第33話凍てつく世界に優しい光

なんとなくげきあまが書きたかったので糖分高め。


――――――――――――――――――


「陛下……」


ウィルフルに体を預け寛いでいたシェレネは唐突に彼に声をかけた。

ん、と、彼の低い声が上から降ってくる。


「結局首謀者って誰だったんでしょう……」


「ああ、あれか」


この前の、彼女が命を狙われたあれだ。

あの女官は死んでしまったし詳細は分かっていない。


「わからないな。我が妃たちが仲良くしているのが気に入らなかったのか……」


「なんだか嫌ですねえ」


シェレネはため息をつく。


「ドロテアとビアンカ、罰しないで下さいね。二人とも私の命を最優先にしてくれたので」


「ああ。当然だ」


首謀者を吐かせることなく自死させてしまったのは惜しかったが、ドロテアとビアンカの落ち度ではない。

止める暇もなかったのだから。

開いた窓から冷たい風が舞い込んだ。


「陛下……寒い……」


ぎゅっと彼女はウィルフルに抱きつく。

自分でそうしておきながら、彼女の顔は真っ赤だった。


「デメテル様荒れてるんでしょうね……」


「そうだな……」


つい昨日のことだ。

乙女の気配が地上から消えたのは。

彼は立ち上がり、窓を閉めた。


「我が愛しい妃よ」


「はあい」


シェレネがにっこりと微笑む。

そんな彼女にウィルフルはそっと口付けを落とした。


「可愛い」


「そんなことありませんよ?」


きょとんと首を傾けるシェレネ。

どうやら彼女は自分の可愛さを自覚していないようだ。

そう思うとウィルフルは、彼女が認めるまで可愛いと言い続けたくなってしまう。


「ね、陛下、」


「ん?」


シェレネが彼の夜着の袖を引っ張る。


「陛下はかっこいいですよ」


「っ!!」


思いがけない反撃に、彼は口元を押え目を見開いた。

当のシェレネはどうかしたのかとでも言わんばかりに首を傾げている。


「嫌でしたか?」


「いや、そうではないのだが……」


彼の口からため息が漏れた。

額に手をあて天井を仰ぐ。


「不意打ちは……なしだ……」


少しの間そうしていた彼は、何を考えてかシェレネの耳元に顔を近づけた。

息がかかるほどの距離で、彼のくちびるはゆっくりと動く。


「愛している」


あまりに甘美な囁きに、彼女の心臓は大きく跳ねあがった。



「さーむーい! ねえぎゅってしてくれないと凍えちゃう」


「さすがにそれはないだろう……」


そう言いつつもとんでもない薄着をしている愛する人を、人狼王は抱きしめた。


「ふふ、あったかい」


「そろそろその薄着はどうかと思うぞ、ジュリア。風邪でも引かれたら困る」


だがクリスティンはむっとした表情で、首を横に振った。


「いやよ。だってこれ動きやすくてお気に入りなんですもの」


動きやすくて、とは令嬢らしからぬ言葉。

ジャンは気にするそぶりも見せないが。


「行こう、ルールーリアとアランドルが待ちくたびれているぞ」


「うん」


二人は自分たちの城まで歩き出した。

仲良く手をつなぎながら。


「あのね、」


「ん?」


突然話しかけられて彼は彼女のほうを向く。


「私ジャンのこと世界で大好きなの」


「俺もだ」


冷たい風が二人のそばを吹き抜けた。

彼らが帰ってくるのが遅すぎるせいで、ルールーリアがアランドルに愛を囁かれて赤面しているとも知らずに。



「旦那様~? 旦那様はいらっしゃる~?」


公爵家本館の煌びやかな廊下を歩きながら、光の神の愛娘は周囲に呼び掛けた。

のだが、まったく公爵が現れる気配はない。


「さっきおかえりになったところだからいらっしゃるはずなのに。おかしいわねえ……」


そう言いながら歩いているときだった。


「ロゼッタ」


「ひょわっ」


いきなり背後から声をかけられ、思わずおかしな声が出る。


「私に何か用が?」


「だ、旦那様!」


声の主は、レスト公爵家当主であるクロフォード・レストだった。


「いえその、お花を飾ってもいいか聞きたくて……」


「花? この本館にか?」


確かに見渡せばあるのは冷たい彫刻や置物ばかり。

花なんて彼はここで見たことがない。


「なぜ私に許可を取る必要がある。貴女の家でもあるのだから好きにやってくれて構わない」


「ありがとうございます!」


嬉しそうに駆け出したロゼッタを見て、クロフォードはなんとなく手を伸ばす。

そして、彼女を抱きしめた。


「あ、あの、旦那様?」


その声に、彼は我に返った。

慌てて彼女を離し、くるりと踵を返す。


「は、走ったら転ぶぞ」


「あっ、申し訳ありません」


謝罪になにを返すわけでもなく、彼は部屋に向かって歩き出した。

どうして心にもない事ばかり、と、それはそれは後悔しながら。


自分の恋人に、優しい光を求めて。

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