第43話アットホームな職場(?)
近衛騎士団ほど書いていて楽しい職場はありません。
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「今日はありがとうございました、旦那様。久々に王都に出かけられてうれしかったです!」
「そ、そうか、それはよかった」
あまり見たことがない妻の笑顔に動揺しながら彼は答える。
一方、周りの使用人たちは悶絶していた。
「奥様……なんてお可愛らしい……」
「そして旦那様は相変わらず……」
世間にとって彼は氷の王子だが、使用人からすればあまりに不器用で奥手すぎる主人である。
「だんちょー! おはようございまーす!」
「遅刻だというのに何を呑気に挨拶しているビアンカ……」
呆れた声でクロフォードが呟く。
他の団員はもうとっくに来ているので、彼女は大遅刻だ。
「だってー、今日髪がまとまらなかったんだもーん」
確かに今日の彼女の髪はいつもより綺麗にまとまっていなかった。
それを横で聞いていたペルシオが笑う。
「俺みたいに切ればいいじゃん」
「やだ」
少しむくれてビアンカが答えた。
「私には似合わないもん」
「ははは、そうか」
ビアンカは女子騎士三人の中で一番髪が長い。
腰より少し下と言ったところか。
いつも上の方で一つで結っているのだが、さすが普通では絶対にありえない女性騎士になれただけあって、髪が長かろうと関係ない。
むしろクロフォードの髪の方が邪魔そうである。
同じように結っていても彼の方が下で結っているし、長さも彼の方が長いから。
「ねえ団長、昨日妖精姫にちゃんと喜んでもらえたのー?」
唐突に切り出した彼女にクロフォードが若干狼狽える。
「あー! それそれ! 私も気になってたんだ!」
先に来ていたドロテアも、彼女の声が聞こえたのかこちらに走ってきた。
「俺も気になるんだけど?」
ペルシオがその女性を虜にするような笑顔をうかべる。
三人はだいたい騎士団で中心にいるので、周りの団員も気がついて仕事をするふりをしながら聞き耳を立て始めた。
「お前たち……」
呆れ返ったように彼はため息をついた。
確かにロゼッタは喜んでくれた。
帰ってきて、“嬉しかった”と言ったのだからそうでないわけが無い。
だが彼女が喜んでくれたと報告する時どういえばいいのか、彼は全く思いつかないのだ。
もうちょっとどうにかした方がいいと思う。
「喜んでくれたんだよね?」
あまりにも何も言わないので、ビアンカが少し圧をかけた。
「い、いやその……」
だと言うのに彼はまだ答えないのか。
痺れを切らして、ドロテアが煽るように声をかける。
「まさか喜んでくれなかったの? どんまーい!」
「喜んでくれたに決まっているだろう!」
なんで煽られないと言えないんだ。
この場にいた団員一同の心の声である。
「でもさ、妖精姫デートだって気づいてないよね、多分」
机に座りつつビアンカが言う。
「手ぐらい握ればよかったのに。へたれ」
仮にも上司である団長をへたれ呼ばわりとはだいぶ失礼だが、近衛騎士団でこれが許されているのが不思議なところだ。
これだけゆるゆるでもいざという時はとんでもない統率力を持った精鋭部隊なのでいいのかもしれないが。
「いつ握ればいいか分からない」
「団長、さりげなくって言葉知ってる?」
多分知らない。
「オーロラ? 今日もいい天気ね〜」
「ロゼッタ! 聞きましたわよ、昨日クロフォードお兄様とお出かけしたんでしょう?」
さすが筆頭女性貴族。情報が早い。森に遊びに来たロゼッタに、クリスティンが笑いかける。
「あー、そうなんだよね……私のために無理してないかな……ほっといてもらっても大丈夫なんだけど」
「お兄様のことだから騎士団の方の発案だと思うわ」
とは言いつつクリスティンはクロフォードが彼女のことが好きな事を知っているのだから、内心楽しんでいそうだ。
「ケーキは美味しかった?」
「ええ、とっても。気になるのならあなたも行ってきたら? 一緒に行きましょうよ」
女子二人で楽しそうだから、いいのかもしれない。
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団長副団長ビアンカドロテアの四人組好き
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