第7話 騎士団の人達
***
モルドレッドは窓から見える村の風景を睨み付けていた。
外では今、商売人達の声と商品を買いに来た村人達の声で賑わっていた。ランベス村は商業と農業で栄えた村だと聞いている。
和気藹々とする村人達の顔からは、真実を感じられない。分かりやすく言えば、生きているのに生きていないように見えるのだ。
「気のせいで片付けるには惜しいよな……」
と、モルドレッドは持っていた一枚の手紙を見つめた。
――コンコン。
『失礼しますモルドレッド団長。お客様が来ました』
扉の方から、ジークフリートの声が聞こえた。
今日の客はいないはずだと思ったが、モルドレッドは「入れ」と許可した。
ジークフリートを除いて、入ってきたのは三人。黒髪の男女と、角の生えた青黒い髪の女だった。
角の生えた方は知らないが、二人の男女は格好と装備で何処の者かの推測はできた。
(まさか、最強の戦闘民族『シントウ』!?随分な大物引き当ててくれたじゃないか……)
モルドレッドよりも先に、三人のうちの男が挨拶をした。
「ここの団長さん、だよな。俺はアイシェン・アンダードッグ、こっちの真っ白な袴を着た髪の長い人がサン先生。角の生えた、黒いゴスロリ服を着ている方がファフニール。よろしくな」
「おっ、ちゃんと挨拶できるんだな。オレはモルドレッド。とりあえず、コーヒーでも飲むか?」
「良いのか?」
「あぁもちろん。砂糖とミルクは要るか?他の奴等も自分の好みがあったら言ってくれよ」
――数分後。
モルドレッドの淹れたコーヒーは好みをそれぞれに合わせたものであり、お世辞抜きでとても美味しい。
三人は、モルドレッドと出会ってすぐとは思えないほど打ち解けていた。
「やっぱコーヒーだな。王は紅茶の方が好きなんだけどよ」
「でも自分の好きなものに正直な方が良いと思うよ。俺個人の意見だけど、このコーヒーは美味いしさ」
「おぉてめぇ話しわかるなぁ!!」
モルドレッドとアイシェンは波長が合うのか、特に話が弾んでいた。
「さて、うまいコーヒーを飲んで緊張がほぐれたところで。てめぇらは何でここにスカウトされてるのか、理由は聞いたか?」
打って変わって、モルドレッドは真面目な表情に切り替わった。
アイシェンはこくりと頷く。
「そうか、なら話しは早え。協力してくれるか?」
「……一応俺個人としてはしたいんだけど」
「私から質問しても良いでしょうか?」
と、サンが挙手をする。
「この騎士団の惨状は聞きました。しかし私たちが来るまでの間、ただボンヤリとしていた訳ではないのでしょう?先程ジークフリートさんから伺った、もう一人の変人とやらに会ってみたいのですが」
「えっ、あんなのに会いてぇのか?おいジーク、かなりの変人を連れてきたな」
むしろここにピッタリじゃない?とジークフリートは皮肉混じりに答えた。
それもそうか。モルドレッドはそう言う。
「おーい、『ゴビネ探偵』!ちょっとこっちに来てくれ。……ゴビネ?」
「何がゴビネなのね!!
バタンッ!と、アイシェン達が入ってきた扉が勢い良く開かれ、真っ黒なマントに身を包んだ女性が入ってきた。
(なのね、なんてとても不思議な語尾だな)
とアイシェン達は思った。
「紹介するぜ、こいつがこの村の殺人鬼を討伐するために、応援に駆けつけた……」
「シャーロック・ホームズ!気軽に、ホームズちゃん!で良いのね!」
名前:シャーロック・ホームズ
年齢:???
