第23話 偽りの姫君

フェーゲの学生から先日起きた事件についての報告を聞いて、ため息を抑える。

どちらの国も女王陛下好みの、操りやすい事態になっている。起きた出来事を第三者視点で聞いているからよりそう感じる。


先が読みやすぎる。

さもこちら側に合わせて動けと言ってきているのかと誤認するほど、このあとのフェーゲの動きも、それどころかレイドの動きすらもわかりやすい。


フェーゲは天使プルスラエルに敬意を表さないステラローズに警戒せざるを得ない。不届き者一人の行動とはいえ、プルスラエルにもしもがあれば全面戦争をするしかなくなるから。

一方でレイド側も王族が数少ないことからステラローズを退学にできない。監視要員を増やし、狙われている伯爵令嬢の護りを手厚くするぐらいしか手がない。

その結果、起こりうることは?考えを深めていきたいにも関わらず、霧散するように溶けて消える思考に自らの疲労を感じる。



「マリアンさまはどのようにお考えですか?私にはリリンシラ・ラグエンティがそれほど恐るべき人物のように思えないのです」



アザレア・アスダモイ、私の同僚であるシジルの娘が少しだけ眉間に皺を寄せてそう呟く。


リリンシラ・ラグエンティは私も自ら調べて近づいたが、敵として警戒する実力があるかと問われたら「ない」と断言できるほど弱い魔力に、非力な腕力のご令嬢だ。

だが、彼女はあの女王陛下が見ていればそのうち面白くなると断言する渦中の人物。ご本人に危険性がなくとも、監視をはずす訳にはいかない。



「我が父のように魔力などの武力ではなく、策略を中心にするお方だとしても、それでしたらあの姫君を抑えきれていないのですから程度は知れています」



本当にそうだろうか?

悩んでいるというアピールをするだけで、レイド王国屈指の武力を誇るインディル・ジークフリートを護衛に侍らせ、序列一位のクリストファー殿下から気を遣われるご令嬢のことを恐るべき存在ではないと判断するのは危険だ。


女王陛下の策略は弱いことや、負けていることすらも利用する強かさがあった。

あの頃、武力的にか弱いから、力でねじ伏せられると誤認していた魔族の幾名が彼女を慕う他の魔族に葬り去られたことか。


あの恐ろしさを体感していないアザレアに女王陛下の強さを説明するのは難しい。

報告にあるレイド王国の暴れている姫君のことすらも、彼女の計画に織り込み済みで、下手すると女王陛下の操り人形として動かされている可能性すらある。



「どこまでが女王陛下の策略か、私の方でも仔細がわからない。気をつけるように」



そうアザレアに告げる。

アザレアと話している途中からこちらを見ていた天使、プルスラエルが唇の上にわずかな魔力を乗せて微笑んだ。


そうされると父親のラファエル様とよく似ておられる。

天使であるにも関わらず学者としての実力で生活するソフィアとは異なる笑顔、騙し合いの中で生き延びていく強かな天使の微笑みだ。



「リリンシラ嬢には、天使顔負けの素敵な魅了がございます」



プルスラエル様からのアドバイスを聞いて、アザレアがため息をつく。武力による実力を持つ魔族ほど、その手の策に強くない。


ただ、プルスラエル様からこの評価を貰うリリンシラ・ラグエンティは女王陛下の娘として恥ずかしくないほどの謀略家に育っている。それだけは確信できた。

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