第6話 Blood Thunder騎士団
***
血まみれになりながら、心臓の弱い人が見れば間違いなく泡を吹いて倒れること間違いなしな状態のその少女。バルムンクは、何食わぬ顔で目の前の扉を押し開けた。
「今帰ったのさ、ジーク!!」
「うん……あぁバルムンク、おかえり……て血まみれじゃない!!それにその人達は?」
「拾った」
「拾ったって……あぁもう、バルムンクは、早くシャワー浴びてきなさい!そっちの皆さんは血ついてないし、そこのソファに腰掛けても良いよ」
バルムンクと名乗った銀髪の少女が現れたあの後、彼女は背中に掛けた二本の剣を抜き、クマのような生物に飛び乗って背中から心臓を貫いた。
サンの見解では、あのクマは矢が刺さる前に弾いていたため、骨だけではなく、皮膚も固いらしいが、バルムンクはお構い無しに何度も突き刺した。
彼女だけが血まみれになってクマを倒したあとは、クマを担いだバルムンクにランベス村まで案内してもらい、現在に至る。
改めて、この場における部外者である三人は目の前の銀髪の美少女に挨拶を始める。
「俺はアイシェン・アンダードッグ、こっちの俺と似たような真っ白な服を着た、髪の長い人がサン先生。角の生えた、黒いゴスロリ服を着ている方がファフニールだ。よろしく」
サンとファフニールは紹介が終わるのと同時に、「よろしく」と会釈をする。
「私はジークフリート・アルミーウ。さっきのは……私の相棒、バルムンク」
アイシェンとジークフリートは互いに自己紹介を終えると、立ち上がって握手を交わした。
短い銀髪の髪に本の少しとがった耳、青緑色の瞳は神秘的で、一目見て美しいとさえ感じた。
(バルムンクと似てる……)
アイシェンはそう思った。
この二人で違うところがあるとすれば、頭の癖毛の向きが右か左か位だ。
向かって左に向いているのがジークフリート、右に向いているのがバルムンクだろう。そして、雰囲気が正反対だ。明るいのがバルムンク、暗いのがジークフリートと判断できる。
ジークフリートとアイシェンは握手していた手を離した。
「なぁ、突然悪いんだが、二人は姉妹か何かなのか?やけに似てるけど」
「……はぁ。説明すんのめんどくさいな」
「えっ?」
「おい、貴様」
ジークフリートの一言に強く反応したのはファフニールだった。
「そういう態度はせめて客のいないところでやったらどうだ?机の上にある書類の山から貴様のストレスが溜まっているのはわかったが、それをこちらにぶつけるのは違うのではないか?」
言われるまで気づかなかった。
この部屋で一番大きな窓の近くにある机の上には、山のように積まれた書類があった。
ジークフリートの目の下のクマから、徹夜して片付けていたのだろう。
「……それも、そうよね。ごめんなさい」
「え?あぁいや、俺は別に気にしてないよ」
なんだかまるで自分のせいで空気が悪くなったみたいじゃないかと、アイシェンはファフニールを少しだけ睨む。
「……バルムンクと私は姉妹なんかじゃなくて、バルムンクは私の剣なのよ」
剣?とアイシェンは首を傾げた。
「自分の魔力を込めて放り投げることで、ヒト型にして世界に顕現させる。こういうことができるのは、数ある魔剣の中でもバルムンクだけなの」
「まけん?」
「……君は質問に答えるとまた質問をするタイプなのか。簡単に言えば強い力を持った剣。ただし、使う者には相応の力量を必要とするわ」
「へぇ、じゃあジークフリートも相当強いのか!」
「……どうかしらね」
ジークフリートは、どこか悲しげな表情で窓の方を見た。
自分をごまかしているみたいだ。アイシェンはそう思った。
「さて、私とバルムンクの話しはここまでにしておいて本題に入ろう。三人はバルムンクから連れて来られた理由とかは聞いてる?」
その質問にはアイシェンではなく、ファフニールが否定した。
「聞いていない。その剣が、貴様に聞けばわかる、などと抜かしてな」
「あ、そう。なら単刀直入に言うね。三人には、この村に潜む殺人鬼を討伐するために、私達『Blood Thunder騎士団』に協力して欲しい」
突然の願望に、三人は呆気に取られた。 何故突然現れた他人同然の三人に頼みをしてきたのかということというのもそうだが、三人の聞きなれない単語がいくつか入ってきたからだ。
