第32話季節は巡る
「ねえコレー様、」
シェレネはまだ涙目のコレーにそう声をかけた。
「ハデス様の所に行きませんか? 意外と怒っていらっしゃらないかもしれませんよ」
だがコレーは首を横に振った。
「そんなの私が負けを認めたみたいで嫌です」
「は、はあ……」
あくまで彼女は女性を生き返らせたことを悪くないと思っているようだ。
まあそうだろう。
良かれと思ってやっているのだから。
「ハデス様から来てくれるまでここにいます」
コレーは花の中に顔を埋めた。
「今日中に来てくれないと困るわ……」
なんだかんだ言って素直になれないだけかもしれない。
「ウィルフル……ペルセフォネの所に、行ってこようかと思うのだが……」
少しウィルフルの仕事する様子を見つめていたハデスはそう言って立ち上がった。
「そうか。兄上は彼女が本当に好きだな」
はは、とウィルフルが笑う。
「お前もだろう」
弟に優しい声で言いながら彼は歩き出した。
「着いてきてくれるか」
「ああ。兄上の頼みなら、それはもちろん」
並んで歩き出した二人の表情は柔らかい。
ウィルフルの方がだいぶ背が高いのだが、ハデスが弟に見えることはなかった。
シェレネといる時以外でこんなにウィルフルが楽しそうな顔をしていることは無かったので、周囲の官僚たちは信じられないような顔つきをしていたらしい。
ニューサの野を風が吹き抜けた。
少し冷たい秋の風だ。
「ペルセフォネ」
シェレネと花かんむりを編んでいたコレーは、自分の名前を呼ばれて振り向いた。
目の前で黒髪が揺れる。
「……機嫌をなおしてくれないか」
「ハデス様……」
邪魔をしてはいけないと思い、シェレネはそっと少し離れたとことにいたウィルフルの所に行った。
ハデスがコレーの隣に腰を下ろす。
「あのようなことを言ってすまなかった。傷付いただろう」
彼女は無言だ。
黙々と花かんむりを編み続けている。
「私の目の眩むような光」
不意に、彼女の髪に何かが触れた。
驚いてコレーはハデスの方を振り返る。
「本当に花が似合うな」
どうやら彼がコレーの髪に花をさしたらしい。
「心にもないことを言ってしまったと、あれから反省した。どうか機嫌をなおして私に明るい笑顔を見せてくないか」
「……ん……」
ゆっくりとコレーはハデスに顔を近づける。
「ハデス様、私の事好き? 嫌いになってないですか?」
「もちろんだとも。そんなことあるはずがないだろう」
彼の返事を聞いた彼女はほっと息をついた。
相当安心したらしい。
彼女は笑顔を浮かべている。
「よかった。ハデス様に別れたいなんて言われたらどうしようと思っていたんです」
「まさか」
ハデスがコレーを抱きしめた。
コレーはハデスの黒い服の袖に顔を埋めた。
「ペルセフォネ。私の愛しい光。ずっと貴女を愛している」
「うん……」
吹き抜けた風が、よりいっそう冷たくなっていた。
「いやああああああ私のコレーちゃああああああああぁぁぁん 行かないでえええぇぇえええ」
ぼろぼろと涙を流しながら豊穣神は娘神に抱きつく。
「お母様、動けないです……」
「そうですよ、何やってるんですか」
呆れたようにイロハが言った。
デメテルはむっと頬を膨らませている。
「だって私の可愛いコレーが陽のささない地下に行ってしまうのよ? おかーさま心配なのお…………ねえ引かないで、三人とも引かないで悲しい」
イロハにコスズ、コレーは見事なまでにドン引きしていた。
「ヘルメス様待たせてるんですからもう離してください。コレー様に嫌われますよ」
「え!? それは嫌! ヘルメスはどうでもいいけど嫌われるのだけは嫌よ!」
サッと手を離した隙にコレーは身を翻しデメテルの手の届かないところに逃げた。
あっ、と彼女は口元を抑える。
「あああああぁぁぁコレーぇぇえええええ!いやああああああああああああぁぁぁ!」
困った母親である。
コレーは微笑んだ。
出発前の最後の微笑み。
「行ってきます」
ヘルメスに連れられてコレーは冥界に下って行った。
ふと、振り返りそうになる。
その気持ちを抑えて彼女は前だけを見つめていた。
優しい夫が待ち受けている、冥界の方を。
「ねえハデス様」
「ん……ペルセフォネ……」
「ただいま、帰りました」
――――――――――――――――――
ということでうちのぺるは冥界に下りました!
おかえりなさいの季節ですね
はでぺるいいですね尊い
今日から冬だあああああぁぁぁ! やったあああああ!
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