132.村の名物

 そして話が一段落したところで、俺は一枚の紙をくるくるっとテーブルに広げた。

 ディア達はまた演劇の練習に戻っていったな。


「それでだ、お祭りの後に冒険者ギルドを開くという話だったが……」

「新年に合わせて、というお話だったかと」

「ああ、そうだな。でも建物の御披露目だけはしておこうかと」

「なるほど……。建物の外見だけでもあれば、アピールになりますね。中身は作りかけだとしても」


 レイアが納得という風に頷く。

 そしてステラがずいっと身を乗り出す。


「こんな感じなんですけれども……!」


 広げた紙に描いてあるのは、冒険者ギルドの外観デザインだ。看板の時もそうだけれど、ステラはこういうのが実にうまい。

 俺のイメージ通りだった。


「ほう……! なるほど、とても良いですね」

「こうデザインされたでござるか……。妙手にござるな」


 レイアとハットリからは好評だな。


 冒険者ギルドの外観。

 村の新しい名所をどうすべきか、というのは意外と悩んだ。


 単に高くて大きいだけでは物足りない。

 もっと何か……というわけで、凝ったものにしてみたのだ。


 ディアを模した建物をメインに。

 そして横にウッドを小さく、バランス良く。

 ちなみにマルコシアスはそのまま出すと問題になるかもなので、ウッドの肩にこっそりと子犬姿で配置している。


 コカトリスとツリーマン。

 要はこの組み合わせなのだが。


「ディアとウッドはこの村で生まれた最初の二人だからな。そして村を代表するのにふさわしいと思う」

「まさしく……。いえ、コカトリスデザインの建物とは恐れ入りました。それにウッド様もぴったりでしょう」

「樹に囲まれているでござるからな。まさに村のイメージ通りでござろう」

「良かった……」


 デザインを起こしてくれたステラが安堵する。俺も一安心だ。


「それにしても、このようなデザインで建物を作れるとは……。植物魔法の真骨頂ですね!」

「ふむ……まぁ、イメージできない物は作れないんだが……」


 ディアとウッドはいつも触れ合ってるしな。

 そうだ、試してみるか……。


 俺は魔力を集中させると、緑の光がほとばしる。光が収まると、手のひらの中に小さな木像が現れる。


「うまくいった……!」


 思わず小さく叫ぶ。

 ステラのデザイン通りの冒険者ギルド。そのミニチュアである。

 ディアと並ぶウッドの像だ。これを見たステラが目を輝かせる。


「よ、よく出来てますね……!」

「ふむ、これを大きくしたら、そのまま建物だな」


 俺の手のひらのミニチュア。

 よし、ナール達にも見せてこよう。中のインテリアや配管があるからな。

 楽しみになってきた。


 ◇


 一方、ディアとウッドとマルコシアスは演劇の練習をしていた。

 床に本を置き、全員で台詞を読み合わせている。


 今練習しているのは、青年貴族とマルコシアスが最初に戦うシーンである。

 マルコシアスに抱えられたディアが勇ましく台詞を読み上げる。


「じごくのまるこしあす! おうめいにて、おまえをうつぴよ!」

「はっはっは……! その意気やよし! いざ、薙ぎ払ってくれよう!」

「うわーぴよ!」


 台本では青年貴族はそこで一度苦境に陥る。

 その危機にステラが登場するのだ。

 しかし、一旦進行を止めてディアは首を傾げる。


「……このひと、よわいぴよね」

「ウゴウゴ……そこはつっこまないであげて」

「これでまおうをたおしにいくぴよか……。ちょっとむぼうぴよ……」

「我が主よ、見方を変えるのだ。負けるとわかっても、戦う意義はあるのだ!」

「ウゴウゴ、そのとおり!」

「一人で勝てないなら、沢山集めて挑むのだ! 物量で押し切るのだ!」

「ウゴっ!?」

「なるぴよ! よわくても、たくさんいればかてるぴよね!」


 マルコシアスの断言にディアはぴよぴよと同意する。


「そうそう。まぁ、そもそも我が戦ったのはあの魔王くらいだが。二人でボコボコにしてやったんだぞ!」

