スタジオ27 超絶人気アイドルが俺を必要とするのには理由がある

 あの子さんの叫び。

 それは俺の心に響いた。


「母と娘。一緒にいるだけで幸せじゃない」


 そうだった。あの子さんは母親に甘えたことがないんだった。


「さくらさんには分かるでしょう」

「いや、全然。母親なんて、邪魔なときもあるわ」


 おいっ、さくら。そこは同意してあげろよ。

 母親と離れ離れの境遇っていう設定なんだから。

 ほら見ろ。あの子さん、白目むいてるじゃん。


「サクラ、よくも!」


 社長の目が血走っている。


「あら、社長。私の味方してくれるの? てっきり……。」


 まりこちゃんの言葉を遮ったのは、まりなさん。


「……私は、さくらんの味方になるわ!」


 入り組んだ対立構造だ。

 さくら・まりな連合対社長・まりこ同盟。

 でもこれ、なんの戦い?


 戦う明確な理由なんて、ないじゃん。

 だったら。


「やめろーっ、母娘が争っちゃダメだーっ」

「言われてんぞ、まりこ!」

「冗談。言われてんのは、あんた方でしょう」


 さくらに呼応して、まりこちゃん。

 既にさくらの事情を知ってるような反応。鋭い。


「えっ、そうなの?」


 まりなさんが俺を見た。何も知らない目で。

 俺は目を逸らすしかなかった。


 言いたい。俺はもう、黙っていたくない。本当は言いたいんだ。

 だから社長を見た。


 社長はこくりと頷いた。


「そうね。そろそろ潮時ね」

「………………。」


 さくらも観念したみたい。

 社長、いや、お義母様が重い口を開いた。


「サクラ、貴女は私がお腹を痛めて産んだ子よ」

「ママッ! ずっと待ってた。言ってくれるのを」


 さくらと社長の、美しい抱擁。

 いつまでも見ていられる。


「あら。その口振り、知ってたの?」

「うん。随分前に、ゲロってたわよ。忘れてもらったけど」


 やっぱり、さくらは知ってたんだ。

 おそらく何らかの方法で社長に言わせたんだろう。

 そして、また何らかの方法でそのことを社長に忘れさせた。

 さくらスマイルを使えば、造作もないことだろう。


 でもこうして名乗ってもらえて、本当によかった。

 感動した。


 抱擁を解いた社長。


「まぁ、はしたない言葉。そんなんじゃ坂本くんに嫌われちゃうわよ」

「大丈夫よ。あいつ、私にベタ惚れ中だから」


 そうそう。否定しないよ。


「そのようね。けどあいつ、ときどき勘違いするから気を付けて」

「そうね。あいつの勘違い、いただけないわね」


 妙齢の美人社長と超絶人気アイドル。

 美と美の共演。シナジー効果がハンパない。

 俺の視界を黄金比の通りに分割している。

 ずっと見てられる、絵画のよう。




 だが………………。




 俺の耳に届くのは、俺への罵詈雑言。




「何なのかしら。あのわがまま王子モードは」

「無能な男のくせに、一丁前に自己主張なんかして」


「本当にウザいわよね」

「全くよ!」




 本当に美しい絵面で。

 本当に端ない言葉で。


 俺が望んだ母娘の名乗りは続いた。




「大体、ロールケーキを作らないだなんて、ありえない」

「キスもしないって言ったりするって言ったり」


「情緒不安定なのね」

「お子ちゃまなだけともいえるけど」


「いずれにしても、百害あって一利なしよ」

「本当。しんぞうくんの方がまだ使い道があるわ」


 繰り返す。実に美しい絵面だということを。

 縁に満開のさくらの花が添えられていてもおかしくないくらいに。

 ただ、ほんの少しだけ、俺には手厳しいだけ。


「奴隷化しちゃえばいいのに」

「もちのろん。相手してたのは、ただの火遊びよ」


「まぁ。人の心を弄ぶなんて、たくましくなったわね」

「えへへっ。ママに褒められて、うれしいわ」


 うっ。美しい。

 だから俺は、奴隷化でも何でもされていいって思った。

 猛烈に奴隷化されたいってほどではなかったけど。


「よしよし。じゃあ、早速奴隷化して見せて」

「うんっ」


 さくらは言い終わるなり俺の前に来た。

 そして、短くキスをした。

 黄金比も何もない、ドアップのさくら。


 終わって直ぐに、さくらスマイル。

 そして言った。


「坂本くん、今日から私の奴隷だよっ! ねっ!」

「はいっ! 私は奴隷です。なんでもします」




 こうして俺は、奴隷化された。




 『超絶人気アイドルが俺を必要とするのには理由がある』

 それは…………。


 俺が優秀な奴隷だから。




 って、ならない。


 こんなんじゃ、終われない!


「違う違う違ーうっ。絶対に違うから!」

「なっ、何よっ!」


「俺は、さくらの奴隷にはならなーい」


 俺は、叫んでいた。

 俺は、奴隷化を拒否していた。


======== キ リ ト リ ========


まだです。まだ続きます。


この作品・登場人物・作者を応援してやんよって方は、

♡や☆、コメントやレビューをお願いします。

励みになります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る