第2話 異界からの救済者
真っ青な髪が特徴のリヴァイア、真っ赤な髪が特徴のイブリスト。
二人がそろって、黒地に金の刺繍、小物の差し色に赤を施した近衛隊の制服で来たということは、よかった命じる前からこの二人も緊急会議の警護につくつもりでいるらしい。
「宰相閣下、この後の警備についてでしょうか」
「そうだ、あとは陛下からのお言葉を預かっている」
「陛下の命であれば、なんなりと」
かつては問題児だった二人が大人しく陛下の言葉を聞いてくれるとは感慨深い。
城を燃やしたり、凍らせたり、こいつらは散々だった。
「他言無用だ」
「契約を書きますか?」
「それは必要ない」
他言無用と聞いて、警戒して水色の目を細め、リヴァイアがこちらを見ている。
反対にイブリストは金色の瞳を恍惚にゆがめている。それはそれで気持ち悪い。イブリストは陛下の秘密に触れられると歓喜している。
手早く済ませて、こいつらをリリースしたい。
「フーリー、防音」
「かしこまりました」
防音用魔法幕が3人を覆う。
それに重ねて、
「閣下、もしかして」
「暴走するなといっても多分暴走するだろう。特にイブリスト。先に言っておく。陛下の御身を想うならこれが最善なのだ。理解しろ」
「はい、ヴルコラクさま。陛下のためでしたら何なりと」
私に倣ってリヴァイアは無言で
「本日、このあとの緊急会議で陛下は召喚を行われる」
「なにを召喚されるおつもりですか。勇者対策の召喚ですよね」
「リヴァイア、その通りだ。陛下が先んじて行わせていた研究によると、勇者と聖女に対抗するにはこの世界の理から外れた者が必要になるらしい」
「なるほど、蛇の道は蛇と」
近衛と騎士を統括する第1隊長を務めるだけあってリヴァイアは頭の方も優秀だ。リヴァイアはイブリストよりは忠誠が劣るとは言われるが、狂信の域に達しているイブリストほどの忠誠は普通いらない。
「陛下は召喚する異界のものを我らの女王とすることで、勇者と聖女の力を払うと決定された」
「異界から呼んだ、余所者を、陛下の女王に?」
予想通り、感情が高ぶったイブリストの魔力が渦巻き始める。外に投げ出していなかったメモのいくつかが燃え上がる。
「そうしないと、陛下はこれまでの歴史書の通りに勇者と聖女に討たれる。これが最善策なのだ」
「馬鹿を言うな。我々近衛隊が何のためにいると、ヴルコラクさまは私たちを信用されていないのか!」
「実力と予言は別次元だ、私とて他の手がとれるなら」
幼い時分からずっと共に過ごしてきて、国をどうしたらよいのかと悩み続ける陛下を見てきた。
私だって、陛下には好んだ女性と添って欲しかった。陛下であれば、だれでも選べたはずなのに、どうしてこのようなことになってしまったのか。
そもそも、どうして隣国の王が魔王だからという理由でレイド王国は勇者と聖女を差し向けてくるのか。魔王を倒した後、領地統括もしないくせに。
伝統といわれてしまえばその通りだが、納得いくわけがない。
「……申し訳ございません。ヴルコラクさま、取り乱しました」
「良い。想定済みだ。今回、会議前に2名に伝えたのには意味がある。
その召喚について、会議で説明がされる。おそらくナーガをはじめとした古参の一族がさきほどのイブリストが可愛く見えるぐらいの勢いでブチ切れるだろう」
「あぁ、そうでしょうね」
想像がついたのかリヴァイアが遠い目をしている。
竜人の一族であるナーガ、転移門のない国境領から飛んでくるからおそらく筆頭と付き添いの2名で来る。一人は筆頭のテユドラ、彼は近衛隊隊長の2名が合わせて掛からないと沈められない。
一緒に来るのはテユドラの娘、リンドラであることを祈りたい。彼女は比較的、穏やかな竜だ。
「今回の会議、外より中の警備を厚くしてくれ」
「仰せの通りに、宰相閣下」
「次に、異界のものの護衛についてだ」
両名が任務本分の話になったからか、神妙な顔になる。
「どの種族がくるというのは、閣下もまだご存じないのでしょうか」
「召喚するまでわからない。下手したら、サキュバスや夢魔のような弱い種族が来る可能性もある」
「そうなると、かなり手練れの護衛が必須ですね。
……閣下、グルル・ラクシャーサはいかがでしょうか。人型の悪鬼で、異界のものからしてもさほど抵抗のない見た目で、実力も十分です」
リヴァイアから提案があったグルル・ラクシャーサはさきほど私が絞った候補の中にもいた。問題ないだろう。ただし、グルルは男性だから、もう一人同性の護衛をつけておきたい。
「ヴルコラクさま、わたくし、サラ・イブリストも護衛に付きます。陛下の御身のためであれば、どんな感情も関係ありません」
「わかった。隊を離れるときの副官を2名、決めておきなさい」
「了解いたしました」
「リヴァイアもよいか」
「はい。それでは、すぐにかかります」
決めてしまえば早い。会議が始まるまで、あと少し。
なんとかして、召喚前に色々整えないといけない。
「ヴルコラクさま、入れ替わりにヤクシー2名、入れてもよいですか」
「よい」
フーリーの声に返事を返して、燃えてしまったメモをゴミ箱に風を使って投げ入れる。何を書いていたかさっぱり思い出せないが、煤になってしまったものは仕方ない。
痛むこめかみに指先を当てて、次の来訪者を待った。
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