ステージ03 君の名は坂本くん①

 坂本のやつがスマホで天気予報を見ていた。


「あーあっ。こりゃあ、1時間は止みそうにないな……。」


 そんなことって。


 あの雷地獄の中で、また1時間も過ごさないといけないの?


 それはさけたい。


 それだけは。


 だから私は言ったの。

 心にもないことを。



「じゃあ、ちょうどいいわ。次枠は1時間にしましょう」

「えっ、無理だよ。あと1時間はこの調子が続くんだから」

「大丈夫。坂本くんとキスしてれば怖くないもの」


 その瞬間、また稲妻が走り、雷鳴が轟いた。

 さっきほどではないけど迫力充分。


「きゃっ……。」


 こっ、怖い。恐くって、何も考えられない。


 山吹ってしまえば、私は無敵になる。


 けど、佐倉菜花のままだと、雷には勝てない。


 これだけは、絶対ダメ。


 私は、坂本のやつの胸に顔を沈めた。




「佐倉は強いな。俺だったら布団にくるまって寝ちゃうよ」


 坂本のやつ、私の背中を摩ってる。


 本来なら許すまじ行為!


 でも、今はいい。


 私も、もうしばらくは、こうして坂本のやつの胸を借りていよう。


 雷のせいか、妙に落ち着くんだ。


 っていうか、坂本のやつ、今、なんて言った?


 とんだセクハラ発言じゃないの。


 でも、使える!




 私は、坂本のやつを見上げるようにして言った。


「……坂本くんって、頭いいのね! その手があったわ……。」


「なぁ佐倉。その手って何だ? 一体、何をはじめる……。」


 えっ? 坂本のやつ、自分で言ったことの意味が分かっていないの?


 バカ過ぎじゃない。バカ兄貴以下かよっ!




 そしてまた稲光と雷鳴。


 もう1度、坂本のやつの胸に身を隠す。


 それがおさまった直後、私は言った。


「手伝ってくれる? 先ずは退かさないと!」

「退かすって、何を、どこへ?」


「ベッドの上の服。どこかシワにならないところへ」


 ベッドの上には、服というか撮影用の衣装が並べられていた。


 撮影の順番を考えて私が並べたもの。


「何でまたそんなことを?」


 答えてあげねばなるまい。


 坂本のやつは、バカだから。


 でも、今直ぐはムリ。

 先ずは避難。

 坂本のやつの胸に。


 予想通り、程なく雷鳴。


 避難成功。




 私は、坂本のやつを見上げた。


「次のドーンのあとに動いて」

「だから、何でそんなことするんだよ……。」


「決まってるでしょう。ベッドで、布団の中でキスするのよっ!」


 言ったそばから避難。


 次のドーンのあとはベッドイーンに向けて支度開始だ。




「佐倉、そういうのはもっとこう……。」


 は? はっきり言えよ。


 坂本のやつはアウトだ。


 男らしくない。


 全身黒タイツを履いてもいないのに、もじもじしやがって!


 坂本のやつをしゃきっとさせるには、あの手しかない。




 私は、坂本のやつの唇に狙いを定めた。




 坂本のやつを真っ直ぐに見つめた。


 そろそろ次弾に警戒するべき時間。




 私は、そっと目を閉じてキスをした。




 ドーンからはじめ、

 次のドーンが終わるまで。




 そして、今がチャンス!


 私は抜かりなく身体を坂本のやつから引き剥がしたあと唇を離した。


 そうしないと、山吹った私に触れた坂本のやつがイッてしまうだろうから。


 イッてもらってもいいけど、今はダメ。


 雷の中、独りにはなりたくない。




「坂本くん。今よ。支度、頑張ってーっ!」

「おおーっ! 任せとけっ!」


 坂本のやつは、それはそれは張り切って支度をしてくれた。


 それでこそ、飼い人間。それでこそ、坂本。




 パンッと音を立てて手を合わせた。


 脇をギュッと締め、懐を狭くした。

 おっぱいが水着の中でズンと前に出るようにした。


 これは褒美よ。


 坂本のやつ、健気なんだもの。




「ありがとう、坂本くん! 助かっちゃった!」

「言ったろ、任せろって!」


 何だあの、GJポーズ。

 うける。笑える。面白い。


 腹がよじれそう。




 やばい。時間がない。もう直ぐ次の雷が鳴るころ。


 私は坂本のやつに近付いていった。


 そして、佐倉に戻ると、坂本のやつにキスをした。


 けど今、ちょっと避けようとしたんじゃないかなぁ。


 まさかとは思うが、念のためおしおきが必要ね。




 キスを終えた直後、おしおきを実行。


「ベルトの金具がお腹に当たると痛いの……。」

「じゃあ、外そう!」


 坂本のやつは、ベルトを外した。


 すごい勢い。単純なやつだよ。


 でも、言われた通りにしかできないバカ。




 私は、上目遣いに言った。


「中途半端だよっ!」

「じゃあ、脱ごう!」


 ズボンを脱いだ。


 そのあとも、

バカな坂本のやつは、

靴下を脱ぎ、

Yシャツを脱ぎ、

中シャツを脱いだ。


 そしてついに、

パンイチになっていた。




 もう1度、キスをした。


 坂本のやつ、例の姿勢になってる。


 でも、トイレにはイかさない。


「寒い? 先に布団の中で待ってて!」

「うん。そうするよ!」


 坂本のやつ、通常の3倍以上で動いてた。




 着替えたあと、佐倉に戻ってから坂本のやつの横に並んだ。


 ベッドの中は快適。


 1時間も苦じゃなかった。


 成功者へのご褒美だ。


 こんなところで寝れるなんて幸せだなって思う。


 もっと山吹ることができれば、もっとふかふかなところで寝れるのかな。




 山吹ってる私は無敵。芸能界の制覇も目前。


 何ひとつ、不自由がない。


 山吹ってさえいれば。




 でも、佐倉は違う。


 誰にも気付かれない。

 誰にも相手にされない。

 誰にも褒められない。


 誰にも、かばってもらえない。




 いや、違った。私には、坂本のやつがいた。


 そう。坂本くんがいた。ちゃんとかまってくれる人。


 うん。坂本くん。その方がしっくりくる。


======== キ リ ト リ ========


いつもお読みいただいてありがとうございます。

書きたいことがあり過ぎて、迷った結果、2話に分割しました。


今話はそのうちの前半になります。

後半は明日にはアップします。


少しずつでも感想を頂けているのがありがたい限りです。

引き続き、よろしくお願いします。


ランキング2桁というのは目標の1つだけど、

今、力を入れるべきはPVの増加かなって思います。


だから、今日までお読みいただいたのべ1500名には、

感謝の言葉しかありません。


ありがとうございます。

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