82.新しい道

 ステラがフラワージェネラルを撃ち抜いた。

 これで敵のバフも消えて、戦いはスムーズに済むな。

 間もなくフラワーアーチャー達の掃討も完了した。


 あの一打でステラはかなりの力を使ったみたいだ。無茶しやがって……というところだが、怪我もなくて良かった。


 ステラも大満足みたいだしな。俺としては本当に怪我がないのが良かったな。


 あとは発火ポーションや盾も役に立ったみたいだ。冒険者達も多少の怪我はあれど、ポーションですぐ回復できる程度だ。


 いつの間にか空の雲は晴れている。俺とステラ、ウッドは森の中をてくてくと歩いていた。今は素材回収の時間になっている。


「……皆、元気あるな」

「ウゴウゴ、けがしているひと、いない! まだやるき!」

「ええ、回収すれば分け前は増えますからね……」


 周囲ではほくほく顔の冒険者達がフラワーアーチャーの根を集めていた。元気な冒険者は泉に沈めたフラワーアーチャーを回収しようとしている。


 寒いのに頑張るな……。アラサー冒険者も泉に潜っては引き上げているようだ。


 俺の目的はフラワージェネラル。

 約束ではこいつのドロップ品は俺のものだからな。


 なかなか強いボスなので、運が良ければお宝があるかもだが……。

 俺達は倒れたフラワージェネラルに近付いていく。


「いままでステラが倒したフラワージェネラルの中だと、どんな素材があった?」

「えーと……根はそこそこの値段で売れましたね。後は花の部分に魔力の結晶みたいなものがあったりでしょうか。あっ、枝が杖として使えたのもありましたね」


 ふむ、大体ゲームと同じだな。

 確定素材は根の部分。あとは魔力の結晶と杖か。

 まぁ、欲しいのは魔力の結晶か。

 これがあれば新しい魔法やスキルが得られるかもだが……。


 というわけで手分けしてフラワージェネラルをごそごそしていく。

 二メートル半なのでそこそこでかいしな。


 ごそごそ。

 ごそごそごそ……。


「……うーん、枝は駄目そうですね……。ふにゃふにゃです」

「ウゴウゴ、ねっこはだいじょうぶ!」

「花は……おっ、なにかありそうだな」


 ごそごそ。

 花部分の奥に手応えを感じる。


 出てきたのは黄色い石ころだ。

 大きさは爪の先くらい。かなり小さい。

 だが、手で触れているとわかる。この石には魔力が凝縮されている。今にもスパークしそうだ。


 そこへ帳簿を持ったレイアが現れる。色々と記録を取っているんだな。


「おおっ、何かレア物が出ましたか?」

「この石だ。当たりだな」


 この黄色い石はグロウストーンと言う。

 潜在能力を活性化し、新しい魔法やスキルを覚えるきっかけになるアイテムだな。石が大きいほどより強力に作用する。


 ゲームの中だとこのサイズのグロウストーンはそれなりに手に入るが、この世界では希少だろう。

 グロウストーンを見たレイアがむむむと難しそうな顔をする。


「グロウストーンですか? 珍しいは珍しいですが……中々効果が出ませんよね?」

「ええ、私もいくつか試してみましたけど効果はありませんでした……」

「ふむ、やはりそうか……」


 グロウストーンがうまく効果を発揮するには相性が重要だ。

 というのはゲームの知識。


 ドロップした魔物と使う対象により、新しい能力を得る確率は変動する。

 場合によっては砕いて売った方がいいくらいなのだ。


 なのでレイアが難しい顔をするのも当然だろう。外れの多い賭けをするよりかは、という奴だな。

 だが今のところ俺は金にはあまり困っていない。それより本当にグロウストーンがゲームと同じく効果があるか試したい。


 聞いていたスキルの希少性からなんとなく予想はしていたが……。この知識は最低限の使用にとどめて秘匿しておいた方が良さそうだな。


 そしてこのフラワージェネラルからゲットしたグロウストーンは、ウッドに使うのが一番だ。

 同じ植物系なので、得られる確率が一番大きくなる。まだ成長途中で潜在力もあるはずだ。

 かなりの確率でスキルを得られるのではないかな。


「ウッド、こっちにきてくれないか」

「ウゴウゴ!」


 ウッドがこちらに来る。

 俺はグロウストーンをウッドへと渡した。


「……これを飲み込んでくれ」

「ウゴウゴ、わかった!」


 よく考えたら石みたいなのを飲み込むのは結構勇気がいるな……。

 まぁ、ウッドはそういうのを気にしないし、体が大きいから大丈夫だろうが。


 ごっくん。


 大きな口でウッドがグロウストーンを飲み込む。いい飲み込みっぷりだ。


「…………どうだ?」

「ウゴウゴ、これこれ!」


 そう言うとウッドが腕をぐっと伸ばす。

 おっ、もしかして……当たったかな。


 ヒュンッ!


