9 対決! ディスタージェイドVSウォーリア・アキナ!

「って、ええええええっ!?」


 突然光の中から現れたがやかましく叫んだ。


「なんだこりゃ、オレ一体どうしちまったんだっ!?」


 アキナは顔をしかめた。

 恥ずかしい名乗りを上げておきながら、なんだコイツは。


 自分の姿を見て驚くディスタージェイドとか言う小娘を強く不快に思う。

 まさかとは思うがこれがクリスタ共和国の秘密兵器だとでも言うのか?


「おい」

「えっ、はい!」


 呼びかけると素直に返事をするところが余計に苛立つ。

 こいつは現状を理解しているのだろうか。


「誰かは知らねえが、殺すけどいいよな?」

「えっと、できればやめていただけると……」

「問答無用。死ね」


 アキナは有無を言わさず殴りかかった。

 今度は先ほどの少年にやったような手加減は一切ない。

 人間の頭蓋骨程度ならたやすく粉砕する、ウォーリアの全力のパンチだ。


 だが、アキナの拳は空を切る。


「なっ!」


 あいつが消えた?

 一体どうやって……


「うわっ、とっ、わわわっ!」


 声は頭上から聞こえてきた。

 遙か上空に飛び上がった緑のワンピースドレスの少女。

 奴はアキナの作り出した監獄空間の限界ぎりぎりの高さから見下ろしている。


 あの一瞬でこの跳躍だと?

 信じられない脚力だが、これでハッキリした。


「なるほど。兵器とはそういうことか」


 おそらくは人間の限界を超えた力を発揮するパワードスーツ……

 いや、身体改造のようなものだろう。

 我々ウォーリアと同等の超人というわけだ。


「おもしれえ、クリスタ製の紛い物がどれだけやれるか試しやるよ!」


 重力に引かれて落下してくるジェイド。

 カウンターを食らわせるべくアキナは跳び上がる。

 交差するその瞬間、空中で回転しながら鋭い蹴りを叩き込んだ。


 確かな手応えを感じたアキナはニヤリと笑う。

 しかし。


「何ぃっ!?」


 アキナの蹴りは確かに当たった。

 不安定な形で落下するジェイドがとっさに掲げた左腕に。

 本来なら骨ごと断って腕が吹き飛んでもおかしくないはずだが……


「痛っえ、なっ!」

「うおっ!」


 ジェイドは蹴りを防いだ腕を払った。

 まるで車に撥ねられたような衝撃を受ける。

 アキナは吹き飛ばされ、何とか離れた場所に着地する。


「こ、コイツっ!?」


 この力……そしてあの防御力。

 間違いなくジェイドとかいう少女はウォーリアに匹敵する力を持っている。


「おお、すっげー。なんだか知らないけど力がわいてくるぜ」


 少し遅れて着地したジェイドは自分の両手を高揚した顔で見ている

 そして無邪気な子どものような表情でこちらを睨みつけた。


「これならやれるんじゃね?」


 素人丸出しの構えを取るジェイド。

 本気でやり合う気なのか?

 ウォーリアであるこの俺様相手に。


「ふざけん……なぁ!」


 アキナは飛び掛かった。

 ウォーリアは一瞬で最高速に達する脚力を持つ。 

 並の人間ならば目の前に接近されたことにも気づけないだろう。


 拳銃を持った相手にも反撃を許さない必殺の速攻。

 だが、それをジェイドは容易くかわしてみせた。


「うはっ、動きがゆっくりに見えるぜ!」


 あまつさえ挑発的な発言をしてきやがる。


「テメェ……!」


 怒りのままアキナは攻撃を続けた。

 機関銃のように繰り出す拳と蹴りの乱打。

 その気になれば岩山さえ削り尽くすほどのラッシュ。


「ダラララララァッ!」

「よっ、ほっ」


 その悉くをジェイドは避け、かわし、防ぎ、そして。


「うりゃっ!」


 反撃の拳をアキナの鳩尾に叩き込んで来た。


「がはっ……」


 防御を疎かにしていたアキナは攻撃をまともに食らってしまう。

 さらなる追撃を恐れてとっさに地面を蹴って大きく後ろに飛んだ。

 着地を考える余裕もなく、数メートルほど転がってから起き上がる。


 ジェイドは余裕の表情だった。


「うっはぁ、オレってもしか超強いっ?」

「このガキが……!」


 調子に乗りまくってる少女を睨み、口の端から血が滲むほど強く歯を食いしばる。


 こんなことはあってはならない。

 クリスタ共和国の秘密兵器だかなんだか知らねえ。

 だが紅武凰国のウォーリアが対人戦で負けることなど許されないのだ。


 我々はこの国の治安と世界の調和を維持するための選ばれし兵士。

 この超人的な力を使いこなすまでどれほど過酷な人生を送ってきたと思っている。

 ガキには想像もつかないような地獄を見てきた、その果てに今の自分がいるって自負があるんだ。

 だから。


「調子に乗ってんじゃねえぞォ!」


 負けられねぇんだよ、こんなガキにはなぁ!

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