第71話ほら、大好きな証でしょ?
「嵐のようだ……」
疲れた、とクロフォードは呟き、ため息をつく。
二人は年齢こそ二歳しか離れていないが、落ち着き度合いが違うのだ。
ゼルディランはまだ、少年のような、なんにでも関心を示す幼さが目立つ。
そこが、彼の魅力でもあるのだけれど。
「ちょっと緊張してるのかもね。特務師団は何か起これば先に現地に派遣されるだろ。ゼルディランは実戦経験もあんまりないし、ここまで大きな話はなかなかなかったからさ。それに国一番の剣の使い手なのに、やることは諜報活動。そりゃ剣だって使う機会はあるけど不安になると思うよ」
「そうだな。いい機会だろう。信頼はしているし失敗することもないと思うが、もし仮にこのまま開戦したとして、成功すれば自信がつく」
そんな会話をしているのを見ながら、ビアンカはくすりとわらった。
「団長ったら特務師団長のこと大好きなんだから。いっつも思うけど意外と家族思いだよね」
「尊敬してるのはほかでもなく泡沫の夢の君みたいだけどね?」
これは、世間にあまり知られていない事実。
レスト公爵家は兄弟が多くてそれぞれ性格も全く違い、全員の方向性が全くそろわないように思われがちだが、ちゃんと兄弟しているのだ。
「はあ、その思いをさ、妖精姫にも向けられたらいいのに。好きな人のことになるとすぐへたれになるんだから」
まあ家族愛とそれは違うからたぶん、仕方ない……と思っておこう……
「っていうかだんちょー、私たち妖精姫の話がしたくて着たのにすっかり白熱しちゃってるじゃん! 続きしよ、続き!」
「まだその話は終わっていなかったのか……」
汗で濡れた衣服を着替えて、四人は今度はいつもの仕事場に集合する。
クロフォードがさっさと書類に手を伸ばしたところで質問攻め開始だ。
「団長さあ、この前デートしに行ってからまた行った?」
興味津々で聞いてくるビアンカに彼はばっさり
「行っていない」
と切り捨てる。
行っていない、行けるわけがない。
この間一回行った時だって、騎士団の団員にあそこまでお膳立てしてもらわなければならなかったのだ。
「えー、つまんない。一回言っただけで終わりにしたらどうせただの気まぐれって思われるでしょ!」
因みにロゼッタは、実際そう思っている。
「まったく団長はさー……あ、そうだ」
ドロテアが何か思いついたのだろうか。
彼女はぽんと手を打って、にっこり笑った。
「最近忙しくなってきてるしさ、なんか団長を感じさせるもの贈るのとかどう? 例えば対になってる飾りとか」
「いいねそれ、すっごい素敵!」
ビアンカもペルシオも賛成のようだ。
なお、クロフォードはすべてをあきらめた顔をしていた。
自分が悪いんだよ。
「じゃあ何贈るかさっそく考えなくちゃ。何かいいものあったっけ?」
本人よりも真剣に、三人は悩み始める。
因みに当の本人は仕事をしている。
おそらくというか確実にこの三人にもやることがあるはずなのだが、どうにも手を付けようとしない。
もう終わったという認識でいいかな。
「そうだ、王都のはずれにそういうの作ってるお店があるよ。今度行ってみる?」
珍しくペルシオが意見を出した。
驚いてクロフォードでさえ、手を止めた。
あはは、そんなに驚く? と彼女は笑い声をあげる。
「街を散策するのが好きだから休日とかは意外と歩いてたりするんだ。ちょっとした冒険みたいで楽しいし」
ほらディアネス神国の王都って、広くて飽きないでしょ。
確かにその通りだ。
同じ道でも日が違えば歩いている人も変わる。
基本みんな人がいいので気軽に話しかけたり話しかけてきたりして来てくれて、いい気分転換になるのだ。
「そこのお店、別に宝石とか金とかで豪華な飾り作ってるわけじゃなくて、外装も質素で素朴な感じなんだけど、貝殻とかちっちゃい石とかの自然で人の手で加工しなくても使える物を使って作ってるお店で、小さな贈り物には最適だと思うよ」
「絶対そこにしよ?」
早速女性人二人が食いつく。
そしてペルシオがクロフォードのほうを向くと、彼は、本当にまれにしか出てこないふとした笑顔を浮かべた。
「きっと彼女に似合うな」
――――――――――――――――――
ちゃんと家族思いなクロフォード。
次の更新予定日は一月十六日です!
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