第33話 事件…(圭蔵さんが行方不明)

夢に驚いて布団から落ちるなんて、多分今までなかったと思う。いや、ほんとにびっくりしたよ…。

龍神様…だっけ?これまでは、誰かが話すだけの物語って思っていたから。

はっきり言って他人事だったな、龍神様なんているの?実は嘘?なんて考えてて。

だからかな…。

え?え?え?私が『ちょうこ』さんの生まれ変わり?嘘でしょう????って感じなんだけど…。

でも、でも、でも…。ここに居るってことは、そうなのかもしれない…。


現実を考えるならば、マンガじゃあるまいし、異世界?過去の世界?に飛ぶなんてことは無い訳だし…。実際には、私はここに居るんだし…。


ふと思い立って、あの赤い玉を取り出して見て見る。

いつものように、日の光が差し込むと透明さが増し、透き通る赤色に見える玉をじっくりと眺めてみる。

手に持っているだけで、何となく落ち着いてくる。

でもって、見ているだけで何でもできそうな気分になってくるから不思議だ。



◇◇◇



少し朝寝坊をしてしまった私は、朝ごはんに呼ばれて急いで顔を洗い支度をした。着物って着替えるのに手間がかかるんだよね…。

朝ごはんが済むと、おばあさんに呼ばれてしまった。朝寝坊のこと、ダメだったのかしら…。

廊下を歩いていると、涼しくて柔らかい風が吹いているのが分かった。

もう秋なのだろう。紅葉には早いけど、森では木の実が大きく実り、早く振り撒きたいって感じで木々が嬉しそうに体を大きく揺らしているのが分かる。

動物たちは、来る冬に備えてせっせと食べているのか、満足感に満たされている『気』が感じられてる。

幸せな季節だと思った…。


呼ばれた部屋に入るとおばあさんは神妙な顔つきで直ぐに人払いをし、小声で私に話しを始めた。

いつの間に来たのか、赤鬼の姿の良二さんが傍らに座っている。


圭蔵さんが行方不明になってしまったということだった。


圭蔵さんは、花子さんと結婚を約束している人で、今は石彫師として修業に行っているはずだ。帰ってきたら祝言だと言っていた…。

とても仲が良かった二人の姿を思い出すと、心が痛んだ…。

でも、何故私にそんな話をするのだろう…。


良二さんが重い口を開いた。

「圭蔵には、善一の事故について内密に調べてもらっていたんです。

この土地の墓石は高く売れるから、事故があった時期に隠れてこの辺りで採れたような石で造られた墓石とか仏像がよそで彫られて売られていなかったかとか…。

手紙では、時期は少し遅くなるけど、やっぱり闇で売買があったらしい…と書かれていました。誰かが、石を掘り出しで加工して売っていたようで…。

それで、その黒幕が…。

ご領主様の弟君である暁様だったようで…。

これは、ご領主様に対する謀反にもあたりますから、本当であるならば大変なことなんです。

また、圭蔵の手紙には、その暁様は『赤い玉』を持っておられると…。

『赤い玉』は、この村では大切な守り石で、昔あったものは善一の事故の時に割れてしまいましたし…。

ま、至る所に赤い石はあるのですが、塊になっていくには強い意志が必要で、それができるのは、この家の当主か子を守りたいって思う母の気持ちなのですが…。

暁様がそれを持っておられるというのも、よくわからないし、気になるのです…。

そして、その手紙を最後に音信が途切れ…。

今、圭蔵の行方が分からない状況で…。」


深い溜息をついて、良二さんは言葉を止めた。

おばあさんは、何か考えているようだったけど、何も話さない。


良二さんが思う出したように言葉を紡いだ。

「そう、この件でご領主様が今からこちらに来られます。」



◇◇◇


お忍びで来られたご領主様は、供を二人しか連れておられなかった。

でも、そのお供の方を見た時、私はうわぁーっと叫びそうになってしまった。

だって、昔話で見た『餓鬼』そのものだったから…。

『餓鬼』ってたしか、生前の悪行のために餓鬼道に落ちて、いっつも飢えとか渇きに苦しんでいる、頭が剥げてボロボロの衣服を身に纏い、ガリガリに痩せて目玉だけはぎょろぎょろさせている人らしきものだったと思うのだけど、今まさにそんな恰好をした二人がご領主様の後ろを歩いている…。

かなり、気持ち悪かった…。


良二さんは私の表情が変わったことに気づいたようで、人払いと称してご領主様だけを奥座敷の客間に通し、二人は手前の客間に待たせたようだった。

私自身、手前の客間の前を通るのさえも、怖くて早足で通りすぎようとしたけど、何だか声が漏れて来ていて、聞くのも恐ろしいけど耳に響く声を無視することが出来なかった。


「情報がどこぞで漏れた……暁様にこの事を話さなければ…。」

聞き耳を立てたいような内容だったけど、恐怖で足が竦む…。

聞こえない振りをして、通り過ぎるのがいいと思うけど…。


良二さんには聞こえなかったようで、私の背中を押すように、奥座敷へと連れていく。

え?私も同席ですか?

「緊張しなくても大丈夫ですよ。お戻り様が居られることはご領主様もご存じですし…。一度あってみたいとも仰ってましたから…。」

赤鬼の顔で笑い顔をされても、これはこれで怖いのですけど…。

ご領主様ってどんな方なのだろう…。覚悟を決めて、私は早足で廊下を歩いた。



奥座敷の客間の上座に座って居られたのは、17歳くらいの若い男の子だった。

赤い着物…。色留袖って言うのかな?紋が入って鶴と色とりどりの花がちりばめられた、とっても高そうな着物を肩から掛けている。

あれ?さっきと雰囲気とか服装とか違うような気がする。


良二さんが私を目で制する。挨拶をしなさいってことだよね?

「お初にお目にかかります。縁があってここに参りました。「葉月」と申します。こちらでは、「お戻り様」という役を頂いております。」

事前に言われた通りの口上を述べて、頭を下げて三つ指をつき、ご領主からのお言葉を待つ。


「苦しゅうない、表をあげよ。ここでは、『お戻り様』の方が身分が上であるからな。」

優しいお言葉を頂き、ホッとする。

でも、若すぎるのでは?








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