時を駆けろ!

廿日

第1話 1999年夏 補習仲間

「あづ~い~。風をぐ~だ~さ~い~」


「扇風機の前で動くなや!首振りの意味ねーし!」


「だって暑いんだもーん」


 1999年8月1日


 私たちはこの灼熱地獄の教室で、数学の補習を受けている。しかし、補習と言うのは名ばかりで、プリントを置いて担任のごんちゃん(八神権蔵やがみごんぞう59歳)は教室から出ていった。

 

 若干右に曲がる時に異様な音を発する扇風機 は、すっかりわたしに占領され、本日の補習仲間のたくちゃん(中村拓也なかむらたくや)には一切風を与えていない。


「頼む、るみ。少しだけ風を!」


「仕方ないなあ、ほれ、右側の風を与えようではないか!」


 ガッキュッ。ガッキュッ。


 それ以上右には曲がれないですと言わんばかりに、すぐ左に方向を変えて戻ってくる。たくちゃんの髪はすっかり汗でべたべただ。


「ねえ、早く課題終わらせて、駅前の喫茶にアイス食べに行こー!」


 私はたくちゃんより早く課題を終わらせ、窓からグラウンドを眺めていた。バットにあたる心地よいボールの音を聞きながら、わたしはこれからたくちゃんに告白するため、ひとりイメトレを続けていた。



「るーみっ!終わった!帰るぞ!起きろ!」


 わたしはいつの間にか、うとうとしてしまったようだ。


 たくちゃんに大声を出されて目覚めた時、わたしの周りにたくちゃんはいなかった。

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