Coffee break♡♡ 女神ヘラからの招待状

「シェレネ〜、なんか姉上からお茶会のお誘いが来てるよ〜」


仕事の昼休憩に、ウィルフルはシェレネ宛の手紙を持って現れた。


「そうなんですか? 見せてください」


「なんて書いてある〜?」


興味深そうに彼が覗き込む。


「えーっと、女神さまだけでお茶会しましょう、だそうです! 私は特別客だそうですよ」


「ええっ? 女神だけ? ぼくは行っちゃだめなの?」


ウィルフルが声を上げた。


「そうみたいですね。ララ? 正装出して〜」


「…………」


いそいそと準備を始める彼女を呆然と見つめながら、彼は絶望したように動かなくなった。


「じゃあ、行ってきますね。送り迎えだけお願いしていいですか?」


「うん…………」


それだけ返事をすると、彼はシェレネを抱えて絶望感に打ちひしがれながら王宮を後にした。



「ヘラ様~! こんにちは、呼んでくださってうれしいです!」


「可愛い義妹を呼ばぬわけがないだろう? それにしても早かったな」


明るく声をかけたシェレネに、ヘラが笑いかける。


「あ、ちょっと楽しみで……」


照れるように、彼女は笑った。


「それは良かった」


満足げにヘラが言う。

ふと、ヘラの後ろが陰った。


「ヘラ〜♡♡」


「な、何をするデメテル!」


「もうっ、いいじゃない! 妹にハグするくらい〜」


後ろから抱きついたまま顔を覗き込む。

彼女はデメテル。

豊穣の女神である。


「あら、あなたはシェレネね。ウィルフルは元気?」


にっこりと微笑んだ顔は、無邪気な若い女神の顔にも優しい母親の顔にも見て取れる。


「はい、元気です」


「良かった、最近会ってないんだも〜ん。おねーちゃん心ぱーい」


頬を膨らまし人間界のほうを見ろしながら彼女は言った。


「…………デメテル、シェレネが引いているぞ」


「もう、まじめちゃんなんだからあ」


デメテルはちょん、と軽くヘラの唇に触れた。

呆れたようにヘラがため息をつく。


「ヘラちゃん!」


優しい声が聞こえた。


「ヘスティア。待っていたぞ」


彼女は炉、竈の女神ヘスティアである。

シェレネに気が付いた彼女はにっこりと微笑みかけた。


「あなたがシェレネちゃん? ウィルちゃんは元気かしら。いつも迷惑かけてごめんなさいね」


「い、いえ、こちらこそ……」


おっとりとしたその表情を見れば、誰もが毒気を抜かれることだろう。


その時、会場がざわめいた。


「きゃっ、アテナ様よ」


「アテナさま~!」


彼女たちの視線の先にいるのは、知恵と戦の女神アテナである。


「ニケ、こっちへおいで」


「はーい!」


随神の勝利の女神ニケもいるようだ。

明るい声が響く。


ふと、あたりが銀色に輝いた。


「あら、ごめんなさい。光が強すぎたわね……」


慌てて額飾りを外す彼女はセレネ。

輝く月の女神である。


「初めまして。ほんとに可愛いのね」


にっこりと微笑みかけた彼女の顔を、シェレネは見惚れてしばらく眺め続けていた。


「あー! アテナ様! 先に着いていらしたのね! アテナ様、アテナ様!」


いきなり現れた彼女は、嬉々としてアテナに抱き着く。


「アルテミス。アポロンは元気かい?」


「ええもちろん!」


狩猟と貞潔の女神、アルテミス。

彼女はアテナを慕い、よく共に行動している。

もちろん、弟のアポロンのことも大好きである。


「ねえちょっとお~、ここ、私の住んでるところから遠いんだけどお」


「なんだアフロディーテ、嫌味でも言いに来たのか?」


「来たって問題ないでしょ? 貴女に会いに来たんじゃないわ。私が会いに来たのはその子」


彼女はヘラの隣に座っているシェレネを指さして言った。


「ふーん。なかなか可愛いじゃない。私はアフロディーテ。愛と美の女神よ。知ってるでしょう?」


自信ありげに彼女は笑う。


「は、はい……」


そんな彼女に圧倒されながら、シェレネは何とか答えた。


「はいはーい! 皆さんちゅうもーく!」


「お茶菓子ができたのでよかったら食べてくださいね」


明るい元気な声と落ち着いた声。

声の主はそれぞれ青春の女神ヘベと出産の女神エイレイテュイアである。

笑顔がそっくりな二人は仲の良い姉妹だ。

父親より母親似のその笑顔は見目麗しい。


「あら、皆さまもうお集まりだったのね」


「こんにちは! お久しぶりの方はお久しぶりです!」


色とりどりの貝殻の飾りを身に着けた彼女はアンピトリテ。

ポセイドンの妻で海の女王である。

そして花の綻ぶような微笑みを見せた少女はコレー、別名ペルセポネ。

花と春の象徴である彼女は冥王ハデスの妻である。


「私もいるわよ~」


後ろから現れたのは光の神ライティルの聖妃、永遠の女神エルである。


「ふふふ、みんな楽しそうね」


終始笑顔で過ごしたこの穏やかな時間は、シェレネにとってとても有意義な時間だったのではないだろうか。



「なんで僕は行っちゃダメなの!?姉上酷いー!」


遥か彼方からウィルフルの声がしたような、しなかったような。

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