第3話 マジカルミアミア?
そして朝。
『おはよう、主!』
「おはよう……」
起きた瞬間に聞こえてきたネコフクロウさんの声で、「ああ、昨日のあれは全部本当のことだったんだなあ」と思う。
改めてネコフクロウさんを見ると、額に金色の猫マークがついていた。
「あれ、ネコフクロウさん、このマークはどうしたの?」
『昨日、主が名をくれたからな。本契約が成ったので、主の印が浮かび出たのであろう』
ん? 名前? あれ、そう言えば、眠りに落ちる前に何か呟いたような気がする……。あれ、なんだったっけ。
『主がくれた、クロノスケという名前、気に入ったぞ!』
そ、そうだわ。クロノスケって言った気がするわ。
「じゃあ、これからは私のことはミアと呼んでね。私は、クロちゃんって呼ぶわ!」
『ミア……。なんだか、しっくりこないな。やはり、主と呼ばせてくれ』
結局、安易なクロちゃん呼びになってしまったけれど、可愛いからいいのよ。そうよ。クロちゃんは主としか呼んでくれないけどね……!
早速眉間の間を撫でてみる。気持ちよさそうに目を細めるクロちゃん。ああ、私、猫(もどき)に触っているんだわ!
クロちゃんの毛並みを堪能していると、リビングから「ミアー! そろそろ起きなさい!」と聞こえてきた。
「はーい! もう起きてるよ!」
クロちゃんを肩に乗せ、リビングへ向かう。
食卓にはちょうど朝ごはんが並べられているところだった。
「おはようございます、村長さん。おはよう、父さん母さん」
「あらあら、もう本契約したの? ネコフクロウさんの額に印がついてるわ。あら、ネコ印? やっぱりミアの印はネコ印なのね」
「ネコフクロウさんの名前は『クロノスケ』に決まりました!」
『うむ、よろしく頼むぞ』
クロちゃんの声はみんなには聞こえないらしいけれど、なんとなく伝わっている、気がする。
朝ごはんは、野菜と鳥肉のスープに、パンだ。どちらも普通に美味しい。異世界によくある「ごはんが美味しくない」は無さそうである。嬉しい。
でも記憶が戻ると途端に、惣菜パンやメロンパンが恋しくなるなあ……。魔法学園にはメロンパンはあるかなあ?
それにしてもこの鳥肉、美味しいなあ。昨日、父さんが山で獲ってきたやつよね。
ちなみにクロちゃんも朝ごはんということで、山へ飛んで行った。何を主食にするんだろう? 離れていても、なんとなくクロちゃんのいる方向が分かる。
「そうそう、ミア、あなた今日、魔法学園に出発だからね」
「はーい。分かった。……って、えっ!? 今日!?」
「そうよ。本当に間に合うかギリギリっていうところよ?」
朝ごはんを食べ終わると、母さんが鞄を持ってきた。
「この鞄を、あなたにあげるわ。父さんと母さんからの誕生日プレゼントよ。父さんが獲ってきた素材で、母さんが作ったのよ」
「わあ〜。ありがとう!」
何かの革で出来ている、斜めがけの白い鞄だ。なんと猫型である! 留め具にキラキラの透明の石がついている。
「この魔石に、魔力を少しだけ注いでみなさい」
「えっ、魔石? 魔力?」
「昨日、クロちゃんの名前を付けるときに何か身体から引き出される感覚、なかった? あれが魔力よ」
「うーん。名前をつけた後にすぐ寝ちゃったからなあ……」
「それは魔力の使いすぎね。クロちゃんは高位の魔物のようだから、魔力がたくさん必要だったのね」
昨日の寝る前の感覚を思い出して、石に触ってみる。目を閉じて〜。むう〜。おっ! スッと何かが出た気がする!
