133.意外とガチ勢
それから色んな予定が物凄い勢いで進んでいった。まぁ、決めるべきことはかなり決めたからな。
後はどんどん進めていくのみだ。
後はエルフ料理と劇くらいか。
トマトの辛味炒めの他に、もう二品くらい欲しい。
メインは辛味炒めでいいとして、もう少し少量のやつだな。それを伝えると、ステラがにこっと微笑んだ。
「それでは餃子がいいかと」
「餃子……」
あるのか、それ。
いや、俺が思っているのと全然違うものかもしれない。
「ちなみにどういう料理なんだ?」
「ええと……小麦粉の皮に刻んだ豚肉や海老やニラを詰め込んで、蒸すんです。ふっくらぷりぷりで美味しいですよ!」
ん?
それは蒸し餃子だな……。
あ、そうか。
本場の中華料理では焼き餃子はマイナーなんだった。
日本では餃子と言えば、焼いた餃子。
でも中華料理では茹で餃子や蒸し餃子の方がメインなのだ。
なるほど、やはりエルフ料理はほぼ中華料理なんだな。
そんなことをつらつらと考えていた俺に、ステラが声をかける。
「すみません……想像がつかないですよね? こちらではあまりない料理ですから……」
「いや、何かの本で読んだことがあるから大丈夫だ。食べたことはないが、なんとなく想像はつく」
焼き餃子の方は前世でたくさん食べたからな。まぁ、蒸し餃子は遥かに少ないが……作り方を聞く限りでは同じ気がする。
「良かった……! エルフ料理でも辛味炒めは南で餃子は北なのですが……そこまでフォローされた本があったのですね」
「ああ、本でもそう書いてあったな」
辛い料理は四川なので、中国の南西部。
餃子は華北なので、北部全体だ。
その辺りも同じなんだな。
意外と言うか……いや、地理的に似ているならあり得るのか?
まぁ、考えても仕方ないか。
「オイスターソースやお酢はあるので、あとは生姜やニラがあれば作れます……!」
「ふむふむ……。これだな……」
よかった、植物魔法で生み出せる植物にちゃんとあった。
この辺では生姜やニラは流通していない。取り寄せたとしても、とんでもない値段になるだろう。
俺は魔力を集中させ、生姜とニラを生み出す。実に簡単だ。
「おおー、まさに! これこそ生姜とニラです!」
生姜とニラを宝物のように掲げるステラ。
かわいい。
「あと必要なものはあるか?」
「小麦粉とかはナールの店から取り寄せたので、大丈夫です!」
「ん? それは買ったのか?」
「ええ、そうですが……」
「……お金は俺が持つぞ」
事前に色々と準備してくれたんだな……。
その分のお金はもちろん、俺が負担する。
でも俺がそう言うと、ステラがぎくりとしてうろたえ始めた。
「えっ……あ~……いえ、大丈夫です!」
「いや、それは俺が……」
「あぁ~、そうではなくて……こ、ここだけの話ですよ……」
ステラがずずいっと近付いてくる。
目線はリビングで遊んでいるディア達に向けられていた。
ごにょごにょと言い訳のようにステラが言う。
「色々と試したかったので、夜中にこっそり自分でいろいろやって食べちゃったんです……!」
「……な、なるほど」
つまみ食いと言うか、夜食にしちゃったわけだな。
「具材がなかったんじゃ……?」
「なので、餃子ではないです……。地元なら吊し上げ間違いなし、なんちゃって餃子もどきですから……!」
ステラの顔が赤い。
ぽん、とステラの肩を軽く叩く。
「ステラの料理はおいしいからな。もし試しで作るなら付き合うぞ。こっそり食べたいのも……うん、別にいいからな」
その辺はあまり干渉したくない。
誰だって夜中に小腹がすいて、もぐもぐしたくなる時はあるよね……。
「……それに俺も、夜中にお腹空いたらクッキーとか食べてるから……」
ぼそっと俺は付け加える。
たまに運動したりして寝ると、夜中にお腹が空くんだ。
「そ、そうですか……。エルト様も……」
「う、うん。だから気にしないで……」
「わかりました……。お揃いですね、いえーい……!」
ステラがハイタッチの構えを見せる。
なんだそのテンションは……!
