やがて魔神となる少年は、綺麗なおねーさんや美少女と〇〇〇くる(仮)

岡村豊蔵『恋愛魔法学院』2巻10月30日

第1話 見た目は少年、夜は野獣……


 神の化身と魔神が、直接世界を支配していた時代――カイエは、人族の父親と魔族の母親の間に生まれた。


 神の化身を崇める人族と、魔神の眷属たる魔族は、決して相容れない存在であり。いわゆる『混じり者』と呼ばれる忌むべき存在であるカイエを、受け入れてくれる世界は何処にもなかった。


 しかも、敵対種族との間に子を成したカイエの父と母は、同族から命を付け狙われて。カイエが八歳ときに父が、十歳になる前に母が、同族の手によって殺された。


 こんな風に書くと、カイエは世界の全てを憎むか、絶望に打ちひしがれながら死を待つしかない存在のように思うだろうが――決して、そんなことはなかった。


 両親は死ぬまでに、カイエに生き残る術の全てを教え。他者を退ける『たぐいまれな魔力』という才能を残してくれた。


 そして何よりも――カイエ自身が、敗北者として死ぬことを認めるような大人しい性格ではなかった。


「おまえらさ、俺を殺したいなら……もう少しマシな奴を連れて来いよ」


 血塗られた剣を手にして、少年は動かなくなった十数体の肉塊を前に平然と笑う。


 十五歳になるまで生き残ったカイエは――すでに『強者』と呼ばれるだけの力を手に入れていた。


 前髪が少し長い黒髪の華奢な少年は、尖った耳だけは魔族の特徴を残していたが。顔立ちは完全に人族で、彼が放つ魔力は人族のモノでも魔族のモノでもなく――『混じり者』以外の何モノでもなかった。


 そんなカイエが、普通の街で暮らせる筈はなく。彼が住処ベースとしたのは『犯罪都市』スカルぺジオだった。


 『犯罪都市』というのは勿論通称だが――人族と魔族の紛争の最前線にほど近い場所に位置するスカルぺジオは、良く言えば『中立都市』。悪く言えば『吐き溜め』。


 何らかの理由で国から逃れて来た人族や、罪を犯して同族から迫害を受ける魔族。そしてカイエのように、どちらにも居場所の無い者たちが……神の化身や魔神に、いつ滅ぼされるかも解らないこの街に巣食っていた。


 それでも三十年近くもの間、スカルぺジオが存在している理由は――市長であるグレイス・スカーレットが、非合法な手段で稼いだ膨大な貢物を、両陣営に提供しているからだと言われている。


「ねえ、カイエ……あんた、良い加減にしなさいよ?」


 明け方に戻って来たカイエを――高級娼婦シュラが窘める。


 シュラも『混じり者』だったが……人族と魔族の美と妖艶さだけを抽出したような彼女の外観は、三十歳を目前にした今でも尚、数多の権力者を虜にしており。スカルぺジオが存続できる理由の一端だとまで言われていた。


 そんな彼女のスカルペジオにある邸宅が、今のカイエの住処だった。


「あのさ、シュラ……俺はお子様だから、もう眠いんだよ。小言なら、明日にしてくれ」


 シュラの言葉などお構いにしに――カイエは屋根裏にある自分の部屋に向かおうとするが。


「駄目よ、カイエ。そんな血の匂いをさせたままで……私が我慢できる筈が無いじゃない!」


 滑らかな白い肌の……形の良い豊満な胸にカイエを抱き寄せて、シュラは彼の黒い髪を撫でるが――


「あのさあ……俺はあんたの所有物オモチャになる気は無いって、何度も言ってるだろ?」


 十五歳の少年は――何もかもを知り尽くした百戦錬磨の夜の帝王のように、余裕の笑みを浮かべる。


 そういう事は……生き残るために、散々経験してきたのだ。今さら肉欲に溺れなどしない。


「何よ……生意気ね。でも……そういうところも、可愛いわ」


 シュラとて『奇跡の高級娼婦』と呼ばれており――普通の女の何倍もの人生経験があると自負していた。


 だから、僅か十五歳の少年を篭絡するなど……彼女にとっては、いとも容易い事だったが……


「まあ……落ち着けよ、シュラ。良いよ、解ったから……おまえにも……楽しませてやるよ」


 死と生の狭間で常に生きて来たカイエは――他者から見れば短か過ぎる十五年という人生も、濃密すぎる時間の連続であり。


 決して平坦ではない形で、倍近い時間を生きてきたシュラでさえ……カイエにとっては、年下の少女のようなものだった。


「カ、カイエ……ズルいわ……」


 ほとんど身長も変わらない少年に、唇をこじ開けられて――シュラはベッドに押し倒される。


 その後の二時間……二人は互いを貪り合って、濃密な時を過ごした。

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