インスタ・オン・アイス
天上 杏
第1話 寝かしつけ、即インスタ
娘に絵本を五冊読み聞かせ、部屋を暗くして、おやすみなさい。
背中を五分もとんとんすれば、胸元で小さな寝息が聞こえ出す。
私は安堵し、そっと身体を離す。
枕の上でスマホのロックを解除し、最初にチェックするのはインスタ。
タイムラインを追う。
安田美沙子、スザンヌ、紺野あさ美、ママ友、ママ友、ママ友……。
同世代のきらきらした“おうち育児”の様子が次から次へと写し出されるけれど、淡々と縦にスワイプする。
チェックマーク。
コンテンツは以上です。
私はため息をつく。
……今日も、ハルくんの投稿は無かった。
インスタに足跡は付かない。
分かっていても、更新されないホーム画面を毎日見に行くのは、どこか後ろめたい。
それでも、私は今日も震える親指でハルくんのアイコンを押す。
氷の上。
深紅のベロアジャケットを身に纏い、張り詰めた目で進行方向を見つめる。
ジャンプを踏み切る三秒前の、ハルくん。
トップに表示されているのは、二月末に行われた私大オンアイスの写真。
引退する先輩スケーターとのツーショットだ。
「私大オンアイス2020、どうもありがとうございました!コロナで大変な中、開催できるか瀬戸際でしたが、無事に終われて本当に良かったです。先輩達の勇姿を胸に、来季も頑張ります! #私大オンアイス #やっぱり東桜がナンバーワン」
この投稿を最後に、ハルくんはインスタを更新していない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます