接着

yoshitora yoshitora

接着

 恐ろしい犯罪が起きた。死人が出たのだ。

 男は凶器らしい凶器は何も持っていなかったという。体だってひょろひょろだし、誰でも彼に勝てそうなのだった。

 それなのに、屈強な男たちは窒息死させられたのだ。一体全体どういうことだ。

 男の手口はこうだ。

 まず、闇夜に紛れて獲物に近づく。

 そうしたら、獲物に声をかけるのだ。

「ちょっとこの棒を持ってもらえませんか。重くて。疲れちゃって。この棒はとても高価な棒なんですよ。だから両手で持たないと。それに思いから、危ないですよ」

 決してその棒を持ってはいけない。瞬間接着剤がたっぷりと塗ってあるからだ。

 次に男はおもむろに懐からチューブを取り出し、そこから瞬間接着剤をピューっと吹き出させ、足元を狙う。靴下と靴と地面を一体化させてしまう。そして次は手だ。手を棒に完全に固着させ、動きを封じる。

 男だったら財布を奪い、女だったら貞操を奪う。男は財布とられてひとえに情けないだけだが、女は悲惨だ。棒を持って前かがみの状態で動けぬまま凌辱される。

 もちろん誰もが悲鳴をあげる。だから接着剤で口を塞がれるのだ。

 しかし鼻で息はできる。

 だが季節は春だった。花粉がすごかった。

 花粉症の人々は窒息して死んだ。

 男は死刑台にかけられた。歯には歯を。

 男は呼吸器以外の全ての器官の出口を接着剤で固められた。

 膀胱と大腸が破裂して死んだ。

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