第7話 採石場で見つけた赤い玉

筑波山の麓で光って見えた場所は、採石場だった。私のイメージとしては、ショベルカーでガーっと掘っている感じなんだけど、当たり前にこの時代にそんなものはない。細々と山肌を削って、そこから石を発掘しているようだ…。


掘られた石は、とっても綺麗だった。白いというか、青色がうっすらと残った灰色というか、高級墓石っていうのかな?お墓場だと思うけど…色に見覚えがある石の塊がいくつも置いてあって、圧倒された。どうするんだろ、これ。

私の視線と表情から読み取ったのか、花子さんが答えてくれた。

 「墓石や仏像にするんです。腕のある石彫師もいるんですよ。」


私達が馬から降りると、若い男性?好青年って感じの人が迎えに来てくれた。身長は170㎝くらいかな…。現代で言うならあまり高い方ではないが、この時代なら高い方かな?二重の目が少し細くて、目尻が垂れ目になっていて頼りないけど優しいぞ!って顔が示してくれている感じの人を花子さんが少し頬を赤くして紹介してくれた。

「この方は、風間家の圭蔵さんで、石堀師をされているんですよ。」

あー、花子さんのいい人ってやつですね。はい、はい、なかなか良い感じの人じゃないですか。うん、うん。つい、にやけてしまう。

「初めまして、よろしくお願いいたします。」


採石場を案内してもらってる間は、私は勾玉をはずし、心の目で周囲を観察した。案内してくれる二人は、心が通い合っているからか、空気が混じり合うような甘い雰囲気に包まれていて、ちょっと横に居たくないって感じになっちゃった。

この雰囲気は、そう、楓と勇気君を見つめていたときに似ている。うん?勾玉を外して見ると、瓜二つのカップルにしか見えないんですけど…?

ま、いっかぁー。今はこの場所が何故光っていたのか、知らなければならない。


奥に進むにつれて、光が濃くなっていくのが分かった。背筋を伸ばして、襟元に手をやってしまう…。何だか緊張する。空気が段々と変わっていく。

息をするのも怖い気がする。突き当りまできてみたが、まだ掘られていない奥のほう…そう、そこだ。強い光を放つ箇所が透けて光っているのが見えた…。

私以外は誰も気づいていない。


「この先は?」

「ここは深すぎて、もう掘れないんですよ。崩れてきそうだから…」

確かに、人の手で堀っているからか、少し脆く感じる。

でも、この先に何かがある…。絶対。


少しだけ二人から離れて歩くと、強い光が輝きを増し、まるで私を迎え入れてくれているように感じる場所に辿り着いた。


深呼吸をする。

「ただいま。」


誰かが囁いた。

『お帰り…。』



赤い光の中心に閃光が走り、気が付くと私の右手にはピンポン玉位の大きさの赤い玉が乗っていた。

一体これはなんだ?私は自分の手のひらに乗る赤い玉を左手で摘まみ、太陽に向かって透かすようにかざしてみた。透き通るように透明な鮮紅色のその玉には、濁りが全く無く、初めて見たのに懐かしい気持ちが湧いて来た。

これ、前にも見たことあったっけ?


離れていた二人の処に戻る前に、緑色の勾玉の入っている袋の中に赤い玉をそっとしまう。何故か誰にも言わない方がいいって感じたからだ。


「やあ、月子ちゃん。あ、間違いました。お戻り様ですね。」

急に声を掛けられ、振り返ると物凄く怒った形相の赤鬼が立っていた。

3mはあるだろう巨漢が手を上げたので、私は大声を上げてから、気絶した…らしい。


布団の上で目を覚ました私は、どこにいるのか見当がつかなかった。確か、筑波山の麓の採石場を見て回っていたと思うのだけど…。

「あ、気がつかれましたか?」

花子さんの声が近くで聞こえた。首には勾玉入った袋の紐が掛けてあった。花子さんの配慮だろう。すぐに少し年配の男性が申し訳なさそうな顔で入って来た。

花子さんは、月子ちゃんの父親の弟にあたる人だと紹介してくれた。そうか、月子ちゃんの叔父さんかぁ…。でも、この声って…?

「高坂の叔父さん、お戻り様は少しお疲れのようですから、もう家に戻りますね。また、来させてください。お仕事中に、お手数をおかけして本当に申し訳ございませんでした。」

花子さんは、私を抱えるように支えながら、そして少し急ぎ足で黙って馬に乗せた。何も聞くな、言うなと言われている気がして、花子さんのするがままに私は動いた。あの赤鬼に見えたのは、恐らく叔父さんのはず…あれ?なんで赤鬼だったんだろう。


馬を走らせてからも無言だった花子さんは、不意に馬の動きを緩めると話しかけてきた。

「少し散歩をしてから、戻りましょう。お戻り様は、叔父さんが何に見えたのか、私にはお話しくださいませんか?」


花子さんは、聡い人だ。私の反応から叔父さんが違うものに見えたことが分かったのだろう。そしてあの場で、話せば問題になることも分かっていたのだろう。私は息を少し吸い込んでから、小さく頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る