第六話 襲撃! 闇のロボット兵士!
1 東京治安維持部隊ガッデス(壊滅済み)
東京治安維持部隊ガッデスの本拠地に戻ったアキナが目撃したのは、跡形もなく倒壊したビルの残骸だった。
「なんなんだよ、これは……」
急なアジト移転による爆破解体を最初は疑った。
というか、それ以外に考えようがなかった。
しかしよく見れば左右の建物も倒壊の余波を受けている。
今のところ犠牲者が出たかどうかはわからないが、ガッデスは仮にも治安維持を目的とするウォーリアの部隊である。
引き上げの際にこんな周囲に不信感を与えるような無意味な破壊をする理由がない。
予期せぬアクシデント、例えば敵襲か。
だが、どこの誰が治安維持部隊の本拠地に攻撃を仕掛けるというのだ。
二等国民の住む東京では多少のモラトリアムも許容されている。
それでも精々グループを組んで夜中に騒いだり、未成年同士のケンカを見過ごしたりする程度だ。
何をどう間違っても大規模テロを起こすような集団の存在が見逃されることはない。
東京は閉じられた自由空間であり、銃火器や爆発物も持ち込めない。
この街は完全に我々の管理下にあるのだ。
いや、完全ではないか。
アキナは渋面を作りながら先ほどの失態を思い出す。
ウォーリアとなって初めて味わった敗北。
同胞以外に煮え湯を飲まされるなんて昨日までは思いもしなかった。
「まさか、あいつが……?」
それこそあり得ない話である。
アキナは撤退と同時にまっすぐ逃げ帰って来た。
奴がこの場所を知っているとも思えないし、なによりこんなことをする理由がない。
ならば一体……
「君はガッデスのウォーリアかな?」
急に背後から聞こえた声に驚いて振り向く。
アキナのすぐ後ろにフードを被った男がこちらを見ていた。
こんな側に近づかれるまで気配を感じさせない手腕はただ者ではない。
「ウォーリアの同胞……か?」
「うん。本社のね」
アキナは目を見開いた。
慌ててその場で膝をつき頭を垂れる。
「し、失礼しました! 知らぬこととはいえ無礼な口を!」
本社のウォーリアは同じウォーリアと言えど別格である。
彼女にとっては上役の上役のそのまた上役、雲上人のような存在だ。
「気にしてないよ。それより大変なことになったね」
「は……」
「ガッデスは君を除いて全滅した。皆殺しだよ。本社から出向してたミーシャもやられた」
「なっ!?」
信じられない現実を突きつけられアキナは言葉を失った。
壊されたのは建物だけではなかったのだ。
リョウコさんも、リリィ先輩も、いけ好かないと思っていたシャリアも、敬愛するミーシャ女王も、全員殺された……?
「い、一体何者が」
「それは今の所わかっていない。ただ、現場からは奪取したばかりのCDリングが奪われていた」
「CDリングとは?」
「クリスタ共和国から来た猫が持って来た秘密兵器さ。君にも捜索命令が下っていただろう」
「では、やはりあいつが……!」
脳裏によぎるのは翠色のドレスを纏った少女の姿。
しかし本社のウォーリアはアキナの考えを否定するように首を横に振った。
「記録は見させてもらったが、君が戦った人物とは別だよ。今のところは関連性も見られない。ここを襲ったのは二人組の男だった」
「紅武凰国に反抗する組織がクリスタの他にもあると?」
「そうみたいだね。で、明らかに危険なのはこっちだ。翠のやつとの関連性はわからないけど、本社は全力を挙げて謎の二人組を追うことにした」
本社のウォーリアは渋面を作って倒壊したビルを眺めていた。
彼女の言うとおり、これは明らかな国家に対するテロであり反逆行為だ。
どこの何者かは知らないが即座に見つけ出して始末せねばならない。
突発的な戦闘でアキナと戦った翠色の奴とはわけが違うのだ。
「とは言え栄光あるウォーリアが泥をつけられたままというのも寝覚めが悪い。なので君には翠色のやつの始末を命じる」
「……! 喜んで!」
願ってもない命令である。
アキナは闘志を燃え上がらせた。
雪辱を果たすチャンスを得られたのだ。
小躍りしたい気分である。
「ただ残念ながら本社のウォーリアを援護に回す余裕はない。治安維持部隊の再編もしなきゃいけないし、国内外の情勢も最近は不安定なんだ」
「一人で十分です。翠色の奴は必ずこの手で始末しますよ」
あの敗北は油断が過ぎただけだ。
相手の力を知っていればいくらでもやりようはある。
自信の笑みを浮かべるアキナに本社のウォーリアは満足そうに頷いた。
「幸いにも奴の力の根源であるCDリングのサンプルは他にも手に入れてある。君は選ばれた戦士としてウォーリアの責務を果たしてくれればいい。期待しているよ」
そう言うなり闇の中へと姿を消した本社のウォーリアを見送り、アキナは昨日までねぐらとしていたビルの残骸を眺めながら、怒りに震えた声で独りごちる。
「首を洗って待っていろよ、ディスタージェイド……!」
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