性別:女
使用武器:銃
種族:魔族
以上が彼女のプロフィールである。名前が判明し、彼女の意向もあるため、ここからはホームズと呼称する。
「何だ、いつの間に帰ってきてたの?私は君が残した仕事を頑張って片付けてたんだよ。ねぇ、今までどこで油を売ってきたの?」
「おおう、ジークが恐いのね……それに
「村の調査ねぇ……それで三日以上遊んできたと。そっか、どうせ私は、書類整理しかできない女だよ……」
暗黒面に落ちたジークフリートを、モルドレッドとホームズが頑張って慰める。そしてそれを、アイシェン達はじっと眺めてい。
「あっ、俺たち邪魔なら、少し外に出てるよ」
「待ってくださいアイシェンさん、私も行きます。ファフニールさんはここで」
「あ、ズルい!我も外に行く!」
とそこに、長いシャワーを浴び終えたバルムンクのが帰って来た。
「ふぃーさっぱり。おっ、何々?祭りでもやっているのさ!?それならわちきはそこの角の生えた人と騒ぐのさ!!」
「何だ貴様!引っ付くな離れ……あぁアイシェン!サン!ちょっと待ってくれ!!」
***
外に出ると、心地の良い風が頬を撫でる。
この騎士団寮は村の高台に位置しており、今二人が立っている所からでは、村全体が良く見える。
アイシェンは相変わらずぼうっとしているだけだが、サンは指を口に当て、離しては息を吐いてを繰り返していた。
「何やってるんです?サン先生」
「エア煙草ですよ。私としたことが、煙管を持ってくるのを忘れまして」
「吸う人でしたっけ?」
「吸ってましたよ。ただ、副流煙でぎゃあぎゃあ言う奴がいるんで、人の前だと吸わないだけです」
そうですか、とアイシェンは言った。
そこからしばらくの沈黙が訪れ、エア煙草をやめたサンが頬杖をつくと同時にアイシェンが口を開いた。
「……サン先生、やっぱりあいつなのかな」
「どうでしょう。ですが今聞いた情報だけでは断言出来ないのでは?」
「俺だって断言したくないよ。でも、銀のアクセサリーってジークフリートは言ってたじゃないか」
「銀のアクセサリー着けた人なんて、世界にごまんといますよ」
「ですよねぇ……」
困ったようにアイシェンは頬を掻いていると、後ろからファフニールの声が聞こえてきた。「こんなところにいたか」
「ファフニール、どうした?」
「話し合いは終わったのかと思ってな」
「えっ!?いや、何のこと?」
「シラを切らなくても良い。貴様があの状況で『邪魔だから』と部屋を退出するタイプでは無いだろう」
「うわぁ勘が良いね」
「伊達に五百年以上生きていないからな」
そんなに長生きだったのかと、アイシェンは静かに驚いた。
そして同時に、自分達の過去のことを話すべきか聞くためサンの方を見ると、彼女は村の方を指し「見つけましたよ」と言った。
「アイシェンさんあれ、あの一番苔が生えてる家の路地裏」
「……本当だ」
指摘された場所には、耳に銀色のナイフを象ったアクセサリーを着けた、クリーム色の紳士服を着た男が立っていた。白いフルフェイス型の仮面がよりいっそう不気味さを際立たせる。
アイシェンはその場から跳び跳ねて、男のもとへ向かいだした。
「ちょっ、アイシェン!?」
「放っておきなさいファフニールさん。これは彼の問題であり、我々はあくまで見守るだけなのですよ」
と、サンは追いかけようとしたファフニールを止めた。
「だが……あのマスクの男の手から、銀色に光る何かが見えたぞ?」
「……よく見たら他にも似た格好の人が何人かいる。さては、アイシェンさんを殺す気か?前言撤回します、霧も濃くなり始めたので今すぐアイシェンさんを助けに行きましょう」
――コンコン。ガチャ。
「おーっす。ん?おい敬語ブラックロン毛にダブルホーン、アイシェンはどうした?まだあいつのあだ名決めてねぇんだ」
「モルドレッドさん良いところに!何か妙なあだ名をつけられてるのが気になりますが、今すぐ私と一緒にアイシェンさんを助けに行きましょう!」
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