30.ボール遊びとダイエット

 バーベキューではかなり食べた。

 蜂蜜と焼き果物の組み合わせは危険だな……。

 本当にお腹いっぱいだ。

 そのせいか家に帰りベッドで横になると、すぐ眠気がやってきた。


 まぶたが閉まる直前、夜空の星がとても綺麗に感じられた。

 星座のひとつもわからないが、それでも星は美しい……。


 翌朝、いくぶんか遅い目覚めになった。

 深い眠りだったと思う。騒いで満腹だったからな。


 リビングに降りると、ウッドが朝食の準備をしている。

 確か昨日のバーベキューの余り物が少しあったので、それを食べなくちゃだな。


「おはよう、ウッド」

「ウゴウゴ! おはよう!」


 ちなみに昨日はウッドも高級土を満喫していた。

 ウッドが埋まるほどの量はなかったので、ひたるくらいの感じだったが。

 それでもウッドはリラックスできるようだった。

 やっぱり同じ植物、ドリアードと好むものが似ているのだ。


 朝食を食べた俺は、今日の予定を考える。

 実のところ、今日も休日なので特にやることはない。

 もう一回寝てもいいし、本を読んで過ごしてもいいのだが……。


 そんなことを考えていると、お客さんが来た。

 ブラウンである。

 特に予定はしていなかったはずだが、どんな用件だろうか。


「おはようございますにゃん!」

「ああ、おはよう」


 ブラウンは今日も元気いっぱいである。

 ん? ブラウンは手さげバッグを持っているんだが……口が開いていたので、ちらっと中身が見えた。

 いくつもボールが入っている。

 これはニャフ族に頼んであった、動く雷対策のボールか……。確認してみるか。


「そのバッグの中にあるのは、頼んであったボールかな?」

「そうですにゃん。試作品が出来たので、お持ちしたのですにゃん」

「ありがとう。……でも今日は休みだから、明日でも良かったのに」

「あちしも作る前はそう思ったのですにゃんが、これを見ると……なんだかうずくのですにゃん」


 そう言うとブラウンはぐっと身を乗り出した。

 なんだか待ちきれないという感じだ。


「ボールを投げて欲しいのにゃん!」


 ◇


 というわけで、ウッドとブラウンを連れて広場に向かう。


 最近の天気は安定しており、今日も雲はあるが晴れている。

 ありがたいのが、風はほとんどないことだ。

 ボールを投げるにはちょうどいい。


 広場に行くともう運動している人がいる。

 木の剣を持って打ち合ったり、あるいはランニングをしていたり……ほとんど冒険者だな。

 やはり身体を動かすのが好きなんだろう。


 ちなみにステラもすでに広場に来ていた。今日は運動しやすい軽装である。

 ステラは棒を熱心にスイングしていた。


 ブウン、ブウン。


 ……音がやばい。

 スイングそのものも、かなり様になっているしな。


 というか、今日は休日だよな……。

 気合いの入り方がすごい。


「あ、おはようございます! エルト様!」

「おはよう、ステラ。……熱心にやっているな」

「これですか? えーと、昨日ちょっと食べ過ぎたので……」


 ステラはそう言うと、頬をかいた。

 なるほど、ダイエットも兼ねてか……。

 確かに昨日はよく食べた。体重が気になるのも当然だ。


「そういうことか……」

「ここのお野菜はおいしいので、つい食べる量が……。意識的に動かないといけないかなぁと」


 それならちょうどいいかもしれない。

 ボールの試作品もあるしな。

 運動したいステラにもちょっと話してみるか。


「実は動く雷を真似た、こんなモノを作ってみたんだが……」


 俺はブラウンから受け取った手さげバッグからボールを取り出す。

 あ、それぞれのボールに紐が着いている。


 ふむ、サイズ的にはぴったりだな。野球のボールと変わらない。手のひらに収まって投げやすそうだ。


 柔らかさは……ボールによって違うのか。

 硬式と軟式くらいの差がある。

 これも都合がいいな。


 くるくると回しながら確かめていると、ブラウンが尻尾をふりふりしながら俺を見つめてくる。


 熱い視線を感じる……ボールに対して。

 投げて欲しいのかな?


