神様の箱庭
水野 七緒
第1話
ベランダから見える景色は、決して長方形というわけではない。
それでも目にする範囲は限られていて、ユイカは浅い息を吐き出した。
晴天、青空には雲ひとつない。
かすかな車のクラクション。遠ざかるエンジン音。
目を細め、少し身を乗り出すと、視界の端でなにかがきらめいた。
斜め向かいにある学校──そのプール。
灰色の柵で覆われているそこも、5階のベランダからはすべて丸見えだ。
水色の長方形は、日差しを弾いてやわらかく揺らめいている。
その上につーっと線が引かれ、つーっ、つーっと消えていく。
右端にひとつ、左端にひとつ。そのふたつの模様が、浮かんでは消えるを繰り返し、プールというカンバスに定まらない絵を描いている。
描き手は、同年代の少女たちのもよう。
彼女たちは、飽きることなく同じレーンを何往復もしていた。
ユイカのこめかみを、汗がつたった。
消毒液のにおいがよみがえり、それがひどく懐かしいもののように思えた。
おかしな話だ。水泳なんて好きじゃなかったはずなのに。
ピピピ、と腕に巻かれた通信機が鳴った。
どうやら時間のようだ。
部屋に戻ると、よれたシーツの上に横たわり、体温計を手に取った。
本日最初の検温の時間だった。
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