 ウッドの腕から種が発射された。

 フラワーアーチャーに比べると大分遅いが……間違いない。スキルだな。

 多分、こんな感じだろう。


【使用可能スキル】

 シードバレットLv1


 ゲームでも植物系の仲間やプレイヤーも特殊条件を満たすと使用可能になったしな。


「シードバレットだな?」

「ウゴウゴ、そんなかんじのことば!」

「……スキルが発現したんですか!?」


 レイアがのけ反らんばかりに驚く。


「同じ植物だからな。確率はそれなりに高かった」

「それでも……グロウストーンからスキルを得られるなんて……。やはりエルト様は博識ですね」

「いささかマニアックな知識だがな。運が良かった」

「これも見越しておられたとは……」


 まだ目覚めたてだから、どこまで使えるようになるかはわからんが。

 とりあえずグロウストーンでのスキル獲得はゲームと同じようだな。それがわかれば良しとしよう。


「ウゴウゴ、これおもしろい!」


 ウッドはご機嫌にシードバレットを使っているな。

 ふむふむ、これで一応遠距離攻撃も少し出来るようになったわけだ。


 まぁ、使いこなせばフラワーアーチャーと同じようになるはずだ。グロウストーンで獲得したスキルは、グロウストーンでないとあまり成長しないが……。


 と、ステラがぐっと拳を握っていた。


「打てるんですね……!?」


 バットを持って、すでにやる気である。


「……あまり負担をかけないようにな」

「はい……!」


 ……すっかり野球少女になった気がする。

 まぁ、打つのは面白いからな……。


 ◇


 その日の夜は宴会だった。フラワーアーチャー討伐の打ち上げだ

 明日にはレイア達はザンザスに帰っていくしな。


 大量に根もゲットできたし、一晩は豪華に飲み食いしようというわけだ。

 主なメニューは村で作った野菜と果実の料理だが、思ったよりも好評だな。


 果物そのままの甘みはやはり冒険者でもあまり食べないらしい。それもそうか……。

 地球でもグラム単価で考えるとメロンとかイチゴとかはヤバいからな。


 あとはコカトリス姉妹が余興で踊ってる。ディアとマルコシアスもだが。


「ぴよよー!」(くるくるー、どうだー!)

「ぴよぴよ!」(おねえちゃん、じょうず!)

「ぴよー!」(躍りならまかせろー!)


 くるくる回りながらステップを刻んでる。

 結構な運動神経だな。

 そしてレイアも混じって踊ってる。もう突っ込むまい……。


「……凄い、コカトリスと踊れてる!」

「ぴよよ?」(おねえちゃん、この人はこの前の……?)

「ぴよぴよ……ぴよ」(わかんないけど、踊りたいみたいね。深く考えちゃダメよ)

「……ぴよ」(色々あるものね……)

「ぴよ!」(そう、人間さんには色々あるの!)


 そんな感じで宴は進行していった。

 冒険者達が色々と話をしにくるので、中々落ち着きはしなかったが。俺の魔力が凄いとかそういう話ばかりだったな……。


 一段落した後、冒険者に囲まれてたステラも俺の隣に来た。

 俺はまだ目上だからあれだが、ステラは同じ冒険者で結構大変だったみたいだな。誉められ過ぎたか頬が赤くなっている。


 そのままステラは小声で、


「……エルト様、後でちょっといいですか?」

「別に構わないが……。人が少ない時の方がいいのか?」

「ええ……他の人に聞かれていいのかどうか、判断がつかないので。フラワージェネラルを倒した時にちょっと」

「なるほど……」


 ということは何か新しいスキルを獲得したのかな。

 俺の知識ではフラワージェネラルを倒して得られるスキルはなかったと思うが……。

 それだと確かに人がいない方がいいだろうな。


「わかった。解散したら一番に聞こう」

「ありがとうございます」


 そこへ踊りまくっていたレイアも近付いてきた。こちらは軽く肩で息をしてるな。

 どうやらある程度満足したらしいが……。元冒険者だからか、彼女もかなりフリーダムだよな。


 レイアは丁寧にお辞儀をすると、俺へと目線を定める。どうやらそれなりに真面目な話があるらしい……。


「……エルト様、この度はフラワーアーチャー討伐のご協力、ありがとうございました」

「気にするな。こちらにも利益はあった。人の損害がなかったのが何よりだ」

「そう言って頂けると助かります。これで地下通路の調査に入れるかと思います」

「そうだな……。少し遠回りしたが」


 元々、地下通路の調査にフラワーアーチャーが邪魔なので排除したんだよな。

 やっとその調査が出来るわけだ……。とはいえそれもかなりの時間を掛けないといけないだろうな。

 森全体はおろかザンザスまで続くとしたら大変な広さになる。


「それで提案があるのですが――冒険者ギルドの支部長をやってみませんか? この村に新しく支部を作るのです」

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