目を開けてみると、鞄についている魔石が光り、少しした後に透き通った綺麗な黒い石になった。
「これで持ち主登録は完了ね。ミアと、ミアの従魔以外には開けられないように設定できたわ。無理矢理開けたり盗もうとすると、ピリッとするオマケつきよ」
母さんがウインクしながら、教えてくれた「ピリッ」とする機能。「ピリッ」はどれくらいなんだろうと、ちょっと怖くなった……。
「ちなみにこの鞄は異空間収納、しかも時間停止機能付きだからね。あなたの記念すべき一人旅に必要そうなものを、目一杯詰め込んでおいたわ!」
ドヤ顔の母さん。でもそれよりも気になることがある。
「えっ! 魔法学園まで行くのは母さんと父さんは来ないの?」
「私たちは畑もあるし、裏山の魔物を倒す仕事もあるのよ。」
「……もしかして、いつも食べていた、やたらと美味しいお肉は魔物?」
「そうよ、やっぱり魔物の方が旨味があって美味しいわよね〜。ちゃんと、いろんなお肉のジャーキーも入れておいたからね」
恐る恐る鞄に手を入れてみる。ジャーキーのことを考えながらだと、ジャーキーを引き出せる気になる。「えいっ!」手を抜くと、そこにはジャーキーが。あの美味しい鳥肉のやつだ。
「母さん、これ、何が入ってるか分からないと引き出せないんじゃない? 入っているもののリストとかないの?」
「ふふ……。良いところに気がついたわね。残念なことに、無いわ!」
またもやドヤ顔の母さん。
「あなたが産まれた時から少しずつ、この鞄の中身を父さんと準備してきたのよ。」
「捕りすぎた魔物の肉や果物、野菜、とりあえず突っ込んできたからな!」
「あら、あなたも?私も食材はたっぷり入れたのよ」
「どうやら半年の旅の間、食べ物に困ることはないだろう」
「他にも、母さんが作った魔道具を色々と入れているからね。テントとか、魔物除けのライトとか、色々入れたはずよ。お料理道具も入ってるわ」
とりあえず、食べたことのある食材を片っ端から引き出してみる。うん。感覚で、たくさんあるってことは分かるみたいだ。
本当に、二人ともたくさん入れてくれたみたい。でも、何が入ってるか分からないって不便だ。弟のケビンも五年後に同じ状況になるのだろうか。
「ケビンの鞄もあるんでしょう?中身のリスト作ってあげたほうが良いんじゃない?」
と言うと、目が泳ぎ出した二人。
「それがね、もう既にたくさん入れすぎて、何が入ってるかよく分からないのよ」
「えっ、まだ二歳なのに……!?」
「だって、うちって、食べきれない食材いっぱいあるじゃない? とりあえず全部、あなた達の鞄に入れておいたのよね」
「ねーっ」と頷き合う両親。
まあ、たくさん入っているみたいだし、良いのかな。 良いってことにしておこう。そうしよう。
「あ、ミアには、母さんからもう一つプレゼントがあるのよ」
これをあなたに、と手首につけられたブレスレット。自動でサイズがぴったりになった。おお、ファンタジー。
キラキラ輝くカラフルな小さな石がたくさんついた、繊細なブレスレットだ。
「これは私が子供の頃に使っていた魔法の杖を改良したのよ。私はもう杖がなくても魔法が使えるから、あなたにこれをあげるわ。そのブレスレットの猫型の魔石に魔力を通してみて?」
さっきと同じように魔力を流してみる。ピカッと光り輝いて、猫型魔石が透き通った黒色になった。
「これで魔力の登録は完了ね。次は、こう唱えてみて。『マジカルミアミア、ニャーニャー!』」
「……え?」
「だーかーらー。『マジカルミアミア、ニャーニャー!』よ。杖を出すための呪文なの。手を掲げて、元気よくね!」
「ま、まじかるみあみあ、にゃーにゃー!」ヤケになって叫んだ。
すると、不思議なことに手には魔法の杖が握られていた。杖と言うよりも、これは……。魔法ステッキ! ステッキの先は猫印だ。可愛い。呪文は恥ずかしいけれど、嬉しい。魔女っ子だわ!
「腕輪には装備もいくつか入れてあるからね。何が入っているかはお楽しみよ。旅の間に色々と試してみなさいな。」
有り難いような、なんだか怖いような、ちょっと微妙な気持ちになってしまった。
「さ、クロちゃんも戻ってきたし、そろそろ行きなさい。」
「まずは村長の家まで馬に乗せていってもらうんだ。そこで、村長の家の息子が街まで連れていってくれるからな。」
母さんが準備していてくれた旅装束に着替え、あれよあれよと言うまに、家を出されてしまった。七歳の娘を送り出すと言うのに、なんともアッサリしている。
村長の馬の上から我が家を改めて見る。うちのすぐ裏の山、魔物いっぱいいたのかあ……と、ちょっと驚きつつ、これからの旅に期待を馳せつつ、やっぱり少し寂しい気持ちになったのだった。
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