80.貢献

 振り子打法。

 それは日本でも大活躍した打法だ。


 片足を上げながら、もしくはすり足しながら身体を投手側にスライドさせるように打つ。

 普通の打法が頭部を固定して打つのに対して、振り子打法は頭部が動くのが特徴だ。

 軸足も投手側に動くため、非常に「動く」打法と言える。


 そのためバットコントロールがしやすく、また長打も生みやすい。

 弱点は振り遅れる危険が高くなること。

 基本的にバッティングセンスに優れた打者しかモノに出来ない打法だ。


「軸足でない方を撃ってくる方に動かしながら――頭も動かして打つんだ」

「……?! ああ、なるほど……!」


 ……わかったのか?

 まぁ、打つ方にとってみれば理屈は単純だ。

 しかし実際には難しい。そう簡単に習得できるわけはないが……。


 何度かステラがびゅんびゅんとバットを振る。

 頭は動いているように見えるが……。

 ここからだと出来ているのかどうかわからないな。


 そうしている間に、フラワースナイパーから弾が放たれる。

 やはりフラワーアーチャーよりも断然速い。

 俺にはとても打てそうもないな。


 だがステラは頭を動かしながら、すり足で打った。

 ……出来てる……?


 カッキーン!


 打ち返した弾は発射準備をしていたフラワーアーチャーへとぶち当たる。

 弱点の花部分に当たり、崩れ落ちるフラワーアーチャー。


 ……あれはちゃんと狙って弾き返したのか。

 恐ろしいバッティングセンスだな。


 アラサー冒険者も目を見開いて驚いている。

 そりゃそうだよな。


「当たってますぜ……」

「ウゴウゴ、たおした!」

「……なるほど、なるほど。振り遅れるかもですが、ぎりぎりまで『待て』るんですね……」

「ああ、それが振り子打法の特徴だが……」


 ステラは相変わらず目隠しをしているが、それを感じさせない。

 エコロケーションも物にしているのか……。


「とんでもないでござるな……!」

「ああ、だが……まだフラワーアーチャーはいるな」


 あと数十体か。任せても倒せると思うが、ここまで来て何もしないのもな……。

 なんというか格好が付かない気がする。


 苦戦するようなら【巨木の腕】で援護することも考えたが。

 弾で破壊できない【巨木の腕】はこういう相手にはぴったりだ。

 しかし森も結構破壊しそうだがな……。


 そうすると今回は援護に専念した方がよさそうだ。下手に割って入るとアラサー冒険者の動きを邪魔しそうだし。


 それだと広域バフがいいだろう。

 ちょうど良い魔法がある。

 俺はひとつ息を吐くと魔力を集中させる。


【新緑の加護】


 緑色の光が俺達全員を包み込む。

 割りと広範囲をカバーできるのがこの魔法の強みだな。


 まっさきに声を上げたのはアラサー冒険者達だった。


「……この魔法はエルト様のか……!?」

「これだけの範囲の全員に……!」

「この光は防御力アップの効果がある。範囲は広いから動き回っても大丈夫だ」

「すげぇ、ありがたいぜ!」

「突っ込めー! ぎゃー、でも痛くない!」

「よっしゃ、前に出ろー!」


 ……いきなり弾に当たるな。

 まぁ、防御力がアップしてるから怪我ひとつしないみたいだが。


 この【新緑の加護】は広い範囲の仲間を防御力アップ、状態異常耐性アップさせる魔法だ。

 それなりに魔力も消費するが、効果範囲や効果量も大きい。

 最大の弱点は俺が動けなくなる程度に集中しなければならないことか。


 味方が強くて多ければ、ぴったりの魔法なんだがな。ゲームの中でも集団戦で使われると厄介な魔法だった。


「ありがとうございます、エルト様……!」

「……これで多少は打つのに役立つか?」

「はい、とっても……!」


 ステラがバットを構える。

 悠然とした動作に、目隠しをしている不利はまるで感じられない。


 フラワースナイパーが発射体勢に入る。

 これまでステラは、フラワースナイパーの弾を他のフラワーアーチャーへ弾き返していた。


 弱点に当たることもあれば、腕や脚部分に当たることもある。

 命中はしているが、一撃で倒せるかどうかは別だった。


 ……試しているのだ、きっと。


 カスタネットのカチカチという音が規則的に鳴っていた。

 ステラはエコロケーションをしつつ、打法も修正している。

 驚異的だが――信じるしかない。


 そう思っているとステラの魔力が突然、弾けた。

