第5話 奈落

No4

         奈落



 葛城サナエと林田の関係は良好である。すでに最初の食事から一月半が経ち、互いの心の距離はかなり近づいていた。


 すでに食事の回数もそれなりに重ね葛城サナエは林田の気持ちをある程度操れていた。


 そして、ついに事は起こる。



 営業課の林田からメールが届く。


『今週末はマンションで過ごさないか? 林田』


『はい。......嬉しいです。では、また手料理を作りますね サナエ』


『楽しみだよ。ちなみに、女性用のセットは無いから準備して来てくれるかな? 林田』


『分かりました。ワンデイケアの商品がありますから。料理にリクエストはありますか? サナエ』


『特にはないよ。一緒に過ごせるだけでお腹一杯かな.....なんてな 林田』


『私も今から嬉しくて仕事が手に付きませんっ! サナエ』


 そんなメールのやり取りが行われ遂に週末を迎えた。




##


 

 葛城サナエは林田が住むマンションの一室のキッチンから林田に話しかけた。

 その姿はまるで仲の良い恋人同士にみえる。

 葛城サナエは、薄い紫のニットワンピースに白のパンツスタイル。その上からブラウン色のエプロンをしている。


「林田さん、料理できますよ?」


「了解。なら、ワインの準備をするよ」


 林田は葛城サナエが作る料理に合わせたワインを片手に持ちながら答えた。


 すでに窓から見える外の景色は陽が暮れ、闇夜の時間になっている。


 葛城サナエは作った料理を皿に盛り付けてテーブルへと運び、林田はワインボトルのコルクを開けグラスへと注いでいる。


「サナエさんは、白で良かったよね?」


「はい、私は白で良いですよ。今日のステーキはミディアムレアで良かったですよね?」


「うん。それで構わないよ。良い匂いだね」


 部屋の中に広がる匂いは食欲を掻き立てるような匂いが漂っている。

 そして、食事の準備が整うと二人は席に座りワインのグラスを片手に乾杯した。


 チィーーン


 小気味良い音がなり『最後』の晩餐が始まった。


 林田は葛城サナエが作った料理に称賛な言葉並べて食していく。

 葛城サナエはそんな林田の言葉を受け取り自分が作った料理を食べていく。


 夕食中はそれなりに話が盛り上がり互いに笑みを浮かべつつ、お酒もすすんだ。


 しばしの時間、食を楽しみ言葉を楽しみ酒を楽しむと時間はいつの間にか過ぎていき、いつしか甘美な大人の時間になっていた。


 部屋の証明は寝室のスポットライト以外は落とされ、葛城サナエと林田は互いに肌を重ねている。

 林田は葛城サナエの唇に自分の唇を重ね舌を絡ませる。

 葛城サナエは林田の舌を受け入れ自分の舌を絡ませる。


 互いに濃厚な口付けをすると林田は葛城サナエの肌を蹂躙していく。

 小振りだが形の良い胸や細い腰、スラリと伸びる脚などを優しく触っていく。


 葛城サナエは林田が触る度に吐息を漏らし声が出てしまうのを抑える。だが、それでも時折我慢できない声が寝室の広がる。


 そして、葛城サナエも林田の体を触っていく。首筋、胸板、腹筋、局部を優しく細いしなやか指で。

 林田の体の一部が反応し固く硬く形を成していた。


 葛城サナエはそれを見てから軽く吐息を吹き付ける。すると、ビクッと反応する。葛城サナエは林田の固く硬く形を成したそれを細い指で優しく握る


「林田さん、私もぅ....」


「あぁ、僕も限界だ。来てくれ、サナエ」


 互いにすでに『準備』が出来ていた。葛城サナエは、一度握っていた林田のそれを手放し上半身を起こしてから言葉を発した。


「.....私、嬉しいです」


「僕もだよ--」




 ビシッ---バスッ




「っ!! ワアァァァァアアアアッ!!」


 突如として耳に聞こえる不確かな音のあとに、林田が叫び声をあげた。その原因は林田の男性を象徴する身体的特徴の一部が消し飛んだ。


 林田はベッドの上で体を丸めながら自分の局部の手で押さえている。真っ赤な血が流れベットのシーツを血で染めていき、部屋の空間には林田のうめき声が広がっている。


 葛城サナエはそんな林田を視界の隅に追いやりベット脇に脱ぎ置かれている衣服を手にとると淡々と着ていく。衣服を着ると一度寝室から出ていき先ほどまで飲んでいた白ワインのグラスを持って戻ってきた。

 そして、今もベッドの上で悶え苦しんでいる林田の姿を見ながら手に持つ白ワインを飲んでから独り言のように話した。


「林田さん、私は嬉しいです。こうしてあなたが悶え苦しんでる姿を間近で見れる事が」


「ウゥゥァァァァァア........」


「ずっとあなたに復讐する機会を狙っていました。いえ、復讐では正確ではないですね。『罰』と言った方が近いですね。それがようやく訪れました。あなたは覚えていますか、『杉崎カヨコ』という女性を。まぁ、覚えてませんよね。名前なんてどうでも良かったんでしょうから。ただ、犯して脅せれば良かったんですからね」


 葛城サナエが言う杉崎カヨコとは、同じ会社で働くあの杉崎カヨコの事である。


 まだ杉崎カヨコが十代半ばで学生だった頃に、林田に甘く優しい言葉をかけられあるホテルの一室に連れ込まれ、性的暴行を受けた。そして、その光景は記録されていた。


 林田はその記録をネタに杉崎カヨコを思いのままに操り次々に性的シーンを記録していった。その記録されたデータはソーシャルネットへと流出し、杉崎カヨコは肉体的に精神的に多大な損害を受ける。さらには、その映像が売りに出され暴力団組織の資金源にまでなってある。その一部を林田は報酬として受け取っていた。


 杉崎カヨコのその後は専門的な治療を受けるために病院へと通うが社会的に復帰するまでにはそれなりに時間を要した。



 ちなみに林田は杉崎カヨコ当人と何度か接触しているが、十代と二十代では髪型や化粧でどうとでも変化させられる為に分からず、さらに林田はそんな事はすでに記憶の奥深くに沈んでいた為に分からなかったのだ。


「私はカヨコの主治医をしています。当時の話を聞くだけで怒りが沸き起こり、自分の理性を保つのに苦労します。カヨコにはアナタを法で裁く為に何度も話をしましたが、結局受け入れてもらえませんでした」


 葛城サナエは自分の声が、話が聞こえてるのかどうか関係なく淡々と話をする。時折、片手に持つ白ワインを飲みながら。


「カヨコと出会ってから数年の時間たち、ようやく社会復帰出来るぐらいまでの回復となり社会人として一歩を歩みだそうという時に、ある日怯えながらカヨコが言ったんです。『アイツを見たっ!』っと。この気持ちがっ! アナタにっ! わかりますかっ!」


 葛城サナエは声を荒げてベットに蹲る林田に向かって言った。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る