「そーれ」


 ぽいっ。


「にゃあああん!」


 柔らかいボールを軽く投げると、ブラウンは猛ダッシュでそれを追いかけて拾ってくる。

 かわいい……。

 ブラウンはボールを拾うと、ゆっくりと戻ってくる。

 なんだかとても満足げだ。


「ふぅ、楽しいにゃん!」

「そ、そうか……それならいいんだ」


 ぽいっ。


「にゃああああああん!」


 またボールを軽く投げると、ブラウンは楽しそうにダッシュしていった。

 なんだろう。俺も本当に猫と遊んでいる感じだ。

 ちょっと楽しい。


 ……ふむ、やはり柔らかいのはちょっと投げづらいな。

 硬い方が投げやすく、速度も出る。


「あのー……?」

「ああ、すまん。ブラウンに夢中になっていた……」


 言いながら、俺はステラにボールを見せる。

 そうそう、まずは彼女から意見を聞かないとな。

 動く雷の知識があるのは彼女なのだから。


「前にステラから聞いた話で、これを作ってみたんだ。どうだろう、投げれば動く雷対策になるかな?」

「あっ……! はいはい! そうですね……こんな大きさです」


 ボールの役割に気付いたステラは、驚きながらボールを手に取った。

 彼女もくるくるとボールを回して、興味深そうに見ている。


「……素晴らしい。そうです、そうです。ちょうどこれくらいです」

「良かった……。二人一組でこれを投げて打ち返す練習をすれば、効率的かと思ってな」

「……! ありがとうございます!」

「なに、ウッドの件もあるしな。事前に練習できるなら、それに越したことはない」


 紐がついているので、打ち返されても大丈夫だ。

 ……今のステラのスイングだと、クリーンヒットしたら間違いなく場外ホームラン並みに飛ぶからな。


「投げるのに多少のコツがいるとは思うが……」


 俺は軽くフォームの説明をする。

 とはいえ、俺の身体能力はごく普通だ。

 ちょっと慣れればステラの方が球速は出るだろうな。


 実際にボールを投げながら説明していると、冒険者達が物珍しげに集まってきた。


 ちょうどいい。彼らにもレクチャーしておこう。

 元々はザンザスの迷宮にいる魔物対策なんだし。


 ボールと練習の話をすると、冒険者達もがっつり食い付いてきた。

 まぁ、当然だな。

 未踏破エリアの動く雷について対策できるんだもんな。

 みんな、熱心に聞き始めた。


 ある程度俺の知る投げ方を教えたので、あとは冒険者同士に任せることにした。

 どう考えても、体力と運動センスは冒険者の方が上だからな。

 俺が指導し続けなくてもいいだろう。


 幸い、冒険者達は皮手袋を持っている。

 ミット代わりになるだろうし、気を付ければ怪我はないだろう。


 ウッドも棒を振るのが面白いのか、非常に乗り気だ。

 考えてみたら、ウッドはこどもみたいなものだ。

 野球みたいなのは一番楽しいのかもしれない。


「ウゴウゴ! ぼうをふるの、おもしろい!」

「よしよし……。ステラ、悪いが色々と見てやってくれ」

「はい! ウッドはパワーはありますからね、体の動かし方を練習すればすぐにモノになるかと……!」


 ◇


 ボールやら投げ方やらの手配を済ませた俺は、ブラウンへと向き直った。


 まだまだもの足りなさそうだ。

 ものすごーく遊んでほしそうだな。

 ふむ……せっかくボールも作ってくれたし……。


 このままブラウンと遊ぶか……。

 まぁ、俺がボールを投げるだけっぽいが。


「……待たせたな」

「いえいえ、そんなことはないですにゃん!」


 ぽいっ。


「にゃああああんーー!!」


 それからどんどんとニャフ族は集まってきた。

 結局、日が暮れるまでボール投げは続いた。

 ……俺もダッシュをするニャフ族がかわいくて、つい長々とやってしまった。


 これからも定期的に、ニャフ族とは遊ぶとしようか……。


 しかしまぁ、心地よい疲れというやつだな。

 ニャフ族ともさらに仲良くなれたし。

 彼らも昨日のバーベキュー食べた分動けたので、感謝していた。


 一日やって、ステラとウッドの動く雷対策もかなり進んだ。あとは積み重ねていけば大丈夫だろう。


 こうして俺の休日は有意義に過ぎていくのだった。

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