植物魔法チートでのんびり領主生活始めます~前世の知識を駆使して農業したら、逆転人生始まった件~
りょうと かえ
01.前世の目覚め
それは突然起こった。
一瞬、頭痛が起こり――頭の中に膨大な知識が流れこんできたのだ。
手が震え、冷や汗が出る。だがそれらはすぐに収まった。
これは前世の記憶だ。
うーむ……どうやら俺は転生者だったようだ。
そして今はわかる。この世界は――俺がやっていたVRのMMORPGによく似ている世界だ。
しかし思い出せるのは断片的な記憶と魔法の知識だけ。
前世でどういう人生を送っていたかは、おぼろげにしか思い出せない。
前世の知識も虫食い状態のような……。魔法についてはよく思い出せるんだが。
確かゲーム内でのんびりと魔法を極めていたはずだ。
そこまでは思い出せるんだが、記憶はあいまいだった。
まぁ、いずれ思い出してくるだろう。一度に思い出しても頭が爆発しそうだしな。
前世のゲームの中では魔法関連をとことん研究して、大賢者と呼ばれていた。
俺の頭の中には、その前世で培った魔法の知識がある。
今の俺は、貴族の実家から追い出された身。
「お前をこれ以上、家には置けない。出ていけ」
父親が心底冷めた目で俺を見下ろしながら、そう告げた。
一ヶ月前の話だが、思い出すだけでもふつふつと怒りが蘇る。
できそこない。期待外れ。間違って貴族に生まれた男。
そんな言葉をどれだけ家族から言われたことか。
……絶対に見返してやるからな。
俺には魔法の知識だけしかないが……これだけで十分だ。
♢
「だが……まずは家をなんとかしなくちゃな」
ぼろぼろの壁、壊れかけの机と椅子。ちなみに色々な箇所で雨漏りもしている。
自室から出た俺は、自身の状況を再認識した。
今の俺――エルト・ナーガシュは公爵家の四男で、十五歳。
だが今は実家を追い出されている。
貴族では生まれ持った魔法の適性が極めて重視される。適性がない魔法はろくに使えず、どれだけ魔力があっても無駄になる。
初級、中級、上級という区分のうち、適性がない魔法は初級しか使えないのだ。
そのため、まずはどんな魔法適性があるのかが重要だ。
そして戦闘用魔法の適性があれば優遇され、そうでなければ冷遇される。
俺の生まれ持った魔法適性は【植物】。
とても希少な適性だが戦闘には向かず、しかも扱いが難しく使えない適性とされている。
生活用の魔法が少し使える程度、そういう認識だ。
実は使いこなせば万能の魔法適性なんだけどな。
どうやらそういう知識はないようだ。
ともあれ、俺は家族に生まれた時から無視された。
植物の魔法適性はゴミ。ナーガシュ家の落ちこぼれと見なされたのだ。
そしてついに十五歳になったとき、ある領地の管理人になれと追い出された。
その領地は数百年放置されていて、住人は誰もいない。
完全な厄介払いだ。
「まともな領地にするまでそこから離れるな」
「魔物に襲われたら、逃げずに戦って死ね」
本当に家族だったのかと思うほど冷たい言葉で送り出された。
野垂れ死にしても構わない、ということだ。
しかし、ある意味では好都合。
人はいないし、自由時間だけは多い。
邪魔されずに魔法の練習や力を蓄えることができる。
と、そこまで考えているとびゅーっと風が家に吹きこんできた。
寒い。ぼろすぎる……とりあえず魔法で家を直すか。
この家と領地は家族からの手切れ金のようなもの。
自由にしていいらしいので、遠慮なく改造させてもらう。
俺は外に出ると、腕に力を込めながら魔法の知識を引っ張り出す。
【使用可能魔法】
魔力の実
野菜生成
果物生成
大樹の家
今、ぴったりの魔法は――あった、最後のこれだ。
前世のゲームと同じやり方で大丈夫だろうか……とりあえずやるしかない。
意識を腕に集中させて俺は唱えた。
「大樹の家」
腕から放たれた緑色の魔力が床に吸い込まれ――すぐに効果が発動した。
めきめきと地面から大樹が現れて、ぼろい家を補強するように覆い尽していく。
成功だ。
感覚的にも前世とほとんど同じだな。
大樹の家は植物魔法のひとつ。
家具付きの便利な家を作る魔法だが、今の世の中では評価されない。
植物魔法は慣れるのに時間がかかるとされる。
それだと普通に家を建てた方が早い。
前世の知識がある俺だからこそ、使いこなせるレベルだ。
……しかし魔法一回で疲労感がある。
うまく魔法を発動させたはずだが、魔力はまだまだ足りないな。
もっとも、植物の魔法を使えば魔力ポーションも作り放題だ。
この疲労感もすぐに回復できる。
よし、当面の目標はかつての力を取り戻すことだ。
魔力は回復させながら使いまくることで、効率よく成長できる。
少し時間はかかるだろうが問題ない。
俺の長年の知識――最高効率の成長方法論を使えば、あっという間に強くなれるだろう。
♢
家の中は見違えるほど良くなっていた。
大樹が床板、あるいは壁となって家を新調してくれたのだ。
もう風は吹きこまないし、雨漏りもすべて直っている。
ベッドもふかふかの綿毛でとても良い触り心地だ。
とりあえずこの気だるさをなんとかしたいな。
そう思うと頭の中にぴったりの魔法が思い浮かんだ。
よし、今度はこれを使うか。
植物の魔法だけにある、魔力を回復させる反則めいた魔法だ。
ベッドに座るとまた腕に力を込め――俺は唱えた。
「魔力の実」
床からにょきにょきと小さな苗が生まれる。
苗はすぐに成長し小さな木になって、サクランボのような赤い実をつけた。
赤い実を取ると、小さな木は消えてなくなった。
「よし――これも成功だ」
さらにちょっと疲れた気がするが、うまく発動した。
そろそろ俺の魔力がなくなりそうだな。
この赤い実は魔力ポーションの原料になる実だ。
設備がないのでポーションは作れないが、実は食べるだけでも魔力回復の効果がある。
俺は一口で赤い実を飲み込んだ。
甘い――なんだか久しぶりに甘くて美味しいものを食べた気がする。
思えばここに来てから一ヶ月、ろくなものを食べていないな……。
木の実を拾い、根っこをかじって生きてきた。
疲労感が薄れ、魔力がちょっと回復したのを実感する。
赤い実の魔法を使う前よりも疲労感は軽くなった。
これが赤い実の魔法。使いこなせばいくらでも魔力を回復できるのだ。
適度に魔力を使い、赤い実の魔法で回復する。
それだけでちょっとずつだが成長できる。まさに無限循環だ。
地道な道のりだが、かつての俺もこうやって最強になっていった。
……とりあえず少しずつだ。
こんな境遇で死ぬまで一人だなんて、納得できない。
でも今の俺は実家から追放された貴族の四男だ。
だけど俺には植物の魔法がある。
焦りはない――これからを考えるとワクワクした気持ちだけだ。
……絶対に実家を見返してやる。俺は改めて心に誓ったのだった。
領地情報
領民:1(エルト)
総人口:1
―――
3月5日、KADOKAWA様より書籍第2巻発売です!
https://dragon-novels.jp/product/322011000059.html
コミカライズは下記にて連載中!
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