 黄金のオーラがステラを中心に渦巻いている。


「あれは……」

「勝ったぜ、こりゃ……!」


【強化】魔法の最高峰。黄金のオーラをまとう上級魔法の【神の化身】だ。


 自身の能力を大幅に引き上げる魔法だ。

 しかし魔力の消費は非常に大きい。あと基礎能力がないと効果的でない。

 この魔法は基礎能力があればあるほど、効果量が大きくなるのだ。


 それにしてもこの魔法をちゃんと使えるとは……。

 漫然と使っても割には合わない。ゲームの中でも使い方が難しい魔法だったな。


「打ちます……!」


 フラワースナイパーの弾が打ち出される。

 同時にカチッとカスタネットが鳴った。


 ステラは片足を上げて、踏み込むように――ちゃんとした振り子打法だ。

 身体全体を押し出すように気持ちよく振り抜く。


 ……カッキーン!!


 甲高い音が響き、同時にフラワースナイパーが崩れ落ちた。

 コンマ以下の攻防。

 それを制したのはステラだった。

 フラワースナイパーが倒れると、ステラから黄金のオーラが消える。

【神の化身】を解除したんだな。


「……やった……!」

「本当に目隠しで打ち返したでござる!」

「ウゴウゴ、だいきんぼし!」


 うーん、凄い……。

 あっという間にフォームを修正して打ち返した。

 さらにエコロケーションもマスターしたと思っていいだろう。


 この辺りはさすがにSランク冒険者か……!

 それからもステラは振り子打法を使いながらフラワーアーチャーを掃討した。

 アラサー冒険者達も協力したので、思ったよりも早く終わったな。


 この後もいくつかのフラワーアーチャーの隊と戦ったが、ステラは振り子打法を使いこなしていった。


 段々と打ち返した弾が弱点の花に一発命中するようになった感じか。

 あるいは移動しながらとか……少し地面の状況が悪くても打ち返したりとか。


 俺も主にバフを使って参加したが、これで正解だったみたいだな。

 合流先の冒険者の防御力のアップはどこでも喜ばれた。

 敵も味方も多ければ援護役も効果的。これはゲームの中でも同じだ。


 あとはちょっと斜面の先の相手を【巨木の腕】で倒したりとかか。

 今の魔力なら一撃で倒せるので、タイミングを見ながらだが……。


 夕方に指揮所に戻ったのだが、皆の評価が一段と高くなったような気がする。

 レイアが丁寧に労ってくれた。


「……お疲れ様でした。狼煙の上がりかたを見ても、参戦された効果はよく確認できました」

「足手まといにはならなかったか」

「とんでもないでござる……。合流した先々で緑色の光の魔法。あれほど多くの魔力もそうでござるが、補助のおかげで効率が良くなったのは明白でござる!」


 地味かもしれないが、植物魔法はこういう魔法だからな。

 縁の下の力持ち的な使い方が良い。


「魔法といえば敵を薙ぎ倒すばかりと思っていましたが……」

「森ごと破壊するわけにもいくまい。素材もあるしな」

「もっともなお考えです。こちらは怪我も少なくなり、言うことは何もありません」

「それなら良かった……」


 とはいえ大分魔力は使ったがな。

 ……その日の夜、冒険者の間でこんな話があったらしい。


「エルト様は魔物退治でも臆することなく前に行くらしいぜ……」

「ああ、しかも魔法をぶっぱなして敵を倒すんじゃなくて……俺達を守ってくれる魔法を使ってくれるんだとさ」

「そんな貴族、他に聞いたことがないな……」

「ああ、しかも魔法を使いっぱなしだったとか……」

「すげぇな、本当……!」


 ……そこにステラも加わったらしいのだが。


「ええ、私も日々エルト様から学んでいるほどです……。今日もふたつ、教えてもらいました」


 きゅきゅっとバットを磨きながら。


「マジですか……。ステラさんでも?」

「Sランク冒険者に物を教えるなんて……! 信じられねぇぜ……!」


 俺が教えたのはエコロケーションとちょっとしたバッティングなんだがな……。

 どうやら戦闘方法を教えたみたいになっている。

 ……まぁいいか。

 ステラが有効活用してくれればな。


 そして数日後。

 フラワーアーチャーを順当に倒していき、ついに決戦の日を迎えたのだった。


フラワーアーチャー討伐率

冒険者による撃破+6%

ステラ・ウッドによる撃破+13%

エルト貢献分+7%

72%

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