鳩村もしくは夕凪ツナギがつなぐもの

よだか

2XXX年

 僅か半世紀ほどの間に世界も、人間も様変わりしたという。

 歴史上何度も繰り返されてきたウイルスとの戦い。何度目かのパンデミックがきっかけだった。特効薬やワクチンの研究が後手に回り、ウイルスの変異も早く、相当なパニック状態が続いた。人々は度重なる生活や習慣の激変に疲弊し、絶望し、それでも生きようと足掻いて――現状に適応するがごとく特殊な能力を開花させた。それは大きく2つ。テレパシーとシールドだ。


 テレパシーは望む相手に言葉を届ける能力。感染で隔離されてしまった大切な家族や友人、恋人を励ましたくて開花したと思われる。そうでなくとも今まで当たり前に集っていた会社、学校、イベントetc 有効な対策が示されないまま閉鎖が相次いだのだ。当然、寂しさや人恋しさも募る。かといって通信機器もタダではない。富裕層以外の人間は悶々として切望した結果、タダで交流できる力を得たというわけだ。

 シールドは大体半径1メートルほどの防御壁を身の回りに形成する能力だ。感染リスクが激減する距離をとれと繰り返し耳にしていたこと、決定打が出ない状況下でウイルスへの恐怖が跳ね上がっていたことが引き金だろう。1人が会得したらあっという間だった。人々は心から安全を欲していたのだからある意味必然の能力かもしれない。

 そして、感染者は激減。罹るのはシールドに開花していない幼子のみとなっていった。患者の全体数が落ちれば医療にも、研究にも余裕ができる。十分な対策と技術が行き届き脅威がなくなっても人々は万が一を怖れ、現状維持を望んだ。

 ラッシュと呼ばれる現象は消えた。AIは増えたし、ドローンも普通に頭上を飛び交う。直接的な接触は激減し、妊娠も体外受精・体外育成が主流となった。握手やハグも今や儀式やイベントの時にしか見られないと言っても過言ではない。色々なことが変わって、定着していった。


 誰もがテレパシーとシールド、それに付随する能力を持つようになった時代。テレパシーの受信のみしか開花させていない青年がいた。

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