ステージ04 坂本くん讃歌

 一緒にいたい。

 一緒にご飯食べたい。

 一緒にお風呂に入りたい。

 一緒に寝たい。


 一緒にキスしたい。


 一緒に勉強……それはいい。




 坂本くんが、涙目になっていた。


 聞けば、ご両親のことを思い出したとか。


 食事を共にしたいだなんて、いじらしいわ。


 坂本くんのご両親って、どんな人?




 きっと優しい人。


 きっと強い人。


 坂本くんのように。


 きっと、よくできた方に違いない。




 もし、坂本くんのご両親と一緒に食事なんていうことになったら!

 私は私でいられなくなっちゃうかも。


 何だか、わくわくする。


 両親の他に、おじいちゃんもいるみたい。


 1度でいいから、お会いしたいな。




 そうしたら、坂本くんは私のことを何て紹介するんだろう。


 クラスメイト?

 超絶人気アイドル?

 ビジネスパートナー?

 汚部屋の人?

 洗濯しない人?


 どれもイヤ。


 カノジョが1番しっくりくるもの。




 それしかないよね。そうだよね!




 目の前にいる坂本くんは、かわいい。

 だから私は言ったの。


「坂本くんって、親孝行なんだね! 私はそういう風に考えたことなかったわ」

「いやね、俺はできが悪いからそれだけ苦労をかけているってことなんだ」


「そんな、坂本くんのできが悪いだなんて、思わないよ。(むしろコスパ高いよ!)」

「ありがとう。そう言ってくれるのは、佐倉だけだよ」


 うんうん。分かってらっしゃる。

 もし、他の女が坂本くんに言い寄ってきたら……。

 消すか!




 坂本くんとしたいことはいっぱいある。

 これは、そのうちの1つに過ぎない。


「ねぇ、坂本くん。温泉、好き?」

「好きだよ、とっても!」


「じゃあさ、あとで一緒に入ろっか!」


 混浴、いいでしょう!




 坂本くんは、少しの間をおいてから答えてくれた。


「うん。一緒に入れるなんて、俺、超うれしいよっ!」

「やったぁーっ! でね、その代わり、お願いがあるんだけど……。」


 その代わりなんて言っちゃった。

 本当は、混浴がうれしいのは私の方なのに。


「あぁ。部屋の片付けなら任せてよ!」

「それは、今日じゃなくってもいいわ」




 私は、坂本くんを見ていると、つい顔がほころんでしまった。

 そんな顔を引き締めてから続けた。


「何ならしばらく通ってくれた方がうれしいし」

「大丈夫。この部屋だけならあと1時間くらいで終わるから」


「いやね、その。部屋は他にもあるから、それはそれでお願いしたいんだ……。」

「まっかせなさいっ! 俺、片付けるのは得意だから!」


 坂本くん、張り切ってる。

 どや顔もかわいい!




 部屋の掃除を張り切るって言った坂本くん。

 きっちり邪魔させてもらうわ。


 そうすれば、長く通ってくれる。

 そうすれば、一緒にいられる。


「わぁい。頼もしいわ。でも、お願いは別にあるの……。」

「大丈夫。言ってみて!」


 坂本くん、意外にも男らしいのね。

 どんとこいって感じの顔を見せてくれた。

 男らしいけど、かわいい。




 私は遠慮せずに言った。


「あのね、写真撮ってもらいたいの……。」

「えっ……。」


「ほら、さっき写真撮るのが趣味って言ってたから。キスのあとお願いしようかなって!」

「お安い御用だよ! むしろ、うれしい!」


 坂本くん、うれしいんだ。

 私の方がうれしいのに。

 でも、喜んでもらえるなら、もう1歩踏み込もう!




 喜んでくれた坂本くん。

 もっともっと、喜んでほしい。


「で、その衣装っていうのが、浴衣なんだけど!」

「えっ! 浴衣。それ、いいじゃん!」


 よかった。あぁ、よかったよかった。

 でも浴衣って、どこだっけ?

 ま、いっか。


 このあとの私の予定。

 エステ、温泉、キス、撮影。そして、寝る!

 どれも楽しみで仕方がない。




 さすがに、一緒に行くわけにはいかないか。


「押し付けちゃって本当にごめんなさい。私、エステなの……。」

「いいんだよ。何度も言うけど俺、片付けるの得意だから!」


 私は坂本くんに見送られ、2時間弱は坂本くん抜きで過ごすことになった。

 本当はエステまでは30分もあるの。


 でもその前に、やっておきたいことがある!




 私がやっておきたいこと、それは写真の現像。


 既に係は呼び出している。

 13階で合流することになっている。

 彼女なら、きっとうまくやってくれるはず。


 でももし、失敗するようなことがあったら。

 そのときは……消すか!


