第20話

 青龍が鱗を輝かせる。

 登はいつものように、青龍を優しく撫でた。


「『多色性ブルー』っていって、色んな青に見えるだろ?」


 登は青龍にタンザナイトを見せる。

 青龍の髭がフワリとなびいた。


「だよな、俺もお前の鱗みたいだと思ってさ」


 瞬間、青龍の鱗がまばゆく光った。

 登は瞬きせず、その光に身を委ねる。

 全身に多色性ブルーを浴びた。


「俺の世界に行ってくれるか?」


 登はあらゆる青に包まれながら問う。

 青が渦を巻き、次第に青龍へと姿を変えた。そして、登の手にあるタンザナイトへと吸い込まれていく。


『我が主。主と共にあらんことを』


 聞き覚えのある声だ。なかなか飛べない青龍を空に放り投げたときに、聞こえた心の声と同じ。


「ああ、俺と共に」


 登はタンザナイトを握りしめた。


「……ありがとう」


 白昼夢だったかのような時間が終わり、目前にいた青龍は姿を消していた。

 登は右手を開く。そこに青龍が収まっていた。

 そして、右手首の鍵は飛龍から青龍へと力が宿っている。

 形だった鍵からは感じ得なかった鼓動を感じるからだ。


「飛翔の時、出でよ……青龍!」


 登は青龍を使徒したのだった。




「恐竜の卵を温めている気分だ」


 登は首元からカンガルー袋をぶら下げている。

 もちろん、麒麟がその中でスヤスヤ眠っている。

 空を見上げると青龍が気持ち良さげに飛翔している。

 いや、白龍もまた青龍と一緒に飛んでいた。


「神獣の住処かよ」


 登の『願いの泉』の世界に、龍と麒麟がいるのだ。


「最初の住民が神獣って……」


 一般的な開拓物語ではない展開だろう。


「さてと、住処を想像するしかないな」


 登は、目を閉じ青龍の住処を脳内で描く。

 多色性の青い岩山に洞窟、オーロラの空、透き通った川が麓に流れている。草原が広がり、行き着く先は『願いの泉』のある森。


 目を開いた登は、透明から物体へと変わっていく風景を眺める。

 視線の先には、脳内に描いた世界が広がっていた。


 登は再度目を閉じる。

 森の中央『願いの泉』のすぐそばにある大木を見上げる。

 ツリーハウスが木漏れ日の中に見える。そこがウィラスの住処だ。


 登は、目を閉じたまま歩いた。感覚でわかっている。目を開けると『願いの泉』がキラキラと輝いている。

 登は、想像と同じように見上げた。

 そこに、すでにツリーハウスがあった。


「うん」


 納得して頷く。

 ウィラスが、窓から登に手を振っていた。


「青龍様も住処です!」

「ああ、今向かう」

「いってらっしゃいませ!」


 登はゲートを開いて、青龍の住処へと移動した。

 青龍が洞窟の中で丸まって寛いでいる。


「どうだ?」

『快適です』


 タンザナイトに青龍が収まってから、登は『声』を聞くことができるようになった。

 懐からタンザナイトを取り出す。中に、青龍はもちろんいない。

『願いの泉』の世界以外に出るときだけ、青龍は『石』に収まるのだ。

 青龍が、登のカンガルー袋をクンクンと嗅ぐ。


『変な奴だ』

「何か、分かるのか?」


 青龍の髭がフワリと起き上がる。


『このままだと誕生しない』

「なぜだ?」


 麒麟の関しては、ヘルヴィウムも飼育したことがなく情報はない。


『想いの造形が定まっていないから』

「想いの造形?」

『ああ、こいつはどんな姿形なのか、こいつ自身が分からない。それは、人の想いがこいつを造形できていないから』


 登は、青龍の言葉にツキンと胸が痛くなる。

 確かに、四獣は明確な姿形を思い浮かべられる。だが、麒麟だけはふわりとした感覚でしか脳内に描けない。

 それは、登だけでなく多くの人間がそうであろう。


「『想いの造形』か。なら、俺が描けばいい。昔から絵が得意だからな」

『相変わらず、主は面白い』


 青龍の鱗が嬉しそうにきらめいたのだった。

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