魔法学園への旅

第4話 村を出て、最初の街へ

 村長さんの駆る馬に乗り、平原を進む。この村は、一軒一軒が遠いので本当に人がいない。特にうちは、他の人の家よりも山寄りにあるのだ。

 きっとあの二人が山の魔物をどうにかしているんだろうな……。


 村長さんとお喋りしたいことはたくさんあったが、舌を噛みそうなので黙って村を見つめていた。クロちゃんは並行して飛んでいる。可愛すぎてニヤける。


 村長さんの家につくと、家の前には幼なじみのカイトがいた。カイトは真っ赤な髪をした1つ年下の男の子だ。

 幼なじみと言っても、家が遠いから、そんなに合うことはないんだけどね。


「カイト、久しぶり!」

「ミアじゃん!……肩に止まってるのはなんだ?」

「あ、この子はね、ネコフクロウのクロノスケよ。どうやら私、魔力持ちみたいで魔法学園への入学通知のお手紙を運んできてくれたの」

 クロちゃんの顎の下を撫で撫でしながらカイトに紹介する。


「ミア、やっぱり魔力持ちだったんだ……」

「やっぱりって何よ? 私は『魔力』って言葉さえ昨日まで知らなかったわよ」

「ええー!? ……まあ、あの家は特殊だからなあ」

 カイトがブツブツ呟く声が、少し聞こえる。やっぱりうちの家って普通じゃないんだ……。いや、聞こえなかったことにしよう〜っと。


 私とカイトがお喋りをしていると、カイトのお父さんが家から出てきた。村長さんの息子さんだ。

「おじさん、おはようございます」

「ミアちゃん、おはよう。さ〜て、街まで出かけるよ!」

「えっ、もう? おじさん準備はいいの?」

「こうなるかもなあと思っていたから、荷物の準備はしていたんだ。まあ今日だとは思わなかったけどね」

 おじさんは笑いながら答えると、馬に鞍をつけてから荷物を詰んだ。


「父ちゃん、俺も一緒に街まで行きたい!」

「無理だぞ、馬一頭で行くからな。三人乗りはできないだろ」

「むぅ〜。俺も来年魔力持ち判定が出て、魔法学園に行くんだからな!」

「カイト、平民は魔力を持ってないのが普通なんだぞ。ミアちゃんは特別だ。まあ、夢見るくらいならいいか……」

 あれ? つまり、魔法学園はお貴族様ばっかりってこと? ひえええ〜木登りする平民なんてきっと煙たがられるわ。


「さ、ミアちゃん行くよ! 街までは遠いからな。日が暮れるまでについて、宿を取らなくてはいけないからな。」

「はい! おじさん、よろしくお願いします」

 どうやら今日は野営セットはいらないようだ。ほっとする。


「じゃあね、カイト! また来年かな? あれ、でもよく考えたら、長期休みとか帰ってくるつもりだったけど、そんなに遠いなら帰れないのかな?」

「俺が魔法学園に行くから来年だな!」

 ニカっと笑って自信たっぷりのカイトと、カイトのお母さん、村長さんに見送られて旅立った。


 おじさんとの街への旅は、馬に乗って乗って乗って、休んで少し食べて(鞄の中には本当になんでも入っていた)、また馬に乗って。

 喋っていたら下を噛むので、じっと乗っているだけだった。お尻がすごく痛い。でも乗せてもらっている身なので我慢だ。

 そんなこんなで街に着いたのだ!日が暮れる前に着いて良かった。


 街の入り口に列ができているので並ぶ。みんな入り口にある水晶に何かカードをかざしてるみたい。なんだろう?と思っているうちに、おじさんに聞く間も無く、私たちの番になった。

「さ、身分証を出して、ここにかざして」

 門番さんに言われてようやく分かった。身分証! み、み、みぶんしょう〜!? そんなの無いよ、この鞄とブレスレットしかもらってないもん。と焦って鞄を見下ろす。鞄を見つめる。

 中に、入ってるのかな……?鞄に手を突っ込み、「身分証〜身分証〜」と念じてゴソゴソ。出た! これだわ。

 意気揚々と水晶にかざす。

「はい、ありがと〜。問題無しです。次の人どうぞ〜」


「ミアちゃん、時間かかってたみたいだけど、どうしたの?」

おじさんが不思議そうに聞いてくる。


「この鞄、何やら色々入ってるらしいんですが父さんも母さんも物を入れすぎて何が入ってるか覚えてないらしくて。身分証も入ってるかどうか知らなくて焦りました〜」

「ああ、あの二人らしいね……。」遠い目をするおじさん。

 過去に何があったのかな……?


「さ、暗くなる前に宿を取ろう。おじさんがいつも泊まる宿でいいよね?」

「はい! もちろんです! 宿に泊まるのなんて初めてだから楽しみだな〜」

 馬から降りたおじさんと並び立って街を歩く。村のお祭りの時の百倍以上の人がいる。全てが物珍しくて、あっちこっちキョロキョロ。おのぼりさん丸出しの私に、行き交う人々は笑みを浮かべている。


 その時、人混みの中に芝犬のようなフワフワの耳を持つ人がいるのを一瞬だけ見かけた。

「おじさん、今、犬の耳みたいなのが付いてる人がいたような気がするんだけれど」

「ああ、獣人だね。村にはいないし、この辺りでも珍しいから、ミアちゃんは見るのが初めてかい?」

「はい! わあ〜獣人さんがいるんですね。猫耳さんもいるのかなあ、楽しみだな〜」

「王都には、もっとたくさんいると思うよ」

 待ってて猫耳さん!


 その後もキョロキョロしながら街を歩いているうちに、おじさん御用達の宿に到着した。

「ここが、今日の宿だよ。豪華じゃ無いけど、良い宿なんだ。3ヶ月に1回仕事で街に来る時はいつもここ。」

「いらっしゃいませ〜。おっお前か、もうそんな時期か?今回はちょっと早いんじゃないか?」

「今回は、この子を街まで送り届ける任務があったからな。ミアちゃん、こいつが、この宿の店主だ。」

「こ、こんにちは!」

宿の店主さんは、見た事もないくらいマッチョでいかついおじさんだった。


「ちょっと馬を繋いでくるな」

おじさんは荷物を下ろして、慣れた様子で馬小屋へ向かった。


「君は、どうして街へ来たんだ?」

「あ、私の名前はミアです! えっと、魔法学園に入学することになったので、村から出てきたところです。」

「魔法学園〜!? そりゃまあ、すごいな。魔力持ちなのか」

「どうやら、そうらしいのです。昨日、この子が手紙を運んできてくれて知ったんですけど」

 クロちゃんを撫で撫で。


「あっ!そう言えば、クロちゃんも一緒に泊まれますか?」

「ああ、従魔は一緒に泊まれるぞ。追加料金がかかるけどな」

「おいくらですか?」

「普通の宿泊料金が銀貨二枚、追加料金が一枚だから、全部で銀貨三枚だな」

 ここまで聞いて、そう言えばお金のことも何も知らないことに気が付く。鞄を見下ろす。……入ってるかなあ。


 お金お金お金〜念じて鞄をゴソゴソ。あ、なんかコインが出てきた!

 あれ……なんか、薔薇のマークが入った、すっごくキラキラのお高そうな金貨が出てきちゃった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る