くる 短編小説集
真田真実
違う
その日、友人のAが面白い動画があると私に見せてくれた。
私たちの住む町からほど近い雑木林の中にある土管の中から声がするという。
動画の中では大人の脇の下あたりの高さの土管がぽつんとあり中はゴミや石塊などが半分ほど入っている。
男が天気や当たり障りのない質問をすると中から違うと返事が返ってくる。
最後に動画の中の男が消えると面白いのだが男は半笑いのまま動画を終わらせた。
「なんだよこれ。」
「面白いだろ?何聞いても違うしか言わないんだと。バイト先の先輩が肝試しで行ってきたときの動画だよ。」
なんでもこの土管、もう何年も前から存在するらしく、その始まりも謂れもはっきりしないが、心霊スポットとしては少し弱いので不思議スポットという名で知る人ぞ知る存在だという。
Aは行かないかとしきりに言うが私は気乗りがしなかった。
ある日、毎日のようにAがしつこく誘うので仕方なく私はついていくことにした。
まだ陽も高い昼下がり、その場所に到着すると入れ替わりに数人の男女が嬌声を上げながら帰って行くところだった。
面白い動画でも撮れたのだろうかスマホを見ながらこちらに気を留めることなく去っていく男女を見送り私たちは土管の側に立った。
「頼む。」
Aがスマホをよこしたのでそれを受け取り動画を撮り始める。
「明日は晴れますか?」
Aは土管の縁に手をかけ身を乗り出しながら質問をする。
「違う。」土管の中から男の声がする。
「あなたは人ですか?」
「違う。」
なんだか嫌な予感がするのでAを止めようとしたが、Aは意に介することなくそのあともいくつか質問をして満足そうに土管から手を離した。
「お前もやってみろよ。」
スマホを受け取りAが楽しそうな顔で言うがやはり私は気乗りがしなかった。
「いいから、さあ。」
しぶしぶ土管に向かいながらAを見ると私には関心がないらしくさっそく動画のチェックをしている。
適当にすませて早く帰ろう。
私は土管の側に立ち声をかけた。
「あなたは…。」
「…見つけた。」
体が強い力で引き上げられた。
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