第6話 春の大精霊祭 中編
「陛下〜、やっぱり私、アランドルとバジルとレンにやってもらうのが1番いいと思うんです!」
「そう? じゃあ、そうしようかな?」
先日やっぱりやめようかと思いかけたシェレネだったが、気を取り直して一旦ウィルフルに相談する。
「あ、そうだ。じゃあさ、シェレネが今度の会議でそれ言ってくれる? 全部の所から選んでるから混乱を招くのを防げるし、その案を考えたのは私ですってしとけば、ちょっとはいい妃アピールできると思うんだよね」
いきなりの提案に、彼女は驚いた。
「えぇ、私でいいんですか?」
「むしろそっちの方がいいよ」
「はあ……そうですか……」
そうはいったものの、彼女は少し不安げだった。
「で? なぜこの場に聖妃様が?」
「是非とも理由をお伺いしたいところですな?」
現在、シェレネは彼ら大臣たちにいい笑顔で詰め寄られていた。
正確には良い笑顔なのはレスト大臣だけなのだが。
事の発端はウィルフルが朝の会議にシェレネを出席させたからである。
「我が妃も、この精霊祭の責任者決めについて意見があるそうだ」
「ええっと……その……」
周囲には緊迫した空気が漂っている。
「責任者は……アランドル、様と、バジル様……と……レン・ローラン様に……してはいかが、かと……」
「ほう、それは何故ですか?」
レスト大臣が尋ねる。
「お前たちが勝手に3つに割れるからだろう。我が妃はなかなか頭がいいとは思わないか?」
自慢げにウィルフルが言った。
「はっ、まことにその通りで」
「分かったのならそれで良い。会議は以上だ。仕事を始めよ」
ということで、ほぼウィルフルの圧力で責任者が決定した。
のだが。
「貴様! もっと仕事に関して誠意を尽くしてやろうとは思わないのか!? 陛下から直々にお声がかかったというのに! ふざけるな!」
「どうしてだい? 私がやりたいと行った訳では無いじゃないか。それにこっちの意見の方が風流でいいと思うんだけど」
「ああああああああぁぁぁ、アランドル様、バジル様、どうか言い争いは……!」
(どうしていつもこうなるのかしら)
毎日こんな様子である。
バジルとアランドルの言い争い、止めに入るもはじき出されるレン。
(はあ、どうしたものかしらね)
彼女がそんなことを考えながら自室に戻ろうとしていた最中だった。
「聖妃様! お会い出来て光栄ですよ。ハッハッハッハッハ。私はセルヴィール公爵家長男のラン・セルヴィールと申します。以後お見知りおきを! 少し物申したいことがあるのですがいいですかな?」
「は、はぁ……」
ラン・セルヴィール。
セルヴィール公爵家の長男である。
「私が思うに責任者はあの者達に合っていないと思うのですよ。そこでです! 今回の責任者は聖妃様がお決めになったとお聞きしましてね。是非とも責任者を私に変えて欲しいのですよ。私なら完璧な精霊祭にしてみせましょう」
小国の出のシェレネを蔑むような視線を向けながら、ランが言う。
「…………そう、ですね。確か、に、その方がいいのかも……しれません……でも、彼らの……陛下への……忠意は……他の方より何倍も……あるように……私、には、見えるのです……ですから……お引き取り願えませんか? ……彼らに任せたいの……」
「なっ……!?」
予想外の答えだというように、ランが驚きの声を上げる。
「ま、まあ、いいでしょう。後で泣きを見ても、私は知りませんよ! すぐに後悔することになりましょう。あの時私をえらんでおけば……とね。では」
「なんて、自分勝手なのかしら……」
彼女の中で、彼への印象が急降下した。
後日。
「聖妃様! 最近、アランドルお兄様が聖妃様に言われたんだからと仕事に嫌々ながらも行くようになりましたの! ありがとうございますわ!」
「そ、そう、なの。お役に立てて……嬉しい……わ……」
「本当に! 感謝してもしきれません!」
「そ、そんなに……」
彼女はクリスティンからいつになく感謝された。
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