 「さくらん、お待たせーっ!」




 私が呼び出したのは、しいちゃんこと、しのみやみづき。

 同じユニットの同期。表のリーダー。

 裏のリーダーは、私なんだけどね。


 しいちゃんなら、私の味方になってくれること間違いない。

 しいちゃんの身体は、そういう風にできているから。


「さくらん、呼んでくれてうれしいよっ」


 しいちゃんは、男嫌いで、女好き。

 ちょっとうっとうしいのが、たまにきず。




 私はしいちゃんに写真の現像を頼んだ。


 報酬は、私の写真。


 でも、これはサプライズ。


 頼む段階では、2枚ずつとだけしか言わなかった。




「分かったわ。2枚ずつ渡せばいいのね!」

「そうなの。こんなこと頼めるの、しいちゃんしかいないのよ!」


 私は、うそをついた。

 本当は、他にも頼めばやってくれる人が沢山いる。

 でも、しいちゃんが1番頼みやすい。


「大船に乗ったつもりで待っててね!」


 しいちゃんは、ちょろい。




 そのあと私は1度ホテルを出た。

 向かったのは、高級下着店。

 女性ものばかりでなく、男性ものの取り揃えも豊富。


 最近ではペアルックスのものもあるみたい。

 そのうち買いに来よう。

 一緒にお買い物もいいよね。


 けど今日は、最高級品を坂本くんに進呈したい。

 だから、そんなのを数枚見繕った。




 エステの時間になった。

 担当の山田さんは、腕は確か。


 けど、ちょっと苦手。

 その理由は、エステ中のおしゃべりの話題。


「あら、佐倉さんいつもありがとう」

「どうも。よろしくお願いします」


 ここまでは普通なんだけどね。

 このあとが大変なのよ。




 山田さんが徐々に本性を現す。


「佐倉さん、今月、誕生日でしょう。会員になりなよ!」

「何のですか?」


「イヤだなぁ。山吹さくらのFCだよ」

「私、あまり興味なくって……。」


 だってそうでしょう。ご本人様なんだから。

 私はそれほどのナルシストではないのよ。




 山田さんの勧誘は、断り方を間違えると延々と続く。


 このときは、そんな日だった。


「すごくかわいい画像がいっぱいだよ!」

「興味ないですから」


 あぁ、うっとうしい。山田さんのこと……消すか!




 そうはいかない。

 山田さん、腕だけは確かだから。


「えーっ。私の推しを気に入ってくれないの?」

「……はぁ……気持ち……いい……。」


 気に入ってますとも。


 山田さんのフットケア、押しがいい!




 施術が終わり、しばらくはのんびりタイム。


 のはずなのに、どうして?


 緊張がとまらないの。


 腹這いにじっとしているだけ。

 なのに何故か、身体が坂本くんを感じている。



 

 つまり、私は間接的に坂本くんにさすられているように感じたの。


 こんなところをあんな風に擦られて、してるみたい。

 まさにそういうこと!


「はっ、はあっ、はっ、はははぁん……。」


 私は、言葉にならないことを言った。

 でも、どうして?

 これが、愛なのかしら……。




 不思議な体験だったわ……。




 でも、あり。




 エステを出た。しいちゃんと合流。

 しいちゃんは、あざとく見つけた。私が下着を持っているのを。


「おっ、男物じゃないの。さくらんの浮気者ーっ!」

「待て待て待て、しいちゃん。私たち、付き合ってない」


「でもでもでも、さくらん。私には、貴女しかいないのよっ!」


 うっとうしい……消すか。




「そんなことより、写真はできたの?」

「もちのろん! 7種類、2枚ずつあるわっ!」


 よしよし。さすがはしいちゃん。首尾は上々ね。


「ありがとう、しいちゃん。じゃあ、半分どうぞっ!」

「えーっ! いいのよ、そんなーっ!」


 しいちゃんが遠慮している。

 何だ? 泣いてよろこぶと思ったのに。

 ちょっと肩透かしだったな……。




「あのね、さくらん。私、もう頂いたから……。」


 えっ? なるほど、そうなのか。


 これは、お仕置きが必要ね。


「しいちゃん。全部出して!」

「そっ、そんなーっ!」




 しいちゃんは、佐倉にも素直な良い子。


「はい。没収っと。それから、次はスマホ貸して!」

「えーっ! どうして分かったのーっ!」


「図星よ、図星。ったく、早くして!」

「はっ、はーいっ……。」


 分からいでか。本当は、図星なんかじゃない。

 しいちゃんの行動パターンは把握済み。




 私は、しいちゃんのスマホを受け取った。

 そして、データを1つ1つ消した。


「はい。これは削除!」

「あーん……。」


「次、これも、削除っ!」

「いやぁーん」


 いちいち嬌声をあげるなや。

 ……消すぞ!




 しいちゃんがパクったデータを全部消去。

 しいちゃんは、項垂れていた。


「よしっ、これも消そう!」

「あっ、それは……。」


「罰ゲームよっ!」


 それは、私たちの集合写真。

 デビュー当初の記念のもの。

 しいちゃん、泣きそう。




「ふえぇーん。さくらんの意地悪ぅーっ」


 言われてはじめて気付いた。

 たしかに私は意地悪かもしれない。


 こんなんで、坂本くんのハートを射止められるかしら……。

 しいちゃんは兎に角、坂本くんとねんごろになれないなら、問題だ。


 私はガラにもなく、反省した。




 しいちゃんとさよならした。


 見えなくなってから、件の画像のデータを送信してあげた。


 直ぐに返事があった。


 それを見て驚愕した。




ーーあっ、データはバックアップ済みだったのーー




 しいちゃん、貴様はなんてずるがしこいんだ。


 そう思っていたところに、直ぐに追申。


ーーでも、今いただいた方は家宝にするねっ!ーー


 ぷっふふ。しいちゃんは、素直ないい子だ。




 このあと私は、坂本くんの待つ我が家へと戻った。


======== キ リ ト リ ========


佐倉にも、ちゃんと支援者がいるんです。

彼女たちは、どんな風に坂本くんとの仲に関わるんでしょうね。


5月はありがとうございました。

6月もよろしくお願いいたします。


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とってもありがたいです。


よろしくお願いいたします。

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