第52話

 いつの間にか瑠衣はドアを背に、

 彼の止まらないキスを、受け止め続けていた。



















 ちょっとした彼の吐息や、























 潤んだ熱い視線や、





















 重なる肌の感触を、



















 彼の、愛しさから溢れる衝動を、






















 自分の全てで、受け止めていた。
























 触れられた部分の敏感さに、

 思わず自分で、驚いてしまう。



























 よくわからないが、涙が零れてしまった。






















 彼は、瑠衣の首筋に指を這わせた。













「…!くすぐったい…」














 彼は名残惜しそうに、瑠衣にもう一度長いキスをすると、
















「ここだけ、寂しいから」










 と言って、

 ドアの横に置いてあった鞄の中から、緑色の長方形の箱を取り出した。










 箱を開けると、そこには親指くらいの大きさの、白猫の形のビジューが連なった、美しいネックレスが入っていた。














「つけてあげる」



















 彼は後ろに回らず正面から、頬に唇が触れてしまいそうな距離で、瑠衣のデコルテ調に開いた首元に、ゆっくりと白猫ネックレスをつけてくれた。


















 瑠衣の花嫁衣装は、これで完璧になった。






















「やっぱり、似合う」




















 彼はまた、瑠衣をぎゅっと愛おしそうに抱き締めると、


















「誰にも見せたくない」
























 と言い、頬に軽くキスを落とした。


































 自宅へ帰り、夏休みも残りあと1週間。

 文化祭の準備が大詰めを迎え、クラス展示の準備のため登校することになった。




 午後からの登校だったため、早めに駅前のパンケーキ屋にてランチをすることになり、瑠衣、泉美、雅の3人だけで会う事が出来た。


 店に入る前、待ち合わせ場所で久しぶりに会った2人は、記憶が戻ってからはじめて会う瑠衣を、嬉しそうに抱きしめてくれた。



「泉美、雅、ただいま!!」



「おかえり~~瑠衣!」



「瑠衣さん、おかえりなさい!」







 幸せで、胸がいっぱいになってしまう。








 店内に案内され、カラフルなフルーツがたっぷりと乗ったパンケーキも大体胃袋に収まり、お互いの近況報告が一段落すると、瑠衣は二人にトオヤとの事を打ち明けた。




「おめでとう、瑠衣!付き合うことになったのね、久世君と」





「良かったですね!瑠衣さん」






 二人は、明るい笑顔で祝福してくれた。




「ありがとう」




 泉美はちょっと躊躇いながら、




「滝君には、言ったの?」




 と聞いてきた。



 瑠衣は、首を横に振った。




「ううん、まだ。これからクラスで会えると思うから、その時に話そうと思ってる」



 泉美は頷いた。



「クラス展示の準備、滝君が陣頭切ってるらしいから忙しそうだけど、多分間違いなく会えると思うわよ」















 学校に到着すると、トオヤは既に教室に入っていた。



「おはよう。合宿では、…ありがとう、トオヤ」



 瑠衣は妙に緊張してしまい、付き合ってから初めて学校で会う彼氏に、ぎこちなく声をかけた。



「うん。おはよう、瑠衣」



 トオヤは自然な笑顔で、瑠衣に優しく笑いかけた。



「トオヤ、あのね、私…滝君と今日、ちゃんと話したい」



 トオヤは頷いた。




「うん、俺も滝と話したい」




 すると。

 いきなり、後ろから肩を叩かれた。



「…2人揃って、俺に何の話?」



 滝君が、声をかけてくれた。



「すぐ済むなら、作業始まる前の今だったら時間取れるけど」




 彼はいつも、神出鬼没である。













 3人で誰もいない校舎裏へと移動し、瑠衣から滝君に報告した。



「滝君。私、トオヤと付き合う事になったの」




 滝君は少し間を置いてから静かにため息をつき、想像していた通りだといった表情で、返事をした。





「…そっか」





 瑠衣は、滝君に頭を下げた。






「…色々振り回して、本当にごめんなさい」






 思わせぶりな態度を取って誤解を与えてしまった事を、今でも恥ずかしく思い返してしまう。



 滝君は、頭をあげろと身振りで示した。



「おめでと。…残念だけど、それなら俺は諦めるよ」



 彼の表情はどんどん陰りながらも、最後に笑顔を見せてくれた。




「幸せになって。二人で」





 トオヤは、滝君に話しかけた。




「滝、今も瑠衣が好き?」




 滝君は少し驚いて頷き、鋭い視線をこちらに向け、




「今日まで諦めてなかったからな。…何だか急に、ムカついてきた」




 瑠衣にしか見せたことの無い、彼特有の意地悪な笑みを見せた。




「佐伯!!」



「はい!!」




 瑠衣はいきなり呼ばれて、びっくりした。





「…もう、俺の夢は見るなよ」






 …………!!!!!






「…はい…」






 滝君は、「じゃ!」と言って、教室に戻って行ってしまった。




















「…瑠衣」





 トオヤが瑠衣に、声をかけた。









「…はい」













「今の、どういう事?」




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