第5話 皿洗いについて僕の考えること
僕は皿洗いが好きだ。皿洗いをしている時は何にも考えなくていいから。この作業をしている時には自分の考えや他者の思いに応えなくていいのだ。
皿洗いが好きと言うと、大抵の場合、驚かれる。「なんで好きなの?」と聞かれる。僕の思いを伝えると「意味が分からない」と言われるのがおちだ。
僕にも皿洗いが好きである根本的な意味は分からない。だけど、だんだん好きになっていき、得意になっていったのだろう。それは意識的に何回も同じ作業をやっていくことで、洗練した作業が可能になるのと同じことである。
初めて皿洗いをした時を覚えている。お父さんがカレーを作ってくれた。お母さんは疲れていたし、お父さんは料理をして、すぐに出て行ってしまったから僕が皿を片付けた。なんだか妙に興奮していた。自分じゃ皿洗いという作業をできないと思っていたから。お母さんにしかできない作業だと思っていた。自分だけで終わらせることができた時は嬉しかった。まあ実際の結果は悲惨で、皿は汚れていたのだが。
アルバイトでも皿洗いをした。接客業でホールをしていたのだが、その仕事内容の一つとして皿洗いをした。
僕は人と面と向かって話すのは得意ではない。もちろん苦手でもないが。だから皿洗いをすることの方が、接客をすることよりも向いていることがわかっていた。しかし、店は違うのだろう。もっと積極性をだせ、もっとお客様に尽くせ。こんな言葉ばかり言われ、話すことを強要された。多様性を認めてくれないのだろう。きっと人と話すことが好きな人物が上で、そうじゃない人は下だと考えていたのだろう。上や下はそんなことでは決まらないのに。
アルバイトでも皿洗いの経験を積み重ねた。自分にとって、その作業は特別なことになっていった。
今後の人生において、誰にも理解されないだろうな。まあ理解されても困るのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます