スナップショート
吉高 雅美
第1話「マスクを求めて」
ううむ、どうしたものか。
(困ったな、きっと、どうしんだって聞いて欲しいんだよな)
ううむ、どうしたものか。
(もう一回言ったら、聞くか、しかたがない)
ううむ、どうしたものか。
どうしたんだい。
マスクの買い置きが、とうとう無くなっちゃうんだよ。
なんだ、そんなことか。
売ってるとこ知ってんの。
ほら、あそこ行ってごらんよ。首相官邸前の歩道かな。無償で配っているよ。
首相官邸前の歩道では、マスク配りの少女(か?)が、黄色いほっかむりをして元気よく声を張り上げていた。横には返品されたマスクの山。
「マスクはいらんかえ。マスクを貰っておくれ。
一家に二枚、二十四枚入り、一年分のマスクだよ。
洗って二十回使えるマスクだよ。
一家に二枚、二十四枚入り、一年分のマスクだよ」
とうとう誰も受け取ってはくれません。
あわれ、マスク配りの少女は、自分でマスクを付けてみるのでした。
「ああ。これはカビの臭いがする」
カビの臭いなど、こんなに真近で思いっきり嗅いだことはありません。
なんて新鮮なカビ臭でしょう。
少女は次のマスクを手に取りました。
「すごい、べっとりと得体の知れない汚れが手に」
ケースから出したばかりのマスクに汚れが付着してるのです。
「さあ、次のマスクには、どんなステキなことが待っているのでしょう」
少女はワクワクしながらマスクを付けてみました。
「コホコホコホコホ」
急に咳が出てきて、発熱。体中に倦怠感がみなぎります。もう、立っていられません。少女はうずくまり、止まらない咳と発熱と全身いたるところで起きる痛みに、意識が遠のいてゆくのでした。
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