青春スーパーノヴァ
テナガエビ
青春スーパーノヴァ
2020年夏、とうとうその日が来ると報道された。
オリオン座の赤い一等星、冬の大三角を形作る一角、ベテルギウスが
「天文部としてこれは観測しないとダメでしょ!」
「超新星爆発いつ見るの? 今でしょ?」
勢いのいいメッセージが、同一人物から携帯電話のチャットアプリに連続投稿されたのは、コロナウィルスの影響で一学期がずれ、短縮された夏休みのいつも通りのある日の朝だった。送ってきたのは同じ高校の天文部の
「あいつ……なんだと思ってアプリ立ち上げてみれば突然何言ってんだ?」
超新星爆発の直前に出るニュートリノをスーパーカミオカンデが感知し、マックスプランク電波天文学研究所などもベテルギウスの爆発を今夜から明後日と発表したらしい。
「今夜、超新星爆発を見に行こう!」
うちの天文部はそこまでガチではない。だが、
天文部の部員は俺を含めても四人だ。
まず、部長の
副部長が
口数は少ないが優しい女子の
そして、ただSFが好きという理由で溜まり場を求めて入ってしまった、俺、
その後、また
俺は興奮し、そして緊張した。一つはもちろん超新星爆発の現場に立ち会うためだ。俺たちの人生にとってはこれほどのビッグな天体イベントは金輪際ないだろう。
もう一つの理由は、俺は次の天文部の活動日に
それにあまり信じたくない話だが、
彼女いない歴十七年、
そう心の中で宣言して机に向かい、告白と同時に何をプレゼントしたらよいかネットで検索をしようとした時、携帯電話がなった。
☆彡
八月某日、その日は深夜零時半まで夜更かしして家を出た。俺は告白のこともあいまってとても眠れなかった。
オリオン座は冬の星座と言われる。だが、八月にも朝の三時くらいに見える。よって、三時前に見晴らしの良い丘の上の公園に集合することになった。
狙うは夜明け前の東の空だ。四時過ぎには空が明るくなるため、日の出後は部員で時間を決めて交代制で昼の空を見張る。もし、ベテルギウスが爆発すれば昼でも見える。
「行ってきまーす!」
両親に事情は話してある。起きて見送ってくれた母に出発を告げ、夜の静かな街を丘へと向かった。
☆彡
二時半には三人が揃い、三時を少し過ぎた頃に
「ごめん、寝坊しそうになっちゃった!」
既にオリオン座は東の空に姿を現していた。だが、まだその右肩にあたるベテルギウスは見えない。心なしか、オリオン座の周囲が明るく照らされているように見える。
「ああっ!」
最初に絶叫したのは
朝六時になり、それぞれ自宅へと帰ることになった。睡魔に対する力ももう尽きつつある。ただ、
「せっかくの大宇宙イベントなのに、もう眠くなったの?」
元気なのは
俺の心臓はただひたすら高鳴っていた。これで解散したら、
「じゃあな!」
丘の上で解散し、必死に何気ない風を装って
「丘の下まで一緒に行こうぜ」
「ん……そうね」
「すごかったなー、ベテルギウス。将来、小説書く参考になりそう? 以前、そんなこと言ってたよな?」
「あははは、覚えてるの?」
そうね、と
「自然ってすごいよね。あの光景、果たして文章で表現できるのかな……どんなに私が筆をふるっても、あの再現は絶対にできない」
「いいんじゃないかな。音楽であれ文芸であれ、再現はできないよ。作者というフィルターを通して作られるんだから」
もう俺の心臓は本当にバクバクだった。正直、何を話しているのか自分でも分からない。そして、分かれ道が見えてきた。俺の自宅と、星丘の自宅への分かれ道だ。
「あのさ……」
立ち止まる。それ以上進まれると大事なことが話せなくなるから。
「あ……」
真っ白になる。頭の中が。いろいろ考えた言葉が、昨夜五時間かけて添削した言葉が。こんな状況で出せる言葉は何だろうか。
「好きなんだ」
言ってしまった。口が震える。手先が震える。声が震える。心も震える。
「
言ってしまった。賽を投げてしまった。望んだことだが、もう戻れなくなってしまった。大きな期待と不安、そしてわずかな安堵と悲哀とが心の中の溶鉱炉でぐずぐずと溶け合う。
「……ごめんなさいっ!」
星丘が深々と頭を下げた。ストレートの髪がだらんと下がる。まるで俺を憐れむかのように。体の中で心臓が弾けたような気がした。
「そうか、ごめんな……」
なぜか俺は謝っていた。赦してほしかったのだ。告白という過ちを犯して部活の友達という関係にひびを入れた俺を。
「なぁ、よかったら教えてくれ。なんでダメ……?」
情けないことだが、聞かずにはいられなかった。星丘は一瞬逡巡した後、まっすぐにこっちを見て語ってくれた。
「……秋からね、留学するの。ニュージーランド」
衝撃だった。卑しくもこれから友達に「戻る」ことを期待しても、それすら叶わないところに行くというのだから。
「俺、待ってるよ……?」
「
いい人だと思う
出てしまった。一番恐れていたワードが。誰かが言っていた、こういう時のいい人は「
俺の様子を見て察したのか、
これで終わりなのか……
いや、俺はまだ燃焼し尽くしていない。あの星のようには。
俺は走った。もう一度ちゃんと気持ちを伝える。あんなに彼女のことを想い続けたのだから。それでダメなら今度こそ引き下がろう。
「
驚く
「これを受け取ってほしい。俺が
そう
「あ、ありがとう……」
そこから出てきたのは
☆彡
その先の記憶は曖昧だ。
俺の青春は、
青春スーパーノヴァ テナガエビ @lake-shrimp
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