まず『村に潜む殺人鬼』。三人はロビン・フッドから「王家が来ている」という情報のみで来たのであり、何故来ているのかまでは把握していなかった。
次に『Blood Thunder騎士団』。アイシェンだけではなく、サンやファフニールも把握していなかった集団の名前である。
二つ目の質問からアイシェンは尋ねた。
「その、『ぶらっどさんだー騎士団』て?」
「私達が所属する組織の名前。それが『Blood Thunder騎士団』よ。団長は今はこの部屋にいないけどね。ここはその騎士団寮」
この世界には共通語というものがある。
しかしそれでも各国ごとの言語というものは存在しており、それは『方言』に似たような形で認識されている。
ちなみにBlood Thunderとは、簡単に訳せば『血の雷』である。
「ここそんな名前だったんだ……じゃあ二つ目、『殺人鬼』て?」
するとジークフリートは突然、スッと立ち上がった。
「付いてきて。そこで殺人鬼についてと、私達が三人に協力をお願いしてる理由も説明するから」
***
「何だこれ……」
アイシェンは強烈な吐き気に見舞われた。
ジークフリートに連れて来られたのは騎士団寮の地下室。近付くにつれて魚以上の生臭さが漂っていた。
それもそのはず。到着した地下室にいたのは、優に五十を越える、規則正しく配列された死体だった。
「そっちのベッドで寝ているのが国家が来る前に殺害された、この村に住んでいた女性五名。床にいるのが騎士団の兵士五十人」
死んでしまったから元になるけどね。とジークフリートは続けた。
「なるほど。国家の騎士団寮という割には人が少ないなと思ってましたが、こう言うことですか」
サンがそう言う。
アイシェンは、ハッと思った。
今思えばこの寮に来てから一度もジークフリートとバルムンク以外の人物を見ていない。
騎士団寮と言うからには、寝泊まりしている、もしくは訓練をしている一般兵士が居てもおかしくないはずだ。
しかしここに来てからそのような姿を一人たりとも見ていない。
「最初は百人体制で来ていたから、全員ピクニック気分だった。五人の女性を殺害しているとは言っても、これだけ多ければ安心だと思ってた。それにこの隊は戦争で先鋒隊を勤めてるから戦闘になっても勝てる自信があったからね。でも……」
「このざまか。連れてきた百人のうち半数以上がやられたから残りは帰し、今は貴様とあの剣、そしてこの騎士団の団長だけ、というわけか」
こくりとジークフリートは頷いた。
「奴等は霧の夜、伸ばした手の先すら全く見えない時に奇襲に来た。敵の数もかなり多かったから手も足も出なかった」
警告のつもりだったのだろう。
あえて全員を殺さず、一部だけを殺し、重要人物も生かした。
そして敵の力の大きさを認識させるだけではなく、仲間を守りきれなかったというレッテルを張り付けさせることによって、この騎士団の評価も下げる。
アイシェン達は敵ながら、計算高い奴等だと思ってしまった。
「あの殺人鬼達は強い。それが君たち三人をスカウトしている理由」
「……敵の、特徴とかはある?」
「暗闇で、霧も濃かったから自信ないけど、全員クリーム色の服を着て、白い仮面をつけていた。あとは、銀色のアクセサリーを着けてたかな」
ジークフリートは耳たぶを指しながら「こことか」と言った。
その一言に、アイシェンとサンが小さく反応したのを、ファフニールは見逃さなかった。
「ずっとここに居るのも気持ち悪いし、次はこの騎士団の団長に会って貰うわ」
「ここの団長かぁ。一体どんな人なんだ?」
「一言で言うなら戦闘狂ね。あと、ブリタニア人のクセにコーヒーが好きっていう変わり者」
どこが変わり者なのか、今のアイシェン達には理解できなかった。
「それともう一つ。さっきここにいるのは私とバルムンクと団長だけって言ったけど、本当はそうじゃない。もう一人、頼りになるけど、これまた変な人がいるわ」
地下から一階へ向かう階段を登りながら、ジークフリートは言った。
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