「くーるぴよ! ……ぴよ? いまのはなんのおはなしぴよ?」

「ウゴウゴ、きおくがもどってる?」


 ウッドの言葉に、マルコシアスはうーんと唸る。ディアを後ろから優しく抱きながら。


「……なんだろう、今の感じは……」

「なりきってるぴよ?」

「んん……今、さっと言葉を口にしたんだが我自身わからん。でもなにか、ひっかかるんだ」

「……ウゴウゴ。しげきになってる」

「いいことぴよ?」

「ウゴウゴ、いいこと」

「じぁ、がんばるぴよ!」

「そうだな……。この劇はなんかしっくりくるし、がんばるぞー!」


 おー、と三人は決意を新たにする。


「ところで我は疑問なのだが、デュランダルちゃんは誰が持つんだ?」

「あたしかマルちゃんぴよ?」

「いっそ二人で持つのもありだぞ!」

「ウゴゴ……。あり……かも……?」

「あとでとおさまにつくってもらうぴよー!」


 ◇


 その頃、コカトリスの宿舎。

 お昼の時間なので、テテトカ達がコカトリスに草だんごを用意している。


 魔法具のおかげで、宿舎の中はほんのり春先のような陽気に満たされていた。


 先頭に立つテテトカはスネアドラムを首から下げて、叩きながら歩いている。

 ご機嫌な歌を口ずさみながら。


「こっか、こっか~。こっかとりす~」

「ぴよっぴ!」(ごはんだ!)


 もちろん、テテトカ自身は容赦なく食べ歩いている。他のドリアードもそうだ。


 ひょい、ぱく。


 食べ歩きこそ、ドリアードのアイデンティティなのだ。


「だん、だん、だんご~」

「ぴよー!」(たべるー!)

「こっか、こっか~。こっかとりす~」


 すべてのコカトリスの前に草だんごのお皿を用意したら、一仕事終わりである。

 すぐ終わった気がするけど、一仕事は一仕事。もちろん、労働の後は草だんごだ。


 コカトリスのふかふかボディに寄っ掛かりながら、テテトカ達は草だんごをまた食べる。


「はー、懐かしいです。またその歌と音楽を聞けるなんて」


 ララトマの言葉に、テテトカはスネアドラムを叩いて応じる。


 タタンッ!


「これができたからねー」

「ぴよぴよ!」(いいおとぴよ!)

「コカトリスも喜んでるみたいです!」


 実際、テテトカの歌を聞くのは初めてだけれど、コカトリスは本能的に好きになっていた。


「こっか、こっか~。こっかとりす~」

「ぴよぴよ~。ぴっぴよよ~」


 コカトリス達もテテトカに合わせて歌う。


「まー、懐かしいかもねー。国にいた時はよく歌ってたけど」

「この子達とも付き合いは長いです!」

「ぴよっぴ!」


 地下にいた幼いコカトリスは幼い頃からララトマと一緒にいた。どれほど長い期間になるだろうか。


「地下ではドラムを作れませんでしたです。ここに移り住んで良かったです!」

「でしょー?」


 もぐもぐ。

 テテトカは草だんごを食べながら、スネアドラムを軽快に叩く。


 タタタン、タン!


「勘も戻ってきたしね」

「はぁ……またテテトカおねーちゃんの音楽を聞きながら草だんごを食べられるなんて……」


 もぐもぐ。


 お腹と心が満たされて、ララトマはうつらうつらし始めた。

 もっと聞いていたいような、眠ってしまいたいような。


 久し振りにこの歌を聞いたせいか。テテトカはいつでも堂々として、格好良い。

 それがこの歌の時だけ、すごく優しく歌うのだ。


「眠くなってきましたです……」

「少しお昼寝したらー?」


 タタン、タッカタッカ!


 にこーと微笑みながら、テテトカは歌い始めた。ララトマの黒薔薇を眺めながら、穏やかに。


「こっか、こっか~……。こっかとりす~」


コカトリス祭り準備度

45%

草だんご祭り完了

地下広場に宿設置

エルフ料理の歓迎

ディアの劇(着ぐるみコカトリスedition)

冒険者ギルドのデザイン完了

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