最近幼なじみが可愛い

@kenitiro1115

第1話 再開は唐突に①

 「ずっと前から好きでした...俺と付き合って下さい!」


 心地良い風が降り注ぐ屋上、青年は声高らかに自分の思いを伝え目の前でそれを聞いている思い人に手を差し出す。


 偶然弁当を食べにやってきていた俺はその青春オーラを察知して物陰に隠れて見守っていた。

 

 こんな光景を見るのは初めてだな。甘酸っぱい程に純粋なそれを見て俺は、視線の先にいる勇気ある青年に向けてただこう思っていた。


 「ここからドロップキックかましたら振られたりしねぇかな。」


 清々しい程ゲスな事を考えていた俺こと森山優作はそう思わせるに至る原因を複雑な表情で覗き込む。


 樋口涼花、俺の幼なじみだ。最もそれはアニメチックな意味での幼なじみでは無く、本当にガキの頃に付き合いがあっただけだが。


 親同士が仲がよく公園で鬼ごっこやママごとをしたっけ。まあ大半が叩きのめされた記憶しかないけど。軽くトラウマだぜ。  


が、それも昔の話。小学校の時に転校していってから一切会ってはいないし樋口は俺の事忘れていても何らおかしくない。


 ...最もそれは彼女視点の話であり俺からすれば告白の邪魔を仕掛けようとするほど気にはなっていたが。なんせ


 「あんな綺麗になってたら気にもなるっての。」


 俺はため息をつき樋口の顔を遠目から見る。  


 長く延びた黒髪は濁りが一切なく輝いており、それが彼女の大きな瞳や整った鼻筋をより魅力的に見せる。


 頭の悪そうな言葉なので使いたくないが端的に称すなら美少女だ。あんな男らしいイケメンが告白するほどにはな。


 それに比べて俺は余りにもぱっとしない。唯一の特徴はこの人相の悪い三白眼だがそれはほぼ欠点だ。許せねぇ。


 まあ俺の話なんてどうでもいい。樋口は男子の噂によく上がっているが彼氏が入るなんてのは聞いたことない。

 

 付け加えてあっちのイケメンは確かバスケ部の一年のレギュラー君だったか。年下まで誑かすとか樋口さんぱねぇっすわ。


 長い静寂がこの場を支配していたがそれを壊すかのように樋口は顔を横にふりこの青春の儀式の決別を言い渡す。


 「...ごめんなさい、好きな人がいるの。それに綾野君にはもっといい人がいると思うわ。」


 樋口は冷たく告げ、綾野君と呼ばれた件のイケメン少年は一瞬切ない表情をしたあと軽く笑って見せてお礼を言いその場を立ち去っていく。


 見た目だけじゃなく中身も名前もカッコいいなあいつ。 


 これも何かの縁だ後でバスケ部の奴らにジュース渡して綾野を励まさせて貰おう。振られて欲しかったのは事実だが男としての尊敬の念込めてな。


 ...にしてもあいつが好きな人ねぇ。そもそも恋愛に興味なんて無さそうに見えるんだけどな。んな知ったこっちゃないけど。


 俺は綾野が出て行ったのを確認し後を追うようその場を立ち去ろうする。その瞬間後方から聞き慣れた声が聞こえた。


 「盗み聞きだなん随文いい趣味をお持ちね森山君。」


 「...気づいてんならさっさと追い出せよ。」


 8年ぶりだかの会話がこれか。俺は観念したよう樋口の方を振り向き言葉を返す。少しばかり喧嘩腰になってしまったのはご愛嬌だ。


 凛とした佇まいのまま彼女はこちらに向けて歩を進め距離を近づける。状況が状況だどんな罵詈雑言を浴びせられるか。


 俺はある程度覚悟した上で彼女の方を向きその距離が目と鼻の先になり樋口は口を開きき...俺は固まった。


 予測だにしない不意打ちに。


 「...じゅ授業が終わったら...来て。...玄関で待ってる。」


 それだけ言うと彼女は急いで屋上から立ち去っていく。俺は頭の回らないままポカーンと空を見上げ、扉の奥から聞こえた激しい衝突音にすら耳に届かなかった。


 

 


 


 


 

 

 


 


 


 


 


 


 


 


 

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