ったより早く終わりそうですね」

「そうだね。北の国の兵士達も出張っているようだし……」


 外部からの攻撃もだんだんと激しくなっている。

 竜巻が弱まるにつれて、戦力を投入しているのだろう。


 近衛ぴよよりランクの下の兵士ぴよ(ヴァンパイアの着ぐるみ兵士)も参加し始めているのだ。


 レイアの指揮により、地上部隊も竜巻へ猛攻を仕掛けている。

 もちろん空を飛ぶ二人のぴよも的確に攻撃を続けていた。


 ――もう少しで竜巻も倒せるに違いない。

 ぐるんと肩を回し、ステラが宣言する。


「あともう一踏ん張り、です!」

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