「い、いえーい……!」
とりあえず合わせて、ハイタッチする。
きゅ。
ハイタッチした瞬間、俺の指にステラの指が優しく絡まってきた。
「は、え……!?」
驚くと、ステラがぐっと近付いている。
普段、綿にくるまって寝てる距離よりは遠いけど。
「なにしてるぴよー? いいことあったぴよ?」
「えっ……いえ、なかよしごっこです!」
「ぴよ! あたしともやるぴよー!」
リビングからディアの声。
ステラが絡めた指を外して、ディアの方に向かっていく。
「いえーい、ぴよ!」
「いえーいです……!」
ステラが屈んで背を合わせて、ディアとハイタッチする。
ぴょんと飛ぶディアがかわいい。
「では、私は餃子を作りますね……!」
そのままパタパタとステラはキッチンへと小走りしていく。
むぅ……まぁ、いいか……。
お互いに気持ちをどうこうする時間は必要なのだ、きっと。
◇
小一時間後。
ステラが蒸し餃子を持ってきた。
ふむ……この桶というか蒸し器みたいなのはなんか手作りっぽいな。
ステラの苦労がうかがえる。
時刻はすでにお昼。
皆でテーブルについて食べてみる。
「ぴよ、ふしぎなおりょうりぴよね……!」
「ウゴウゴ、やわらかい?」
「ぷりぷりしてそうだぞ!」
「本で読んだ通りだな……」
ごくり。
実際は前世の記憶通りだけど。
きれいに皮で包んである蒸し餃子。
ほかほかでおいしそう。
「お箸よりか、フォークですかね……。そのままでもいけますけれど、このお酢に付けても美味しいですよ!」
「いただきますぴよー!」
「いいだきますだぞ!」
「ウゴウゴ、いただきます……!」
「いただきます!」
蒸し餃子は一個一個はかなり小さい。
一個目はフォークに乗せて、そのまま食べてみる。
ジューシーながら、ぷりっとした食感。
間違いない。
ちゃんとした蒸し餃子だ……!
「おいしい……!!」
「そ、そうですか? 良かったです!」
「ふしぎなあじぴよ、でもあっつあつでおいしいぴよ!」
「ウゴウゴ、おいしい!」
「あつ! あつうい!」
「大丈夫ですか!?」
「た、だいじょうぶだぞ……。中に汁がたくさん入っているんだな……」
ああ、なるほど……。
ディアとウッドは熱いのも平気だから、そのままがつがつ食べてる。
俺とステラは蒸し餃子の特性を理解しているからな。
マルコシアスだけ、がぶっと行ったわけか。
「こう、斜めにしながらちょっとずつかじっていってですね……」
「おおっ、こぼれずに食べられるぞ!」
ステラのレクチャーでマルコシアスもスムーズに食べられるようになる。
まぁ、その辺りの補助というか身体感覚も恐ろしいからな……。
絶妙な角度というか、食べ方なのだ。
「これで副菜はいいと思うぞ。とっても良い」
俺がそう言うと、ステラは少し目をぱちくりさせた。
あっ。
これは……。
ステラが言いにくそうに切り出してくる。
「ええと、餃子は……」
「メインだな、うん」
そう言うと、ステラはにっこりと微笑んだ。
「はい、これでメインが二品ですね!」
危ない。
ステラは意外と中華ガチ勢か。
中華料理では餃子がメインだからな。
「あとはデザートがあれば完璧だが……」
「それなら! いい案があります!」
ずびしっとステラが手をあげる。
ノリノリだな。
「杏仁豆腐です!」
コカトリス祭り準備度
50%
草だんご祭り完了
地下広場に宿設置
エルフ料理の歓迎(トマトの辛味炒め、蒸し餃子)
ディアの劇(着ぐるみコカトリスedition)
冒険者ギルドのデザイン完了
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