第2話 王宮は危険と隣り合わせ
彼女が10歳になって四年。
彼女は14歳になっていた。
約束通り、闇の国に移住である。
闇の神が治めている、というだけで闇の国と呼ばれているわけだが、実際は闇感皆無である。
まあ二人はまだ結婚していないわけだが、将来結婚することは確定しているわけなので呼ばれ方は「聖妃様」である。
ちなみにシェレネ付きの女官達は星に宿るニンフだ。
女官長が赤い星のニンフでララ、女官が黄色い星のニンフサラ、白い星のニンフリラ、青い星のニンフエラの四姉妹である。
シェレネは王妃だからふつうは宮殿の奥で暮らしているわけだが、このウィルフルがそんなことを気にするわけがない。
暇だしやる気が出ないから自分の仕事場の政務室にいておいてほしいとか何とか言って、シェレネが常に視界に入るようにしておきたいわけである。
まあ忙しくて顔が見られないのならある程度は仕方ないのかもしれない……
そんな普通なら非日常的な生活に慣れてきてしまったころ、彼女が政務室で暇を持て余していると……
(殺気…?)
刺し殺すような視線が、どこからか向けられている。
一度だけではない。
疑問を抱くも、誰からの視線なのかは分からず彼女はそのまま放置していた。
なんとなく暇なのだろう。
シェレネはほんの少し欠伸をした。
ウィルフルは今席を外している。
この場には誰もいなかった。
はずである。
「……………!!」
ふいに、彼女は何者かに口を塞がれた。
小柄で足も動かないので抵抗することは不可能に等しい。
そのまま連れていかれた先は……なんと、大臣の住む公爵家である。
この間ウィルフルが「あの狸ジジイの大臣め、また縁談話を…」とつぶやいてた人だろう。
「ほう、あなたが闇の神の聖妃か」
「大臣、なんのつもり、ですか……?」
大臣は、ははは、と乾いた笑いを浮かべた。
「そなたは知らんかもしれんが、世間ではそなたのようなリデュレスから来た小娘など闇の神にふさわしくないと思っているものが多くいるのだ」
まるで彼女が世間知らずだというように、蔑むような視線を向けながら話し出す。
「闇の神の聖妃などという名誉な地位は、もっと大国の姫君か我々大臣達の娘に決まっているのではないか?闇の刻印などどうとでもなるだろう。そなたを殺せば良い話。不死か不死でないかは知らんが、不死であっても剣で刺される痛さは苦痛であろうな」
大臣が彼女を嘲笑う。
(陛下、助けて!!)
大臣が剣を引きぬいたその時だった。
「大臣、我が聖なる妃に手を出すとは良い度胸だな?」
黒い笑みを浮かべたウィルフルが、大臣の首に剣を当てた。
「へ、陛下、お許しを……私は陛下のためを思って………」
慌てた大臣が、冷や汗をかきながら必死に弁明する。
「私のためにやった、か?我が最愛の妃に手を出すのがか?」
「そ、その……!」
「
ゾクッ
自分が言われたわけでもないのに、彼女の背筋は凍り付く。
今まで彼女は、こんなに激怒したウィルフルを見たことがなかった。
怖いと感じるのは本能である。
彼は、普段はシェレネの前では比較的温和である。
怖がらせたくないから、気を使っているのだ。
さらに、二人きりの時は子犬か子猫か、といったところである。
とことん妃に甘い国王なのだ。
首謀者の大臣は捕えられ牢獄行きとなった。
こんなことが日常茶飯事のこの世界は、本当に怖いものである。
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