第44話贈り物

シェレネちゃんたちに戻ります


――――――――――――――――――


「陛下、この手紙って私宛ですか?」


机の上に置いてあった封筒を手にして、シェレネは首を傾げる。

宛名は連名。

送ってきたのはシェレネの兄、レイ・リーリアスだ。


「どうだろ、連名だからね。まあ開けても大丈夫だよ」


そう言われたので、彼女は封を切った。


「招待状?」


中から出てきたのはどうやら招待状だったようだ。

その全文を読んだ彼女は瞳を輝かせて振り返った。


「お兄様とお義姉様が結婚して一年経つから、親しい人達だけで集まってお祝いしたい、だそうですよ!」


「そうか、もう一年も経つのか」


いつの間に、とウィルフルが笑う。

確かにそろそろ、レイが見初めたミーナが彼の妃になって一年だ。

時の流れは速いものだ。


「で、その集まり、いつなの?」


「えーっと、明後日って書いてありますね」


読んでからシェレネは口をつぐんだ。

その場に沈黙が流れる。

そして二人は同時に叫んだ。


「「明後日えええええ!?」」


いつもいつも忙しそうな人たちである。


「なんでみんな余裕をもって教えてくれないんですか!」


「出した日付はだいぶ前のものだぞ。王家からの手紙を届けるときぐらい休憩などせずに出来るだけ早く届けんか!」


昼夜ぶっ通しで走らせるのは流石に可哀想なので夜ぐらいは休ませてあげてほしい。


「とりあえず準備しようか……」


この手紙を運んできた誰かに文句を言い続けていても何も始まらないので、二人は各々いるものの準備をし始めた。

他の国なら無理だが相手はリデュレス王国。

当日の朝天界に行くときに使っている馬車で行けば十分間に合うだろう。

そしてリデュレスの国民や国王たちは何も言わない。

というかむしろ歓迎している。


「はあ、どうしましょう陛下、贈り物にできそうなものがありません……」


衣類をまとめていたシェレネが、手を止めてため息をついた。


「確かに……神としての最上級の贈り物は一年前に贈ってしまったぞ……」


神としての最上級の贈り物。

それは神の加護だ。

割と簡単にもらえているように見えるが、普通ではまずもらえない。


「やっぱり何かものでしょうか……? 宝石とかたぶん二人は興味ないですし……」


注意すべき点はここだ。

王族だから最低限は宝飾品を身に着けているが、別に好き好んでどんどん買うような人ではないので送ったところでせいぜい飾られるかしまい込まれるかだろう。


「しかも義姉上は宝飾品を作っていたのだから見飽きているだろう」


再びシェレネとウィルフルは考え込んでしまった。

この欲にまみれた貴族社会の中で、欲がない人間にする贈り物ほど難しいものはない。


「うーん、お花とか美味しいお菓子とか?」


「やはりそうなるか……」


さんざん悩んだ末に出てきた答えはあまりにも普通で、なんだか味気ない。

でも彼らが喜んでくれそうなものなどこれぐらいしかないと理解したようで、二人は冥界へと向かった。



「コレー様!」


「シェレネ様! お久しぶりですね!」


暗い冥界に明るい二つの声が響く。

因みに久しぶり、などと言っているが一昨日会ったばかりだ。


「どうかされたんですか?」


「あー、えっとその、お兄様とお義姉様が結婚なさって一年だそうで……お花を送りたいなって」


今の季節は冬。

もちろん贈り物に向いた花はほとんど咲いていない。

そこで春と花の象徴、コレーに花を分けてもらおうというのだ。


「そうなんですね! もちろんなんでも言ってくださってかまいませんよ!」


コレーがにっこりと微笑む。


「えっとじゃあ……」


二人が楽しそうに花の種類を選んでいる横で、闇系兄弟はその輝かしい妻たちを眺めながら話し込んでいた。


「我が妃とコレーが二人でいると眩しくて直視できぬな」


「ペルセフォネなど私といるときの何倍も楽しそうな表情をしている……」


確かに彼女はシェレネといるときは本当に楽しそうだ。

しかしはたして、ハデスはそれでいいのか。

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