男 ー1ー

なんだこりゃ、酒じゃねえな。

くそ、なんてぇ臭いだ。

鼻がどうにかなっちまう。

せっかくの酔いが醒めてしまうわ。


なぜにこんやもん寄越しやがる。

なんだ、これ以上呑めば身体を壊すとな。

酒場の主人が何を言う。


別にお前には関係ない。

金はあるんだ、さっさと寄越せ。


そうだな……、飛び切り強いやつがいい。

酒に溺れて息絶えそうな程に強いやつがな。


なに、どうせ溺れるなら女にしろだと?

ふん、こんな場末の宿に溺れるような上等な女など……、いやまて、あの娘は?

ほら、あそこにいる髪を高く結った娘だ。


こんな宿には珍しい。

随分育ちの良さそうな娘だぞ。

真白い肌に絹の如き双鬢、簪の楔石が娘の歩みに合わせるようにゆらりゆらりと揺れておる。


うん、どの女のことか、だと?

あんなに目立っているではないか。

お前、まさか私より呑んでいるとでも言い出すつもりではあるまいな。

女衒のくせに自分の商売道具すら分かっておらぬのか。


まあいい、酒はやめだ。

部屋を借りるぞ。


さあ娘、こっちに来い。

金はもう支払い済みだ。

こんな顔でどんな風に男を蕩かせるのか、その手管を見せてもらおうか……。




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