執行者~黒の依頼書~

紫煙の作家

第1話 始まり

No0

 始まり 



 現代より少しだけあらゆる技術が進んだ時代に、突如として現れた存在。いや、時代を遡り調べれば『ソレ』に変わる存在は幾つか確認されている。


 『ソレ』は、見方を帰れば正義、救済者、あるいは神。なんて大それた見方もある。だが、逆もある。悪、断罪者、死神。なんとも言い難い存在なのは確かだ。


 貴方、もしくは、貴女。まぁ、呼び名はなんでも良いが、仮にだ。自分に理不尽な事が突然襲いかかり、そして自分が傷ついたとしよう。


 肉体的に、精神的に、あるいは両方なのかは分からないが。


 自分を傷つけた相手は取り締まる機関によって捕まり、法の裁きを受ける。当然な成り行きだ。世界や国が定めた法を犯した団体あるいは人物は裁きを受けなければいけない『権利』がある。


 そして、裁きを下す機関から裁きを受けた団体あるいは人物は定められ刑期または罰則を受け終わると一般社会に戻る。

 極一部の団体あるいは人物は一般社会には復帰できない場合を除いて。


 罪を犯した者は、その罪を洗い流したと認められると『また』戻ってくる。


 これは罪人に与えられた権利、そして人が定めた法なのだから当然なことだ。


 では、傷つけられた自分にはどのような事が起こっているだろうか。肉体的に、精神的に傷を負った自分は罪人に賠償を迫り、自分が希望する罰則あるいは刑期が付与されるのか。


 一部では可能な限りの希望は通るだろう。そして、それに満足する自分がいるだろう。

 だが、希望が通らなかった自分はどうなのだろうか。もちろん、裁きは純然たる名の元で行われ、国が認めた機関が下した。


 それに理解をしても納得がいかなければ裁かれた、とは言えないのではないか。

 場合によっては罪人に有利な罰が下される時があり公平ではない判断が下りる。


 となれば、自分は傷つけられた『だけ』なのでは。まぁ、極端な見解でもあるし賛否両論でもあるのだが。


 自分が傷つけられた事に対して、報復行為を犯せばそれは罪となり裁かれなければならない。それは、人が決めた権利であり法であるのだから。


 世界はいつの時代も、弱き者は頭を垂れ強き者は高みから見下ろす。弱肉強食の世だ。

 そんな弱肉強食な時代、愚かで理不尽な時代に『ソレ』は現れた。


 『ソレ』は決して正義や悪ではなく、ましてや神や悪魔でもない。


 いつしか『ソレ』は『執行者』と呼ばれた。


##



「さてと.....今回の『黒の依頼書』もなかなかに食指が動く内容だよね」


「当然です、クソムシはこの世から殲滅です」


 黒髪黒目で見た目は二十代前半に見える青年は、マンションの一室で座り心地の良い椅子に腰を下ろし、目の前のデスクの向かいに立つ金髪の女性に声をかけると端的な答えが返ってきた。


「はぁ....ジュディス。出来ればもう少し言葉を選んでくれると俺の気分が良くなるんだけど?」


「クソ野郎の抹殺です」


「.....うん。少しずつ頑張ろうか...はぁ....」


 青年は小さく溜め息吐いた。

 目の前にいるジュディスと呼ばれた女性は、金髪のショートヘアが良く似合う美女だ。着ている服は無難な白のブラウスに黒のジャケット、タイトな黒いスカートに黒のストッキング。そして、濃い紫色のヒール。見た目は二十代半ばに見える女性で、スタイルはモデル並みとまではいかないが一般男性なら満足するぐらいの体型をしている。


「なぜ、溜め息を?」


「いや、なんとなく?」


「なんとなく?.....まぁ、いいでしょう。今回の黒の依頼書の内容を改めて確認しますが、ある一人の女性が男性に騙された、いえ脅迫されて肉体と精神に傷を負ったそうです。依頼者からは『裁きを下して、この世から消してほしい』と」


 ジュディスは手に持っている封筒を青年の目の前のデスクに置いた。

 青年はデスクに置かれた封筒を手にとり、中なら取り出した黒い手紙を黙って読んだ。


「.....................。まったく、どうしようもないな。了解だ、ジュディス。執行を開始しようか」


 青年はそう言って黒い手紙を封筒にしまった。

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